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惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい  作者: ねこたまりん
第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ
34/55

尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(16)猫と教授

本文下の「あの世」コーナー。

今回はヒトマロくんに振り回されっぱなしの女皇帝が、煩悶しているようです。

 歌力開発事業団の研究棟に戻ったヒギンズは、熟睡している研究員たちの中から、巫術師と思われる者たちを探し出し、寝たままの状態で、次々と仮眠室へと転送した。


 全員を転送し終わったヒギンズが仮眠室に行くと、ミーノタウロスが、床に転がった若いの男の顔を、前足でぐりぐりと踏みにじっているところだった。


「知り合いか」


「ぶぶにゃん(そうにゃ)」


「なぜ踏む?」


「ぶぶにゃーん、ぶにゃ(こいつは、大嫌いにゃ)」


「サラと何かあったからか」


「にゃにゃーん(いたぶってたにゃ)」


「……幼い頃の話か」


「ぶにゃんにゃん(里にいた頃から、ずっとにゃ)」


「その話、あとで詳しく聞かせてもらおう。今はそいつの脳に用がある。ちょっとどいてくれ」


 ミーノタウロスが顔から足をどけると、ヒギンズは、男の頭に刺すような視線を向けて、詠唱した。


「その身に隠す罪禍に相応の罰として、身を削り尽くす悔恨と隷属とを命ず。我が最愛の友を救うために必要な情報を、全て開示せよ」


「ぐにゃーん(えぐい術だにゃー)」


 ミーノタウロスのつぶやきを無視したヒギンズの意識に、サラを陥れようとする計画が流れ込んできた。



「サラを失踪させて、事業団でのサラの業績を横取りし、一部の保守的な者たちで山分けにする…か。そこまでは予想通りだが、サラの居場所はどこだ?」


 ヒギンズは、男の脳に容赦のない圧を加えた。


「にゃんにゃー(脳が壊れないかにゃ)」


「少しくらい構わん。死なない程度にはしておく」


 男は苦悶の表情で呻いたが、サラの失踪についての詳しい情報は出てこなかった。


「にゃにゃんにゃ(こいつ、知らないみたいだにゃ)」


「うむ。他の者にも聞くとしよう」


 ヒギンズは同じ方法で残りの巫術師の脳を覗き終わると、なんとも言えない表情でミーノタウロスを見た。


「居場所は分からないが、一つだけ新しい情報があった」


「にゃんにゃ(何だにゃ)」


「床の男がサラの子の父親になるのだそうだが……ミーノタウロスは知っていたか」


「ぶにゃー(初耳にゃ)!」


「お前が知らないということは」


「にゃんにゃー(当然、サラも知らないにゃ)!」 


「聞きにくいことを尋ねるが、サラに、子は?」


「にぎゃー(出来てるはずないにゃ)!」


 ミーノタウロスが後ろ足で男の頭を散々に蹴り付けるのを放置して、ヒギンズは思考をめぐらせた。


「表向きサラを失踪させて、どこかに幽閉し、歌力開発の仕事をさせる気か…」


 床の男の顔が引っ掻き傷だらけになると、ミーノタウロスは別の巫術師の顔を爪の餌食にし始めた。


「子を産ませ、サラを縛り付ける人質にする……推測するのも不快な策だな」


「にゃっ、にゃにゃっ(こいつらは、そういう連中にゃ)!」


 ヒギンズは、顔がみみず腫れだらけになった巫術師たちを見下ろしながら、静かな声で、ミーノタウロスに尋ねた。


「巫術師の里とやらを、滅ぼしてもいいと思うか?」


「にゃーー(最高にいい考えにゃ!)」


「では、行くか」


「にゃおー(行くにゃ)!」



 いかなる時でも冷静沈着であることで知られるヒギンズ卿は、いま、完全にブチ切れていた。


 そして、元から巫術師の里に恨み骨髄だったミーノタウロスは、完全にやる気だった。


 止める者のいないまま(いても止められなかっただろうが)、二人は巫術師の里へと転移して行った。



 

+-+-+-+-+-+-+-+-


姫様


「教授よ、サラはそっちではないぞ!」


志斐嫗(しいのおみな)


「ここで叫んでも、聞こえませんよ」


姫様


「うぬぬぬ、なんとも、もどかしいのう」


志斐嫗


「まあまあ落ち着いて、カエルの煮付けでもいかがです?」


姫様


「いらぬ!」


志斐嫗


「そういば、ヒトマロめが歌を置いて行きましたよ」


姫様


「なんじゃ、カエルの歌か?」


志斐嫗


「いえ、あの巫女にちなむ歌ではないかと」


姫様


「なに? 見せてみよ」


────────


ぬばたまの 夜霧に隠り 遠くとも (いも)が伝へは 早く告げこそ


────────


姫様


「……あの教授にとって、妹といえばサラであろう。サラについての情報を、早く教授に告げよと言うのか?」


志斐嫗


「そういうことでございましょうなあ」


姫様


「むむむむむむむむ…」




*ヒトマロの歌


ぬばたまの 夜霧に隠り 遠くとも #妹__いも__#が伝へは 早く告げこそ


(万葉集 巻第十 2008 柿本人麻呂)


【意訳】


夜で真っ暗だし、霧は出てるし、メッセンジャーするのも大変だろうけど、彼女の情報は、早く伝えたほうがいいと思うよー。




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