尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(16)猫と教授
本文下の「あの世」コーナー。
今回はヒトマロくんに振り回されっぱなしの女皇帝が、煩悶しているようです。
歌力開発事業団の研究棟に戻ったヒギンズは、熟睡している研究員たちの中から、巫術師と思われる者たちを探し出し、寝たままの状態で、次々と仮眠室へと転送した。
全員を転送し終わったヒギンズが仮眠室に行くと、ミーノタウロスが、床に転がった若いの男の顔を、前足でぐりぐりと踏みにじっているところだった。
「知り合いか」
「ぶぶにゃん(そうにゃ)」
「なぜ踏む?」
「ぶぶにゃーん、ぶにゃ(こいつは、大嫌いにゃ)」
「サラと何かあったからか」
「にゃにゃーん(いたぶってたにゃ)」
「……幼い頃の話か」
「ぶにゃんにゃん(里にいた頃から、ずっとにゃ)」
「その話、あとで詳しく聞かせてもらおう。今はそいつの脳に用がある。ちょっとどいてくれ」
ミーノタウロスが顔から足をどけると、ヒギンズは、男の頭に刺すような視線を向けて、詠唱した。
「その身に隠す罪禍に相応の罰として、身を削り尽くす悔恨と隷属とを命ず。我が最愛の友を救うために必要な情報を、全て開示せよ」
「ぐにゃーん(えぐい術だにゃー)」
ミーノタウロスのつぶやきを無視したヒギンズの意識に、サラを陥れようとする計画が流れ込んできた。
「サラを失踪させて、事業団でのサラの業績を横取りし、一部の保守的な者たちで山分けにする…か。そこまでは予想通りだが、サラの居場所はどこだ?」
ヒギンズは、男の脳に容赦のない圧を加えた。
「にゃんにゃー(脳が壊れないかにゃ)」
「少しくらい構わん。死なない程度にはしておく」
男は苦悶の表情で呻いたが、サラの失踪についての詳しい情報は出てこなかった。
「にゃにゃんにゃ(こいつ、知らないみたいだにゃ)」
「うむ。他の者にも聞くとしよう」
ヒギンズは同じ方法で残りの巫術師の脳を覗き終わると、なんとも言えない表情でミーノタウロスを見た。
「居場所は分からないが、一つだけ新しい情報があった」
「にゃんにゃ(何だにゃ)」
「床の男がサラの子の父親になるのだそうだが……ミーノタウロスは知っていたか」
「ぶにゃー(初耳にゃ)!」
「お前が知らないということは」
「にゃんにゃー(当然、サラも知らないにゃ)!」
「聞きにくいことを尋ねるが、サラに、子は?」
「にぎゃー(出来てるはずないにゃ)!」
ミーノタウロスが後ろ足で男の頭を散々に蹴り付けるのを放置して、ヒギンズは思考をめぐらせた。
「表向きサラを失踪させて、どこかに幽閉し、歌力開発の仕事をさせる気か…」
床の男の顔が引っ掻き傷だらけになると、ミーノタウロスは別の巫術師の顔を爪の餌食にし始めた。
「子を産ませ、サラを縛り付ける人質にする……推測するのも不快な策だな」
「にゃっ、にゃにゃっ(こいつらは、そういう連中にゃ)!」
ヒギンズは、顔がみみず腫れだらけになった巫術師たちを見下ろしながら、静かな声で、ミーノタウロスに尋ねた。
「巫術師の里とやらを、滅ぼしてもいいと思うか?」
「にゃーー(最高にいい考えにゃ!)」
「では、行くか」
「にゃおー(行くにゃ)!」
いかなる時でも冷静沈着であることで知られるヒギンズ卿は、いま、完全にブチ切れていた。
そして、元から巫術師の里に恨み骨髄だったミーノタウロスは、完全にやる気だった。
止める者のいないまま(いても止められなかっただろうが)、二人は巫術師の里へと転移して行った。
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姫様
「教授よ、サラはそっちではないぞ!」
志斐嫗
「ここで叫んでも、聞こえませんよ」
姫様
「うぬぬぬ、なんとも、もどかしいのう」
志斐嫗
「まあまあ落ち着いて、カエルの煮付けでもいかがです?」
姫様
「いらぬ!」
志斐嫗
「そういば、ヒトマロめが歌を置いて行きましたよ」
姫様
「なんじゃ、カエルの歌か?」
志斐嫗
「いえ、あの巫女にちなむ歌ではないかと」
姫様
「なに? 見せてみよ」
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ぬばたまの 夜霧に隠り 遠くとも 妹が伝へは 早く告げこそ
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姫様
「……あの教授にとって、妹といえばサラであろう。サラについての情報を、早く教授に告げよと言うのか?」
志斐嫗
「そういうことでございましょうなあ」
姫様
「むむむむむむむむ…」
*ヒトマロの歌
ぬばたまの 夜霧に隠り 遠くとも #妹__いも__#が伝へは 早く告げこそ
(万葉集 巻第十 2008 柿本人麻呂)
【意訳】
夜で真っ暗だし、霧は出てるし、メッセンジャーするのも大変だろうけど、彼女の情報は、早く伝えたほうがいいと思うよー。




