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惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい  作者: ねこたまりん
第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ
33/55

尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(15)女皇帝の伝言

本文下の「あの世」コーナー。

今回は、お料理のお話です(たぶん)。

「サラが消えた?」


 ヒギンズは、セバスティアヌスの言葉の意味を理解しかねた。


「どういうことだ」


「数分前、サラ様のプライベートスペースに続く廊下にてお声を掛けましたところ、強制転移の術式に絡めとられ、そのまま見失いマシタ」


「追尾できなかったのか」


「魔力の残滓が拾えぬほど、鮮やかな手際でシタ」


「魔具などを使って、サラが自分で転移した可能性は……ないな」


「ハイ。サラ様は、私に何か報告をしたそうなご様子でシタ。何もお言葉を残さず突然消えるなど、ありえまセン」


「ぶにゃーん」


 食堂にいたミーノタウロスが、エントランスに出てきた。


「ミーノ…サラに着いていかなかったのか」


 ミーノタウロスは、悄然と首を横に振った。


「お前も追跡を阻まれたのか」


「ぶにゃーん(そうだにゃ)」


「契約している精霊をも阻むということは……巫術の秘技だな」


「ぶにゃにゃーん(ご名答にゃ)」


「相手は巫術師組合の者か。今日の件の報復か、あるいは元からの計画か」


 考え込むヒギンズに、セバスティアヌスが女皇帝の言葉を伝えた。


「先刻までこちらにいらした、さらら様から、ご主人様への伝言がゴザイマス」


 セバスティアヌスは、女皇帝の音声を再生した。


──サラがまもなく城から消えるかもしれぬ。行方が分からなければ、獣の神の力を借りて、歌を手掛かりとするように……そう伝えよ。



「女皇帝が、ここに来ていたというのか」


「ハイ。自発的にいらしたとかで、研究所内に仮宮をお作りになりましたので、サラ様と共に、オモテナシをいたしまシタ」


「自発的にとは……サラの口寄せなしに具現化できるということか」


「そのようでゴザイマシタ」


 ほとんど超常現象と言っていい事態が留守中に起きていたことに、ヒギンズは頭痛のようなものを感じたけれども、いまはそれどころではなかった。


「獣の神とは、ミーノタウロスのことだろうが、歌を手掛かりとするとは、どういうことだろうか」


 ヒギンズは、女皇帝の白妙の衣の歌を思い返してみたけれども、ヒントをつかむことはできなかった。


「ミーノタウロス、何か思いあたることはないか」


「ぶにゃーん(ないにゃ)」


「だろうな」


「ぶにゃにゃ(そういう教授も、無為無策だろうにゃ)」


「いや、誘拐犯が巫術師であることは、ほぼ間違いないだろうから、その線で動いてみようと思うが…」


 ヒギンズは、ついさっき捕縛したケイデイ・オワーズのことを思い出したが、面会する気にはならなかった。


(あれと会話して、まともに情報が取れるとは思えん。オワーズ家の者たちも似たり寄ったりだ。となると、事業団の研究棟にいた、他の巫術師たちか)


「ぶにゃにゃ?(どうするにゃ?)」


「一度、事業団に戻る。研究棟で寝不足の研究員たちが気絶しているだろうから、叩き起こして話を聞く」


「ぶにゃ(共に行くにゃ)」


「お前も来るのか?」


「にゃーにゃにゃ(下っ端の巫術師の心を読むくらいなら、朝飯前にゃ)」


「分かった。成果があれば、夜食を進呈しよう」


「にゃにゃにゃ!(その言葉を忘れるなよにゃ!)」


「何としても、今夜中にサラを取り戻す。セバスティアヌス、私が留守の間に、ここの守りを最大レベルまで上げておいてほしい。それと、サラを転移させた術が、なぜここの防壁を超えて発動できたのか、推論をまとめておいてくれ」


「わかりマシタ」 


「では行ってくる。なんとしても、夜明けまでにサラを取り戻す」


「ぶんにゃ!(もちろんにゃ)」


「お気をつけテ。皆様揃ってのお帰りを、お待ちしてオリマス」




+-+-+-+-+-+-+-+-



ヒトマロ


「姫様ただいまー」


姫様


「ヒトマロか……今度はどこに行っておったのだ」


ヒトマロ


「山だよ」


姫様


「どこの山か」


ヒトマロ


「ヨシノだよ」


姫様


「その手に握っているのは、もしや…」


ヒトマロ


「カエルだよ」


姫様


「ナマだな」


ヒトマロ


「ナマだよ」


姫様


「まさかとは思うが」


ヒトマロ


「姫様が食べるよ」


おじじ様


「ほうほう、ヨシノのカエルか。さらら、煮付けにしようぞ」


姫様


「ヒトマロよ……山へ行ったなら、山鳥とか、せめてキノコなどでも取らぬか」


ヒトマロ


「カエル、おいしいよ」


おじじ様


「カモメも(うま)し!」


姫様


「この我に、ゲテモノの宴を開けと言うか……」






*ヒトマロ……柿本人麻呂。天皇と一緒に吉野に旅行して、長歌を詠んでいる。


*姫様……持統天皇。吉野が大好きで、よく通っていたらしいが、カエル料理を食べたかどうかは不明。


*おじじ様……舒明天皇。持統天皇の祖父。



*ヒトマロの吉野の歌。


吉野宮に幸しし時、柿本朝臣人麻呂の作れる歌


やすみしし  わが大君の  聞しめす  天の下に  国はしも  さはにあれども  山川の  清き河内と  御心を  吉野の国の  花散らふ  秋津の野辺に  宮柱  太しきませば  ももしきの  大宮人は  船並めて  朝川渡り  舟競ひ  夕川わたる  この川の  絶ゆることなく  この山の  いや高知らす  水激つ  滝の宮処は  見れど飽かぬかも


万葉集 巻第一  36


【意訳】


僕の大王様が治めてるこの世界に、国はいっぱいあるけど、いちばん素敵なのって、

やっぱり吉野だよね。


だから、でっかい柱を打ち立てて、すごい宮殿を作ったら、都の人たちがいっぱい通ってくるようになったんだ。


ほら、今日もたくさん舟が来てるよ。

朝も夕方も、大きな川が大混雑。

まるで競争みたいだよね。


川がいつまでも流れてるみたいに、山がずっと高いままでいるみたいに、川が激流になってるところに建っている宮殿は、本当にすごいから、いくら見てても、飽きないなあ。


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