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惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい  作者: ねこたまりん
第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ
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尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(13)臨殿の下で

本文下の「あの世」コーナー。

今回は、ヒトマロくんとサルマロくんが、現代詩で遊んでいるようです。

 臨殿と呼ばれる大社(おおやしろ)は、巫術師の里の中央にある。


 大社は里の上空に浮遊していて、階段やが設置されていないため、徒歩で登ることはできない。


 『疾く参れ』と命じられ、強制転移させられたサラは、浮遊する大社の真下に放り出され、這いつくばるような姿勢を取らされていた。


 この場で立ち上がることも、顔を上げて大社を見ることも、サラには許されていない。


 身を固くして待っていると、玉砂利を踏む音が聞こえてきた。



「愚かだな。罪人の子が、分をわきまえぬ真似をすればどうなるか、知らぬわけではなかろうに」


 聞き覚えのある無機質な声が、サラを処断する。


「よいか。今後、歌力事業に関わることは許さぬ。あれは他家が引き受けることになった」


「え…」


 サラの脳裏に、ヒギンズの館を訪れていたケイテイ・オワーズの姿がよぎった。


(彼女がやるのか? まさか…オワーズ家は魂の想念の具現化を真っ向から否定する家門ではないか)


 無機質な声は、サラの思考を読んだかのように、言葉を続けた。


「ふん、古歌(こか)の賦活が(おのれ)にしか出来ぬと、思い上がっているのだろうが、貴様など、所詮は真っ当な術の叩き台ができるまでの捨て駒に過ぎぬと知れ。想念の具現化などという野蛮な手立ては、我らには必要ない」


 サラには、自分の価値を頭から否定する言葉を、ただ受け止めるしかなかった。

 

 声の主は、頭上に浮かぶ臨殿の主の意向そのものであり、巫術師の里の総意でもある。それに逆らうことは、巫術師ではなくなるということだった。


「レックス・ヒギンズ卿との関係も、今日限り断つように。もっとも事業団で用無しとなった貴様などには、卿は目もくれぬだろうがな」


「……」


 サラが自宅ごとヒギンズに匿われていることを、頭上の声の主はまだ知らないらしい。


 けれども、「用無しには目もくれぬ」という言葉は、サラの胸に突き刺さった。


(役に立てなければ価値などないのは、当たり前のことだ。教授の善意に甘えることはできない…)


「しかし貴様には、生きている限り贖罪の義務がある。臨殿は、大罪を犯した貴様の家門を未来永劫決して許さぬと、肝に銘じよ」


「…はい」


「里への負債を返すために、傭兵として働くことだけは咎めずにおく。ただし目立つな。戦場で手柄を上げてもてはやされるなど、もってのほかだ。罪人であることを、常にわきまえよ」


 サラは声を殺して頷くしかなかった。


 声の主は、サラにとっては事実上の育ての親でもあったが、親と思うことは許されなかった。


 物心ついた時から、この声の主に従って、常に罪の意識を持つことを強いられながら、過酷な巫術の修行を行ってきた。


 孤独なサラに、巫術以外のことを教えてくれたのは、精霊たちだった。


 精霊たちは、周囲の目を盗んでサラの元に現れ、話し相手や遊び相手になってくれていた。


 魂の想念を具現化する歌の力に目覚めたのも、武術を身につけたのも、精霊たちや、育ての親に隠れて呼び寄せた魂たちとの触れ合いの中でのことだった。


 彼らとの出会いがなければ、サラは、巫術師の里の者たちの言いなりになるだけの、心を持たない傀儡に成り果てていたことだろう。


 そして、サラが心を持った人間に育ったことは、頭上の声の主にとっては、忌々しい失敗でもあるようだった。


「出来損ないの罪人の子が余計な知恵をつけぬように、もっと厳しく仕置くべきであった。次代はそのように取り計らうことにしよう」


 次代と聞いて、サラは身が震えた。


 それは、たとえ自分が消えても、幼い誰かが苦しみを引き継ぐということを意味する言葉だった。


(臨殿は、ブラックネルブを私で終わらせるつもりがないのか…)


「さて、下命である。貴様もよく知る赤土の戦場で、数日以内に魔獣の暴走が起きるとの先読みがなされた。最も激しい戦いになる場所も、すでに分かっている。そこへ飛ばすので、せいぜい死なぬように働け」


「……」


「貴様には子をなす義務もある。戦場から戻ったら相手を当てがう。罪人の家門であっても滅ぼさずに飼うのは、臨殿の大いなる慈悲である」


「……」


「逃げるなよ。もしも逃げれば」


「……分かっています」


「ふん。ならば行け」



 サラの身が再び転移の術に包まれ、玉砂利の上から消えた。




+-+-+-+-+-+-+-+-


〈あの世っぽいどこか〉


ヒトマロと、サルマロ


──つらいね

──ああ、見てて、つらいね

──あの子、ないてるね

──ああ、ないてるね

──もうすぐ戦になるね

──戦はいやだね

──あの子、震えてるね

──まわりの子も、震えてるね

──なぜこんなに、震えているのだろうね

──魂があるからだろうね

──魂取ったら、震えなくなるかね

──でも取りたくはないよね

──つらいね

──ああ、ないてるね

──なんか僕たち、蛙っぽいよね

──そうだね、秋の蛙っぽいよね

──あ、姫様へのお土産、蛙にしよう

──そうしよう


*ヒトマロ…柿本人麻呂。

*サルマロ…猿丸大夫.


*ヒトマロたちは、遠い未来の詩集を読んで、触発されたようです。


*二人が読んだらしい詩……草野心平「秋の夜の会話」


*古代日本では、カエルの煮込み料理があったそうです。(「日本書紀」巻第十 応神天皇紀による)




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