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惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい  作者: ねこたまりん
第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ
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尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(9)嫌疑

 サラが「さららの仮宮!」で過ごしていた頃。



 歌力開発事業団の研究棟を訪れていたヒギンズは、苦虫を噛み潰しながら、埒の開かない会話を終わらせようとしていた。


「ですからヒギンズ卿! 我々が今回発見した百の歌は、巫術師組合の協力のもと、一気に賦活すべきなのです!」


「やりたければ勝手にやればいい。ただし、私が組むのは、サラ・ブラックネルブだけだ」


 女皇帝の歌が、前回の歌よりも高歌力であることが確認されると、研究員たちはヒギンズを二重三重に取り囲み、噴火するような勢いで、新プロジェクトとやらについて語り始めた。


 ヒギンズが参加を断ると、どこからともなく事業団の理事たちまで現れて、執拗にヒギンズを引き留めにかかってきた。



「新プロジェクトのリーダーは、ヒギンズ卿に決定している。変更は認められない」


「そんな話は聞いていないし、やるつもりもない」


「エネルギー備蓄施設建設の予算については、ヒギンズ卿との直接交渉が条件だと、産業省も言っているのだ。参加は必至だ」


「それは以前からのことだろう。新プロジェクトとやらに、私が参加する理由にはならない」


 拒絶の姿勢を崩さないヒギンズに痺れを切らしたのか、激しく目の血走った研究員たちが、ぐいぐいと押し出て来た。

 

「でしたらヒギンズ卿、せめて直属の巫術師を増やしてください! ブラックネルブよりも有能な巫術師なら、今より効率よく賦活作業を進められるはずです!」


「そうですよ! 仕事が遅いだけでなく、毎度破壊行為を繰り返す巫術師なんか、予備に置いておくだけでも予算の無駄でしょう!」


「そうだそうだ! あんな役立たずは首にしちまえ!」


 それまでのサラの功績を踏み躙るかのような研究員たちの言い分に、ヒギンズは内心腹を立てつつも、どこか不自然なものを感じてもいた。


(今回の歌力量を知れば、何か仕掛けてくるだろうとは思っていたが……)


 事業団がサラと自分を切り離そうとしてくることは、ヒギンズもある程度予想はしていた。


(私に邪魔させずにサラを使い潰すつもりなのだろうが、こうもあからさま切り捨てにかかるとは……何が狙いだ?)



「事業の最大の功労者であるダークネルブの解雇が、理事会の意向だというのか」


 ヒギンズの問いに、理事の一人が答えた。


「巫術師ダークネルブは、連日の暴挙の始末もつけずに、行方不明になっていると聞く。このまま見つからなければ、解雇処分は免れない」


「行方不明だと? ついさっき提出した和歌は、彼女の巫術によるものだぞ」


「では、その証拠を示してもらおう」


「証拠もなにも、現時点でダークネルブ以外に和歌蘇生を完璧に行える者はいないはずだが?」


 まるで筋の通らない理事の物言いにヒギンズが苛立っていると、人垣の向こうから、さらに意味のわからない言葉が飛んできた。


「あの和歌を蘇生させたのは、私なんです」


 人垣の一角が割れて姿を見せたのは、王都のヒギンズ邸で居留守を食らっていた者だった。


 巫術師組合期待の若手だとサラが言っていた、その巫術師は、桃色の祭服の肩に同色の髪を垂らし、しずしずとヒギンズに歩み寄って来た。


「やっとお会いできました、ヒギンズ様…」




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