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惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい  作者: ねこたまりん
第二章 名もなき古話の神々は、漂泊の歌姫に祝福を与ふ
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尾の長すぎる怪鳥は、眠れぬ恋を啄み呪う(2)魔樹森林の研究所

「北の魔樹森林は知っているか?」


 ヒギンズが口にした場所は、この世界でも有数の秘境とされるところだった。


「名もない森、だったか。魔力を蓄えた魔樹や魔草が、人を寄せ付けないと聞くが」


「寄せ付けないというか、呼び寄せて二度と返さないので、誰も寄りつかないんだよ。うっかり入り込んだ人間は、魔樹に捕食されるか、魔導虫の苗床にされるなどして、森林と一体化することにる。骨は魔鳥の巣材。残り(かす)は、魔草の肥やし。迷い人の所持品などは、森と共生している妖魔たちが蓄えていて、時折、市を開いている。『ニンゲンに捨てるところナシ』というのが、彼らの弁だ」


「いやな森だな…」


「北方の国との境界にあるので、どちら側からも侵入ができないようになっている。つまり、無人の森林なのだが、そこに、私の研究所の一つがある」


 魔の森よりも、目の前のヒギンズのほうが、よほど得体の知れない魔人なのではないのかと、サラは心の中でつぶやいた。



「もはや、何に驚けばいいのか分からないんだが。人を寄せ付けない森に、どうやって研究所を建てたんだ?」



「簡単なことだよ。研究所が存在している空間を、知覚誤認の魔術を施した防護壁で密封し、森林の最奥部に挟み込んだだけだ。その空間の中にいても、人とは認識されないから、森に攻撃されることはない」


「元老院があなたを特別視する理由が、よく分かったよ…」


「私など、たいしたことはない。君の隣人の技量は、間違いなく私よりもはるかに上だよ」


「二度会っただけだが、彼女もなかなか計り知れない感じではあったな。錬金術も料理も出来る才人で…そこは教授と似ているな」


 やはり料理は覚えたいと、サラは心の中で小さく決意した。



「話を戻すが、提案というのは、その北の魔樹森林にある研究所を、今日から君の居宅として、秘密裏に使ってもらいたいということだ」


「一時的な避難所として、お借りするということだな。願ってもないことだけれども…」


「いや、所有権は譲渡するので、できればずっと住んでもらいたいんだ」


「え? ずっと…って、教授?」


 思いもよらない提案に、サラは狼狽(うろた)えた。


「この事業で君と組んだときから、いずれは共有の研究所を持ちたいと思って、いろいろ計画は立てていたんだよ。北の研究所は、試験的に設置したものだから、規模は小さいが、居住空間はそれなりにしっかり作ったつもりで……サラ、どうした?」


 ヒギンズと自分の、共有の研究所。


 そう聞いた途端、サラの脳内は無数の大竜巻に襲われた状態になっていた。


「……」



 目を開いたまま気絶に近い状態になってしまったサラに気づいて、ヒギンズも狼狽えた。


「あ、いや、サラ……決して変な意味での話ではなくてだな、事業団の研究班が完全にアレな状態だろう? 落ち着いて和歌探索や研究を進めるためにも、君の作業環境は、きちんと独立性を保てたほうがいいだろうと」



「……」


「研究スペースはもちろん、居住空間には、君以外は誰一人、魔虫の一匹たりとも侵入できないように、最強レベルの魔術を組んである。あ、君が呼ぶ精霊は別だが」


「教授も、入らない…?」


「もちろんだ! 安心して住んでくれ」


「…分かった。ありがたく使わせていただく」



 自分よりずっと年若い娘であるサラを安心させようとして矢継ぎ早に言葉を繋いでいたヒギンズは、自分の大失言に気づいていない。



(そうか。魔樹大森林に、私、一人か……そうだよな)



 ヒギンズとしては、共有する研究施設で、サラを安全に守りながら、これまで以上に共に過ごし、共同で研究を深めていこうと考えていたのだが、言葉にしなければ、サラに伝わるはずもない。



「ぶにゃーん」


 二人の気持ちのボタンが掛け違っていることに、ミーノタウロスだけは気づいていたが、すぐに教授に教えてやる気はなかった。



「ぶーにゃーん」


(猫精霊を(あが)めない朴念仁は、ちょっとくらい痛い目を見とくべきにゃ。サラには、にゃーたちがいるから大森林だろうと全然平気にゃ)



+-+-+-+-+-+-+-+-



ちょっと幼児返り気味の女皇帝


「もどかしい二人だのう! あんなにサラを寂しがらせては、芽吹くものも芽吹かずに枯れるではないか! ほれっ、教授とやら! そこで手を取って抱き寄せるのじゃ!」


早死にした皇子


「何やってんですか、母上」


ちょっと幼児返り気味の女皇帝


「なっ! 草壁っ?!」


早死にした皇子


「人の恋路の覗き見とか、馬に蹴飛ばされる案件では?」


ちょっと幼児返り気味の女皇帝


「いや、これはだな、若い二人にシアワセになって欲しいという、切なる思いに突き上げられてだな!」


早死にした皇子


「僕の恋路は、散々邪魔してませんでしたっけ?」


ちょっと幼児返り気味の女皇帝


「そっ、そなたは既婚者だったろうが! 年増の愛人なんぞ息子に作られても覗き甲斐もゲフンゲフン」


早死にした皇子


「年増ねえ。妻も僕の叔母上でしたけどね。母上の妹。僕より年上」


ちょっと幼児返り気味の女皇帝


「なんじゃ、いまさら反抗期かや! 受けて立つぞ! ゴルァ!」


早死にした皇子


「面白いから、ちょっと揶揄(からか)いに来ただけですよ、枯れ専の母上をね。じゃ、またそのうちイジリに来ますねー」


ちょっと幼児返り気味の女皇帝


「我は枯れ専などではないわ! ったく、あやつは死んでから余計に生意気になって、手がつけられん!」




*ちょっと幼児返りした女皇帝……持統天皇。


*早死にした皇子……草壁皇子。持統天皇の息子。


*皇子の妻(叔母上)……元明天皇。持統天皇の異母妹。

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