骨肉の争いに疲れた女皇帝は、純白の屍衣を身に纏う(13)女皇帝の孤独
本文下の「あの世っぽい世界」、今回は、女皇帝の夫と、その息子たち(異母兄弟)が、賑やかに会話しています。
──誤解するでないぞ。その者は、我が手を下さずとも、勝手にこの世を去ったのだ。
「勝手に?」
──そう、勝手にだ。人はよく死ぬ。あっさりと、軽々しく去っていく。生まれる時には、あれほど母の腹を痛めつけ、命を吸い取らんばかりに奪いながら生まれてくるというのに、死ぬ時には母など捨て置いて、呆気なく逝く。要らぬ悲しみばかり残こしてな。
「……」
──そやつも夫の息子だったが、とにかく有能で人望も厚くてな、我の右腕として、よく働いてくれてもいた。我にとっては腹を痛めぬ息子でもあり、幼い孫を即位させるために、この上なく邪魔でもあったが、我が手で死に至らしめようとまでは思わなかった……はずなのだ。
「はず…ですか」
──けれども死んだ。しかもその死が、孫の即位を確固たるものにしてくれた。そしてまたしても、我は泣くに泣けなかったのだ。
「はい…」
──まあ、我が命ぜずとも、意を汲んで何かをした輩が絶対にいなかった、とは言い切れんがな。
「……」
父を憎み、夫を失い、息子にも死なれた女性が、たった一人で歩み続けるには、あまりにも血塗られた孤独な道だと、サラは思った。
(この方はとても強い。寂しさなどでは決して心折れぬほどに強い。けれども、その強さこそが、私には痛みに思えてならない。泣くことのできない強さなど……きっと私には、耐えられないだろう)
そんな思いを巡らすサラに、女皇帝は、柔らかな笑みを向けた。
──ん? なんだ、腹でも痛むような顔をして。我の話に食あたりしたかや?
「はい…じゃなくて、いえ、そんなことは」
──巫女よ、そう気を張り詰めるでない。枯れかけた魂の昔語りなど、ゆるゆると聞き流しておけばよいのだ。行き過ぎた生真面目さなど、巫女にとっては、早死にの元だからな。
「恐れ入ります…」
──ふふふ。遠き昔、我の身近な者たちも、よくそんな情けない顔をしておったよ。あの者たちは巫女ではなかったが、我の心の内を、我よりも敏く感じ取っていたものよ。
「みなさんきっと、皇女様を心配されていたのでしょう」
──そうかもしれぬな。
誰よりも高貴で強い心と、権謀術数に飲まれることなく使いこなす知性を持っている女性なのに、なぜだか心配で目が離せない。親しく仕える者たちにとって、彼女はそんな女皇帝だったのではないかと、サラは想像した。
──さて、話を戻すが、その右腕だった者の死が、いま汝の手元にある我の歌を詠んだきっかけではあった。
いよいよ話が核心に近づいたことを感じて、サラは身を引き締めた。
+-+-+-+-+-+-+-+-
〈あの世っぽい世界〉
疲れた女皇帝の夫だった皇帝
「そういえば、俺の息子って、何人くらいいたの?」
勝手に死んだらしい有能な息子
「十人くらいじゃないですかね。いつの間にか消えちゃった弟とかもいたし、正確な数は分かんないですけど」
疲れた女皇帝の夫だった皇帝
「よく覚えてないんだけど、俺に似た子って、いた?」
濡れ衣を着せられて殺されたらしい息子
「いませんね。僕も含めて、びっくりするほど、みんな父上に似てませんでしたよ」
殯ストレスで死んだらしい息子
「顔はともかく、性格がね。父上くらいタフだったら、俺らの人生もっと楽勝だったと思わねえ?」
勝手に死んだらしい有能な息子
「だよね。あんな強烈なお方を皇后に据えるっていうのがね、我々じゃ無理ですわ」
*疲れた女皇帝の夫だった皇帝……天武天皇。
*勝手に死んだらしい有能な息子……高市皇子。天武天皇の息子。
*濡れ衣を着せられて殺されたらしい息子……大津皇子。天武天皇の息子。
*殯ストレスで死んだらしい息子……草壁皇子。天武天皇の息子。




