規格外
光にラゾールが反応した時には既に10名以上のプレイヤーが倒された後であり、あっという間に閃光に近いプレイヤーから次々にその場から問答無用で消滅していく。
事前に全員に付与されていた即死耐性も全く効果がなく、その閃光に対応する余地も介在しなかった。
不気味な光は瞬く間にプレイヤー達をかき消し、ラゾールもターゲットを視認することもなく他のプレイヤー共々に即死してしまう。
「なんなんだこの光は―」
その理不尽なまでの攻撃射程による強制的な即死攻撃は圧倒的だった。
ここまで一方的にやられたのは久々の体験であり、現行アップデートでの最高レアリティ装備がまるで無意味だ。
そして、事前の情報通り蘇生不可での一方的な死亡判定。
次に気付いた時には復活ポイントであるギルド拠点に転送され、憎々しくも経験値ロストのペナルティが適応されていた。
(…損失経験値800万。おまけにレベルダウンか…おいおい、何の冗談だよこれは!)
モンスターの視認も出来ず、一方的な超射程攻撃でラゾールを含めた30人の強豪プレイヤーは為す術もなく全滅。
結果、全員が一律膨大な経験値ロストからのレベルダウンとなってしまった。
その損失は数日分のプレイ時間に相当するものであり、復活ポイントで目覚めたプレイヤー達は口々に文句を言いながら、ほとんどのプレイヤーは即座に課金で経験値を復活させる。
「なんだよアレ! チートかよ! あの射程で即死攻撃!? モンスターの姿すら拝んでないぞ!」
「絶対倒せないだろアレ…ふざけんなよ運営!」
「俺たち敵対すらしてないよな? なんで先制攻撃されたんだ? 感知範囲バグってるのか?」
「あぁ…今月もう金ないぞ!…はぁーガチャの資金がぁ…」
(………)
理不尽な敗北に不満を募らせるプレイヤー達を黙って見つめるラゾール。
自分自身も相当なペナルティを受けたにも関わらず、まとめ役として責任と憤りを感じていた。
リーダーとしては申し訳ない気持ちもあったが、あんな理不尽な状況では仕方がなかったともボヤきたくなる。
初見殺しというのもあるが、さっきのアレは異常だったからだ。
だが、収穫もなかった訳ではない。
攻略の手がかりも僅かながら手に入った。
(カンスト級のダメージが結果的に即死と印象付けたことになるが…あのレンジでそんな攻撃が可能なのか? まともじゃないな…イカれてやがる)
他にも気づいているヤツも居ると思うが、まず、例の即死攻撃が実際には【即死攻撃ではない」ということが実際に攻撃を受けたことで判明。
聖者の加護を貫通して即死効果をもたらすこと自体はゲーム仕様上はあり得る事象だが、その際に無効化された聖者の加護のバフは消える。
だが、今回は他のメンバーの様子を見ていたが死亡時にバフが消えた様子はない。
つまりそれは、あの攻撃が即死系の魔法やスキルによる攻撃ではないということになり、【即死級のダメージ】を負った結果の死亡という結論になる。
(タンク職を一撃で沈める火力。無敵系のスキルか軽減系の補助魔法で乗り切れるか? なんにせよ長期戦は不可能だな。だが、最大の問題はあの異常な攻撃射程…遮蔽物がない平原では一方的に狩られるだけなのか…)
予期せぬ攻撃にメンバー全員が瞬殺されてしまい、独自に戦闘内容の考察と分析をその場で行うラゾール。
実際にラゾールの考えは的中しており、GM武器の即死攻撃は規格外の攻撃力によってもたらされるカンスト級のダメージによるものだった。
それ故に工夫次第では何度か防ぐことも不可能では無いと考えるが、連射可能な規格外の攻撃を超射程から継続的に凌ぐ手段は今のところ存在せず、頭を悩ませる。
(タンク職を縦一列にして、そのまま突進…いや、あの攻撃が貫通効果の場合は無意味か。そもそも接近してそのまま数手で倒せる保障もない。もしくは弱体化のギミックでもあるのか?…はぁ、これは再戦前の打ち合わせは必須だな」
そして、それから程なくしてラゾールは早期の再戦前に一部のメンバーで打ち合わせをすることにした。
その打ち合わせはギルド拠点にある広間で行われ、主に新規実装コンテンツの攻略会議などで利用されている。
本来はフィールド出現のレアPOP程度では実施しないのだが、余りの強さにラゾールは打ち合わせが必要だと判断したのだ。
他のメンバーもその提案には概ね賛成であり、大きな円卓を囲みながらそれぞれ椅子に腰掛け、先ほどの戦闘の件について意見交換を始める。
「まずは率直な俺の感想だが…アレは普通に相手をして狩れるモンスターではないと思うがどうだ? バケモノ射程からの広範囲の即死級攻撃なんて規格外すぎる」
まとめ役のラゾールがまずは発言し、他のメンバー達に意見を求める。
すると、それぞれメンバーが自身の考えを順々に共有していく。
「あれが仕様的にも普通じゃないのは明らかだと思うけど、情報が少なすぎてなんともねぇ…」
「そもそもあれのPOP条件は? どうして突然あんな場所に現れたんだ?」
「最初に遭遇したネイド達が言っていたが、覇王の免罪符のデメリット効果で発生した討伐不可モンスターの可能性は? 出現条件は…NPCの一定数殺害とか」
「確かに、アレを経験値稼ぎに使ってるのは俺らの勢力ぐらいだろうからな。アメストリア姫なんてブチ切れて運営に凸ったらしいぜ」
「アタシも免罪符のデメリット…というかペナルティ説推しかな。モラル的な問題もあるから運営が仕組んだ可能性もあると思う」
話し合いの流れは、とあるプレイヤーの発言を切っ掛けにモンスターの出現条件にスポットが当てられ、モンスターの出現は【覇王の免罪符】による一定数のNPCへの虐殺行為がトリガーになったのではないかと論じられた。
そもそも、本来の覇王の免罪符の使用用途は支配地域の武装化や要塞化というような支配地域の強化目的で販売されており、他勢力に支配地域を奪われ難くするためのものであった。
だが、闇夜の狂想曲の面々はそれを自分達の強化に使用し、支配地域の村々を狩場として利用。
その結果、NPCへの敵対行動を抑制するために運営が用意した強力モンスター発生のトラップ説が浮上する。
実際には運営側はそんな対策は一切していないのだが、ラゾールも含めその場では覇王の免罪符のデメリット説が濃厚となっていく。