1対30
ネポン村の跡地に続々と終結するプレイヤー達。
そのプレイヤー達は【闇夜の狂想曲】という周辺を支配しているギルドの一つに所属するヴィランプレイヤー達だった。
ギルドのプレイスタイルは先に村を襲ったプレイヤー達同様に攻撃的であり、戦闘狂のメンバがー多い。
加えてNPC達を軽視しており、自分たちの利益のためなら殺害も自己責任ということで容認している。
無論、それはNPCが完全なAIという認識のもとで行われている行為であり、彼らもまた生体NPCの存在については認知していない。
そして、村に集まったのはギルドの中でも高位のプレイヤー達ばかりであり、アンリアルファンタジアの中でも上位層に位置付けされているプレイヤーの姿もあった。
「ラゾールさん。流石にこのメンツは過剰すぎませんか?」
「うん?」
一人のプレイヤーがラゾールと呼ばれる背中に大きな斧を背負い、その身を真紅のフルプレートアーマーを着込んだ大柄なプレイヤーにそう告げる。
ゲームでは最大6人で一つのチームを組むことができるのだが、この時は5チームという大規模な編成が行われており、過剰な戦力招集ではないかとの指摘だった。
「いや、ネイド達の話だと敵は蘇生不可付与の即死攻撃持ちだ。しかもそれを連続で放ってくるとか…とにかく情報も少ないんだから用心した方がいいだろう。…それともなんだ、アイテムドロップの競争率が上がるのが嫌か?」
「まぁ、本音はそんなとこですけど…獲物は見たこともないモンスターだって聞いたんで」
一体のモンスターを狩るのに戦力が過剰ではないかと指摘されるが、ラゾールは事前に得ていた情報から健太の危険度をある程度把握していたので、用心に越したことはないと返答。
だが、当の本人が本当に気にしていたのは討伐後のことであり、それを指摘されてレアドロップ狙いを認めるプレイヤー。
ゲームでは珍しいモンスターを討伐した際、仕様により稀にレアなアイテムがドロップする。
闇夜の狂想曲ではドロップしたアイテムはくじ引きで持ち主が決まるルールになっており、そのプレイヤーは討伐人数の多さからレアアイテム取得の競争率がることを嫌悪していたのだ。
「チャンスは平等だ…今日の自分の運を信じるんだな」
ラゾールは闇夜の狂想曲のギルドマスターでもあることから、このように集まったプレイヤー達の意見や要望を聞きながら不満が出ないように総括する役目もこなしていた。
そもそも彼らの目的は、ギルドメンバーが偶発的に遭遇して全滅させられた強力なレアモンスター(健太)の討伐にあり、仇討ちというよりはほとんどのプレイヤーがモンスター討伐時に得られる報酬を目当てに出向いて来ていたのだ。
また、過去に遭遇した記録のないモンスターという情報だけでも興味を引くのには十分な要素でもあった。
「さて、敵の位置は情報通り。ここからでは視認できないが…まぁ、安全域だろう。だが、いつ消失するかも分からないから一気に全員で仕留める。まずはメンバー全員に即死耐性のバフを付与してくれ。獲物は即死攻撃をばら撒く死神みたいなヤツらしいからな」
「随分と物騒なモンスターですわね。では、開幕は私が代表して皆さんに加護を付与しますわ。戦闘中はそれぞれ臨機応変にということで」
「あぁ、頼むぞカヌープ」
事前に健太の位置をメンバーから共有されていたラゾール。
念のためにかなりの距離を置きつつ、周辺MAP上に唯一表示されている攻撃可能オブジェクトをターゲットと認識し戦闘準備に取り掛かる。
手始めにラゾールの指示でカヌープと呼ばれる女性キャラが杖を掲げ、メンバー全員に即死耐性の魔法を付与。
メンバーに付与されたのは【聖者の加護】と呼ばれるゲーム内での即死効果を一度だけ無効化する補助魔法であり、健太の放つ即死攻撃への対策だった。
その後、他の補助魔法の付与も含めてセオリー通りに次々と補助魔法を付与していカヌープ。
やがて全員への魔法の付与が終わると、いよいよラゾールは攻撃指示を出す。
「よし、まずは無難に遠隔攻撃で様子見といこうか…いくぞ!」
ラゾールの指示と共に戦闘準備を始めるプレイヤー達。
総出で健太に詰め寄る最中、まずは遠距離攻撃が可能なプレイヤー数名が先行して射程距離ギリギリの位置を陣取る。
プランとしては、一斉に遠距離攻撃を放つと同時に敵の出方を確認しながら戦闘開始になる手筈だった。
飛び道具や杖を構え、先制攻撃タイミングを合わせるために各自が強力な詠唱やスキル発動の準備を始める。
通常、ゲーム中でのモンスターのプレイヤー感知範囲はそこまで広く設定しておらず、約5m範囲で様々な感知条件に基づいてプレイヤー達への攻撃を開始。
故に5m以上の射程を持つ攻撃は実質的な先制攻撃となる。
この戦闘では100m程度の距離を確保しており、モンスターの姿すらまともに視認できない距離からの攻撃だった。
予定ではその後、遠距離での最大火力による開幕攻撃が成功した後にタンク職と呼ばれるパーティーの盾役を先頭にして近接攻撃職のプレイヤー達が突撃。
遠距離攻撃の支援を受けながら、モンスターに攻撃を仕掛ける段取りとなっていたのだ。
(さて、開幕バーストでどれだけ削れるか…5、4、3―)
この時、既にラゾールは戦闘開始後のことについて考え始めていた。
だが、先制攻撃が今まさに放たれようとしていたカウントダウンの最中、想定外の事態が突如発生する。
なんと、会敵していない状況で相手側から先制攻撃を仕掛けてきたのだ。
「なっ!?」
その赤黒い閃光はなんの予兆もなく俺たちを薙ぎ払うように突然視界の右手から現れた。
十分な距離は保っていたのにも関わらず、モンスターが先制攻撃を仕掛けてきたのだ。
しかも、その攻撃射程は俺が知っているどの魔法やスキルよりも長い。
(この射程は…あり得るのか!?)
そんなあり得ない事態の連続に困惑していると、次々と視界に映るパーティーメンバーのステータスが死亡表記に切り替わっていく。
どうやらこの正体不明の攻撃は、報告にあった例の即死攻撃のようだ。