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邂逅

理由は分からないが、何故か俺を目指してどんどん近づいてくるモンスターの群れ。



「な、なんだよあれ!? どうしてこっちに…」



迫るモンスターらしき群れから距離を取ろうと慌ててその場から逃げ出す健太だが、小屋から少し離れた場所まで走った際に身体に変化が起きる。



「!? な、なんだ?…身体が動かない?…いや、これ以上先に進めないのか?」



突然身体が動かなくなり、どうやってもある一定のラインから先に進めなくなってしまった俺。


金縛りというか、目の前に見えない透明の壁のようなモノがある感じだった。


とにかくそれ以上進もうとすると一歩も前に踏み出せず、背後に迫るモンスターの群れ。



「だ、駄目だ…もう追い付かれる…っ!?」



群れの方に振り返ると、健太の想像以上の速さでいつの間にか背後には大量のモンスターの姿があった。


そこには可愛らしい容姿のモンスターから、ギラギラと煌びやかに輝く竜など多種多少のモンスターの姿があり、幸いにも健太に危害を加えるつもりはない様子だ。


また、よくよく見るとその背には豪華な装飾の施された装備を身に纏った人の姿がある。



(これは…作り物? それにしても息遣いとかもメチャクチャリアルなんですけどぉ! まぁ、本物のドラゴンとか見たことなんてないけど)



健太がモンスターだと思っていたそれらは、実はゲームプレイヤーが所有する【移動手段】の一つであり【騎乗アイテム】と呼ばれる乗り物だった。


サイズや種類などは様々に存在するが、あくまでも移動手段であり性能自体は均一の乗り物である。


現れたプレイヤー達は一斉に乗り物から降りると、それと同時に光の粒子になって瞬時に消えていく乗り物。



(消えた? どこいったんだ?)



そして、意味不明な状況に健太が呆気にとられていると、そんな健太にプレイヤー達が何かを尋ねる。



「なぁ、なんで逃げてんだよ! 早くクエストの内容を教えろ!」


「ここで開放か? おい! 早くしろ!」


「早く早く! なにボさっとしてんだよ!」



モンスターが消えたと思ったら、今度はピカピカ輝く鎧を着た高圧的な奴らが俺に何かを尋ねて来る。


どうやらコイツ等がシナモンの言っていたこのゲームのプレイヤーで、俺にクエストの情報を聞きに来たらしい。


俺はなんとか状況を理解したが、突然のことで声が出せなかった。


無理やり脳に叩き込まれたテキストの内容自体は何故かハッキリと覚えていたけど、ぶっつけ本番過ぎて頭の整理が追い付かなかったんだ。



(いやいやリハぐらいさせろ…こんな金持ちしか来ないテーマパークで遊んだことなんて俺は無いんだからな!)



いつも画面越しにだけみていたテーマパーク。


急にそこのキャストになったんだ、誰だって混乱ぐらいするだろう。


けど、直後にもっと衝撃的なことが俺の身に起こった。



「あっ…えっと…その…!? 遥か北の山脈の―」


(なっ!? 勝手に喋ってる!?)



健太があたふたしていると、健太の意思とは無関係に勝手に口が動き始め、悠長な口調でCIN-NAMONから送られてきたクエストの内容をその場にいたプレイヤー全員に語り始める。


先ほどの移動制限の様な現象と共に、それらは何らかの外的な要因による現象だった。



(俺の身体はどうなってるんだ…外見もそうだけど滅茶苦茶じゃないか!?)



まるで身体を乗っ取られた様な感じに不快感を感じる健太。


だが、初仕事の台詞をしっかり話せるかについては内心自身がなかったので、その点については複雑に感じながらもホットしていた。



俺がプレイヤー達に聞かせたクエストの内容は【北の山脈にある賢者を探させ】という内容であり、当然ながらこのテーマパークに来たばかりの俺は北の山脈も賢者のことも知らない。


やがてシナモンから共有された全文を言い終えると、プレイヤー集団は先ほどのモンスターを再び何処からか呼び寄せ、それに乗って一目散にさっていく。



「またお使いかよ! あーもう!早くダンジョン行かせろよ!」


(せわしない奴らだな…ってか、俺の話ちゃんと聞こえてたのか? 30人ぐらいは居たと思うけど)



自分の声がちゃんと届いていたのかと思う健太だが、クエストのフラグ回収は健太の声が届いていれば問題ないようであり、全てを正しく聞きとる必要は無かった。


また、去り際にプレイヤー達は似たような文句をブツブツと口々に呟く。


ちなみに健太が最初にゲームの世界で遭遇した彼らはこのゲームの【TOP層】のプレイヤー達であり、目下の目的は他のプレイヤーよりも早く実装されたコンテンツを消化することにある。


そのため、一介のNPCの台詞などいちいち気にもせず攻略に急ぐプレイヤー集団はナビゲートに従って次のクエストに足早に向かっていった。



「…はぁ、これが俺の仕事なのか? なんか想像していたのと全然違うなぁ。うーん、ゲームというよりはホントにテーマパークのキャストだなこりゃ」



遠くに消えていくプレイヤー集団を見つめながらそう呟く健太。

こうしてなんとかNPCとしての初仕事を終える。


だが、その日の仕事はまだまだ始まったばかりだった。


健太が任されたのは実装されたばかりのイベントクエストだったため、その後も次から次へと健太の元にプレイヤー達が押しかけて来たのだ。



(あー途切れないなぁ…)



最初の頃は一番初めにやって来た一団の様なプレイヤー達が一定間隔で訪れ、時間の経過と共に次第にどんどんプレイヤーの姿や質も変化していく。


一番質が悪かったのはなりきり…ロールプレイを満喫しているプレイヤーだった。


頼んでもいないのに好き勝手に痛い設定を語り出し、俺は思わず反応に困ってしまう。


また、他には攻撃こそしてこなかったが、ピカピカ光る武器を抜刀して頻りに自慢するプレイヤーなども居た。


そいつらは目立つ乗り物と装備を後続の下層プレイヤーに自慢したいのか、無駄にその場でずっとウロウロしている。



(こういう連中って何処にでも沸くんだなぁ…まぁ、楽しみ方は人それぞれか…)



様々なプレイヤーを相手にしながら、誰かが来るたびに一からクエストの説明を繰り返す健太。


自動とは言え次第に対応が憂鬱になっていった。



(うぇ…勝手にセリフを話すからいいけど、こう何度も同じことを喋らされるのはキツイなぁ…)



結局、それから仕事終わりまでの間に俺は合計で数百人のプレイヤーの相手をさせられ、同じセリフを100回以上も話す羽目になってしまう。


それでも何故か肉体的な疲労感こそ感じなかったものの、流石に精神的には大分疲れた。



「はぁはぁ…今日って平日じゃなかったか? こんな辺鄙な場所にあるテーマパークによく来るなぁ…そんなに上級国民の皆さんは暇なのかねぇ」



そして、程なくしてその日の業務終了を通達するシナモンの声が脳内に響く。


最初は可愛らしい声だなと思っていたが、既にその声は憎悪の対象と化していた。



(お疲れ様です。アナタの本日の業務はこれで終了です。これよりフリータイムとなりますので、自由に過ごしてください)


「ちょ! 待てよ! くそ! また一方的に頭の中で喋るだけ喋ってどっか行きやがった…なんなんだよこれ…頭の中にスピーカーでも埋め込まれてるのか俺は!」



先ほど同様、健太の頭の中で一方的な業務通達だけすると沈黙してしまうCIN-NAMON。


フリータイムと言われても、この後の過ごした方が分からず困り果てる健太。



(いやいや、だから自由って言われても…家に帰る感じでもないし訳がわからないぞ!)



仕事が終わればこのテーマパークから出られるのかと思ったら、別にすぐに迎えのスタッフが来るわけでもない。


そもそも、俺はこの施設がどこに存在するのかも知らないんだ。


とりあえず既に日も暮れていたので小屋の中に戻る俺。


小屋の中に入ると、何故か小屋に設置してあったランプの照明が点灯していた。



「夜になると勝手に灯りがつくのか? 便利なんだか不便なんだか…」



不思議そうに勝手に点灯した照明を眺めながら、これからどうしようかと考える健太。


するとその直後、トントンと玄関の扉を叩く音が周囲に響く。



(…誰だ? もしかして迎えのスタッフか?)



突然の訪問者にNebulaのスタッフが自分を回収しに来たのだと思い込んだ健太は慌てて玄関に向かって走り、勢いよく木製の扉を開ける。


だが、そこには健太が想像もしていなかった人物の姿があった。



「はい!……えっ?」


「こんばんは新人さん」



俺の目の前には待ち望んでいたNebulaのスタッフの姿はなく、美味そうな匂いがする土鍋を抱えた貧祖なドレスを着た女性の姿があった。


その人はどう見てもスタッフには見えず、だからといってさっきまで対応していたゴチャゴチャした装備を着たプレイヤー達にも見えない。


まるでその姿は、俺と同じNPCの様だった。

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