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セオリー

目的地と思われる北の洞窟にたどり着いたシキ。


特に何の障害もなく辿り着けたことに安堵しつつ、既に村に戻った後のアイテム換金のことを考えていた。



「これである程度の金が手に入ると嬉しんだけどなぁ。まぁ、流石に宿代ぐらいにはなるだろう」



ブツブツと小言を呟きながら、何の警戒もなく岩穴の中に入っていくシキ。


異常なステータスを見たこともあり、既に完全に油断しきっていたのだ。


だが、特にその洞窟には特別な罠などは仕掛けられておらず、警戒すべきものも皆無だった。


また、視界もゲームという事情もあってか洞窟の中は完全に真っ暗ではなく、外から反射した自然光が洞窟内での視界を確保してくれている。



(…そういえば、ここにはエリスちゃんのお父さんが居るかもしれないんだよな? もし、仮にエリスちゃんのお父さんを救出したらどうなるんだろう? こういう系の話って冷たいけど大体死んでることの方が多いけど…エレノアさんも急に夫ができたら驚くだろうな)



俺はふと、今更ながらエリスちゃんから受けたクエスト内容のことを考える。


話の流れでは行方不明のエリスちゃんのお父さんを探すのが目的だが、この手のお使いは大体結末が決まっていた。


それでも、もし仮にエリスちゃんのお父さんが生きていた場合はどうなるのか気になったのだ。


だが、そんな考えも程なくして無駄に終わる。



「あぁ…まぁ、そうだよな…」



洞窟を進む最中、シキの眼前に一人の男性と思しき朽ち果てた遺体と、その傍には手紙のようなモノが落ちていた。


恐らくそれがエリスの父親だと察したシキは、一旦手に持っていた武器をベルトに収め、その場で拾った手紙の内容を確認する。


そこにはエリスに宛てた内容の遺言の様なモノが記載されており、短い文の最後にはエリスに愛を伝える一文が記載されていた。



これもゲーム仕様なのか、そもそも読めない文字の内容がまた勝手に頭の中に流れ込んでいく。


ゲームの単発系のイベントで感情移入することは無かったけど、エリスちゃんが今もお父さんの無事を祈っていると思うと胸が痛い。



「……」


(分かってはいたけど、なんか…報告するの嫌だなぁ。これが何もかも作り物なのは分かってるけど…部分的にリアルすぎるんだよ)



ゲームだって理解しているのに、何だか気分が滅入ってしまう。


あの子にこの事をこれから伝えるのかと思うと本当に憂鬱だ。


NPCが本当の人間に見えるこの世界で、彼らの感情は限りなくリアルだった。


だからこそ、できる限りその願いは叶えてあげたかったんだ。



「特に説明も無かったから、イベント分岐の可能性も無いよな…この遺体の状況や手紙の内容を読む限り亡くなったのはずっと前だろう」



念のためにイベント分岐の可能性も考えるシキ。


自分の落ち度で死なせてしまった可能性を考えるが、現場の様子からその可能性は皆無だった。


つまり最初から父親の死は確定していたのだ。


そして、この手のイベントのセオリーとしては必ず目的を達成した直後に【犯人】が現れる。



「で、これで終わりじゃないよな? 状況的にそういう感じじゃないし…」



シキがエリスの父の遺品を確認し終えた直後、シキの読み通りにイベントが発生。


その場に忽然とエリスの父親を死に追いやったモノが姿を現す。


それは大きな熊の様な獣型のモンスターであり、岩穴を住居としているイベント時にだけ出現する専用のボスだった。



「……」



出現したボスを見つめ、無言のままGM武器を抜刀するシキ。


対するモンスターはイベントバトルということもあり、遥か格上の存在と化したシキに向かって勇猛にも襲い掛かる。


だが、その戦闘の結果は既に分かりきっていたようなものだった。


戦闘の開幕早々にシキがGM武器をモンスターを切り裂くように振り下ろすと、モンスターはこれまで同様にボスだろうが瞬時に消滅。


戦闘はまたして呆気なく終了する。


そして、戦利品として【とある探検家の遺品】というアイテムを手にしたシキ。



「はぁ…憂鬱だぁ…」



戦闘自体は楽勝だったが、これからエレノアさんの家に戻ってエリスちゃんにドロップしたアイテムを渡すのが本当に嫌だった。


でも、そうしなければいつまで経ってもクエストが終了せずにエリスちゃんはあのままだ。

エレノアさんだってそれは嫌だろう。



(あぁ、せめてクエストが完了したら全部忘れてくれると嬉しいな…)



快勝したにも関わらず、暗い表情を浮かべたまま洞窟の出口に向かって歩き出すシキ。


それほど幼い子供へ父親の死を伝えるという陰湿なクエスト報告が苦痛だったのだ。


やがて、重い足取りで洞窟の出口にたどり着き外に出ようとした瞬間、何者かがシキの眼前に立ちはだかる。



「ねぇ、キミどういうの?」


「…はっ?」



突然俺の目の前に、謎の美少女が現れる。


栗色の髪色に、透き通るような青い瞳…その容姿は滅茶苦茶ファンタジー美人だった。


それと、彼女が着てる服が少し直視するのが恥ずかしい…そして、何故か臨戦態勢。



(えっ…なんだこの子…)



クエストを済ませて岩穴の洞窟を出る際、謎の少女に声を掛けられるシキ。


プレイヤーなのかNPCなのかは定かではないが、少女は腰に下げていたレイピアを抜刀し、その鋭い剣先をシキに突きつける。

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