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初めてのPVE

ガイドの案内で村の出入り口の様な場所に案内されたシキ。



(ここはキリヌール村っていうのか? 文字が汚くて読めないハズなのに勝手に内容が頭の中に…)



ふと、入り口に立て掛けてある看板に視線を向けるシキ。


看板の内容は雰囲気重視かつ、ゲーム内言語のためシキでは到底読むことのできるような文字ではなかったが、勝手にシキの頭の中に文字の内容が流れ込んでくる。


それは多言語対応のための翻訳アシストであり、実はNPCやプレイヤー達との会話中にも勝手に翻訳アシストが機能していた。


それ故に都合の悪い情報や単語は全てノイズが割り当てられ、利き手側は元々の言葉や単語自体を全く聞くことができない。


つまり厳密には言論統制されていたのではなく、そもそも最初から直接会話するという行為が成立していなのだ。


その機能は五感すべての機能も補完しており、GM武器を装備したシキがプレイヤー達にはモンスターとして視認されるのもアシスト機能を流用している。



(不思議だな。まぁ、便利ちゃ便利か…なんか語学の勉強がバカバカしくなってくるな)



シキは言語アシストの件を特に深く考えることはせず、便利な機能として認知。


そして、改めてガイドの指す方に視線を向けると、ガイドはシキの視線のずっと奥にある森の方を指し示していた。



(さて、このまままっすぐ直進するとあの薄暗い森の中に入るのか…)



ガイドの示す先は平原の奥にある森の中にあり、恐らく北の洞窟というのもその先にあるのだろう。


ちょっと見通しの悪そうな森で不気味だが、俺は自分自身に問題ないと言い聞かせて森の方に向かって歩き続けた。


また、昨日はちょっとした観光気分で辺りの風景を楽しんでいたが、既にそんな気持ちは消え失せており、眼前に広がる広大な景色には目もくれず先を急ぐ俺。



(慣れた訳じゃないけど、こうも似たような風景をずっと見てると感動も薄れるなぁ…)



森までの道中では流石に村が視認できる距離でモンスターとの遭遇もないのか、相変わらずモンスターの姿を拝むことはできない。


流石にそろそろ戦闘があってもいいと思うのだが、そもそもフィールドにモンスターは存在しないんじゃないかとも思い始めてきた。


その後、俺は程なくして森の境界線にたどり着く。



シキの眼前に広がる森は、日中にも関わらず太陽の光を遮るほどに木々が生い茂っており、遠巻きで見ていた時よりも更に不気味な雰囲気を醸し出していた。


だが、ここまで来て今更逃げ帰る訳にもいかないシキは、何か嫌な予感を感じつつも意を決してその森の中に足を踏み入れる。


すると、シキが足を踏み入れたと同時に木陰から何かがシキ目掛けて飛び出す。

さっそく感じていた嫌な予感が的中したのだ。



「っ!? これは…これがモンスターか?」



それは、シキがゲーム内で初めて遭遇したモンスターだった。


今のシキは先ほどエレノアから受け取ったベルトにGM武器を収めているため、シキの存在を格下だと認識した森に住むモンスターがさっそく襲ってきたのだ。


加えて森の中は平原とは違い、モンスターの配置数も桁違いに多く遭遇率も高い。


シキが森に入る前に感じた嫌な雰囲気は、そのモンスター達が木々の隙間から獲物であるシキに向けていた視線だったのだ。


また、実際に眼前に立ちはだかるモンスターの姿は迫力があり、思わず尻ごみしてしまうシキ。



「これ倒せるんだよな…大丈夫だよなぁ…」



しかし、その森に生息するモンスターのレベルは決して高くは無い。


少なくとも駆け出しのプレイヤーでも余裕で対応できるレベルだった。


それでも残念ながら素の状態のシキが勝てるモンスターでもないという残酷な現実。


不用心に入り込めばたちどころにモンスター達に囲まれ、本来であればシキは森の中では5分と持たない。


だが、それは不死の身体やGM武器を所持していない場合のことであり、今のシキにとっては森の突破など容易いことだった。


それでも初めてのモンスターとの遭遇には緊張を隠せないシキ。


眼前に迫るモンスターの姿を真剣な眼差しでジッと凝視する。



目の前のそいつはパッと見は大きな昆虫のようなモンスター。


俺の今までのゲーム経験でいうとあまり強そうには見えなかったが、実際に1メートルサイズの昆虫と対峙すると不気味すぎる。


現実世界でもゴキブリの処理などは苦手な方だった。



「うわっキモっ!」


(生で見るのと画面越しでは迫力が全然ちがうなぁ…)



シキは不気味な虫型のモンスターのビジュアルに委縮しながら、ベルトに刺さった腰の裏に固定された剣を手に取りゆっくり引き抜く。


だがその瞬間、不可解にも対峙していたモンスターは急に背を向けて逃げ出してしまったのだ。



「…えっ? あれ…なんだ…逃げたのか??? どうして?」



初めてのモンスターとの戦闘でモンスターの敵前逃亡という肩透かしを食らい、ポカンとした表情で逃げるモンスターの背後を見つめるシキ。


訳も分からず、とりあえず戦闘が終わったと勘違いして抜刀した剣を再び収めるが、なんとそれと同時にモンスターが急旋回してシキの方に再び飛び掛かってくる。



「なっ!?」



完全に油断していたシキは不意を突かれ、そのまま腹部にモンスターの体当たりを受けてしまった。


無論、不死であるシキがその攻撃で絶命することはないが、身体を突き抜ける強烈な痛みに表情を歪ませるシキ。


プレイヤー達の強烈な一撃程でないが、まるで歩道を走る自転車に追突された時の様な痛みと衝撃がその身を襲う。



「ぐぅ…痛っ…くそ!なんだよコイツ! ざけんな!」



攻撃の反動で身体を吹き飛ばれたシキは、腹部に痛みを感じながらもすぐに体制を立て直し、再び急いで剣を引き抜く。


すると、今度は逃げずにシキと対峙するモンスター。


ゲーム仕様では、一度でも双方どちらかの攻撃が成立すると、例え相手が格上でもモンスターは逃げなくなる仕様なのだ。


こうしてグダグダになりつつもシキの初戦が始まるのだが、その結末はなんとも味気ないものだった。



「くたばれぇ!」



シキが怒り任せに昨夜の様に剣を横に大きく振った瞬間、同じく昨日の様に赤黒い閃光が剣から吹き出す。


その光は一瞬でモンスターの姿を跡形もなくかき消したのだ。



「うぉ、スゲェ…やっぱ無敵じゃん俺」



あっという間に決着を迎えたシキのモンスターとの初戦闘。


その凄まじいGM武器の攻撃はモンスターにも有効であり、思わずその圧倒的な火力に笑みを浮かべるシキ。


そして、直後にシキの視界に戦闘のリザルト画面が表示される。



「おっ、なんか経験値的なものか? どれどれレベルでも上がったのかな……んっ? なんだこれ?」



野良のPVP戦闘とは異なり、モンスターとの戦闘であるPVEの後には必ずリザルト画面が表示される。


この時、戦闘職の設定がされてないシキには本来は戦闘で得られるハズの経験値こそ入らなかったが、それとは別にリザルト画面には見慣れないゲーム世界のアイテム名がズラリと並んでいた。


それらは戦闘で倒したモンスターが落としたドロップ品、つまり戦利品だ。


アイテムドロップは職業に問わず行われ、入手したアイテムは一覧となって対象者に開示される。



(んー甲虫の甲羅が127個、軍隊蟻の足が78本…スライムの切り身が80個…んっ? なんか全然今のモンスターと関係ないアイテムが他にも滅茶苦茶混ざってないかこれ? こういうものなのか?…いや…)



表示された画面には大量のアイテム名が記載されており、中にはどう考えても関係ないアイテム名までが記載されていた。


その内容を不審に思うシキだが、直後に何か思いついて剣を四方八方にブンブンと振り回す。


すると赤黒い閃光がシキを中心として広範囲に何度も放たれ、最後の一撃を打ち終わって暫くすると何故か再びリザルト画面が表示された。



「おぉ、やっぱりそういうことか!」



表示されたリザルト画面には、ドロップアイテムこそ代わり映えしない同じものが画面に表示されていたが、先程とは比べ物にならない程の量が記載されていた。


その原因はGM武器にあり、その射程と貫通性能によりGM武器の射程内に生息していた全ての当たり判定を持つオブジェクトが消滅。


結果、大量のアイテムドロップ現象が発生していた。


シキは最初の攻撃の後に表示された不可解なドロップアイテムの内容でそのことに気づいており、故に空振りに見える攻撃を放ったのだ。



「このアイテムが金になるか分からないけど、とりあえずこれをぶん回しながら歩けば結構稼げそうだなぁ」



その後、大量のアイテムドロップに機嫌を良くしたシキは所かまわずGM武器を振りまくりながら森の中を進む。


攻撃される側のモンスターにも意思があるのか定かではないが、理不尽に同胞を消し炭にしていくシキはまさにその名の由来の通り、死をばら撒く鬼そのものだった。

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