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決断と選択

状況は既に昼食どころではなく、必死にエリスに呼びかけ続けるエレノア。


だが、エリスはひたすら定型文の様な予め決められた台詞の読み上げをループさせるだけだった。



「お願い…お父さんに会いたいの…アナタは冒険者? モンスターは―」


「ねぇ、急に何を言ってるのエリス? お母さんにも分かるように説明して!」


「北の洞窟に出かけたお父さんを探してきてくれる?」



その後もエレノアが何を問いかけてもエリスは同じ返答しかせず、やがてシキよりもゲーム世界での生活が長いエレノアが事態を先に理解して絶望。



「これは…まさか…そんな…この子が持っていた役割って…どうして今更? もう5年も一緒に暮らしていたのに…なんで…」


「ど、どういうことなんですかエレノアさん? エリスちゃんは一体どうなって―」



状況がわかない俺は、何かを察して動揺するエレノアさんにエリスちゃんのことを尋ねた。


その間も視界にはさっきの選択肢が表示されたままであり、どうやらそれは俺自身にしか見えないらしい。



「あのね、どうやらエリスはクエストを発注できる特殊なNPCだったみたいなの。でも、どうしてそれが今になって…ねぇ、もしかしてクエスト受領の画面が視界に表示されてない?」


「えっ…あっ…はい…帰らずの洞窟って表示がさっきから…」


「あぁ、そんな…」



俺が特殊な存在だからかハッキリしないが、どうやら俺との会話が原因でエリスちゃんが元々もっていたと思われるクエストフラグが起動してしまったようだ。


AIが管理するNPCはクエストが発生した場合はその処理が最優先事項に設定されるらしく、それ以外の動作を行わなくなってしまうらしい。


俺もこの世界にきてスグにクエスト発注の仕事を強制された際、色々と自分の動きが制限されたことを思い出す。



「これはキャンセルとか出来ないんですか? 何か元に戻す方法は? 時間経過で勝手に戻らないんですか?」


「無理よ! シキくん自身がキャンセルしたって無意味なのは知ってるでしょう? このタイプは依頼が誰かしらに達成されるまで恐らくずっとこのまま…私達が時々強制される業務とは別物でしょうね。ところで、シキくんはNPCからクエストを受けたことがないの? なんだか何も知らないような様子だけど…」



余りもゲーム常識に関して疎いシキの様子を不思議に思うエレノア。


アンリアルファンタジアでは、生体NPCであれば特定の条件を満たすことで一部の例外を除いてNPCでもクエストを受注することができた。


生体NPCでも受注できるクエストは【フリークエスト】と呼称されており、このクエストは日々ゲーム内で規定数の範囲内でランダムに生成されていく。


エリスも自動生成されたクエスト用のキャラの一体であり、元々は安全領域外に配置されていたNPCだった。


だが、エレノアによって本来の配置位置から逸れたことで主に依頼を受ける側であるプレイヤー達との接触の機会が無くなり、クエスト解放の機会が長い間保留にされてしまっていたのだ。



「いや…それは…そんなことよりエリスちゃんですよ! こうなったら俺がエリスちゃんのクエストをクリアしてきます!」



ゲーム内の知識に疎いことが露呈しそうになるが、シキはそれどころではないと言って自分がエリスのクエストをクリアするとエレノアに申し出る。


それは、自分が原因でエリスのクエストが発現してしまった責任を取るためでもあり、GM武器さえあればクエストの達成も容易だと考えての申し出だった。


だが、そんな事情を知らないエレノアは生体NPCにとっての戦闘行為は命がけの認識のため、その申し出を断ろうとする。



「シキくんが!? でも、モンスター退治なんて生体NPCに気軽に頼めるものじゃ…」


「だ、大丈夫です…俺ならなんとかできると思います…だからエリスちゃんも俺にクエストを発注したのかもしれないですし…」


「でも…この際だから近くのプレイヤーを頼る方が安全じゃないかしら? 私達が直接対応するのはリスクが高すぎるわよ!」



自分の身の安全を心配するエレノアに、クリア可能だからこそエリスのクエストが受注できたのではないかと説明するシキ。


それでもエレノアは中々納得せず、付近のプレイヤーに応援を頼もうとする。


しかし、そのエレノアの提案にシキは猛反対。


何故ならシキにとっての周辺プレイヤー達の印象は最悪であり、誰もかれもが非道な虐殺者という認識だったのだ。


無論、プレイヤー全員がNPC狩りを楽しんでいる訳ではないが、シキのその認識はあながち間違いではない。


少なくともヴァルティーナ周辺のプレイヤー達にNPC殺害に躊躇がないヴィランプレイヤー達が多いのは事実である。



「それは反対です! この辺のプレイヤー達はNPCを平気で殺すような奴らなんですよ? そんな奴らに協力を仰ぐなんて…」


「そうだけど…」


「とにかく、北の洞窟という場所には俺一人で行きます!」



半ば強引に押し切る形で洞窟行きを決めたシキは、先程から眼前に表示されているUIのボタンに触れてエリスのクエストを正式受注した。


直後にシキの視界にはさらなる変化が訪れ、目的案内のための簡易的なルート表示が行われる。



(クエストを受けると視界にこんな変化が起きるのか…)



俺の視界に目的地までの方角と距離のようなものが小さく映り込む。


どうやらこれを辿れば自然と目的地にたどり着けるようだ。


この行為がどれだけの寄り道になるか定かではないが、別にシナモンに急いで北に向かえとは指示されていないこともあり、俺は意を決してクエストクリアを目指す。



「…お兄ちゃんありがとう! お父さんのことお願いね…良かったねお母さん!」


「っ!?…うん…そうだね…そうだね…」



シキがクエストを正式に受注したことで、エリスの状態が再び変化。


以降、このクエストはシキがクエストを放棄しない限りは他のNPCやプレイヤーも受注できなくなった。


そして、自分の手を握りながら笑みを浮かべるエリスに優しくエレノアは微笑みかけ、クエストを受注したシキを心配そうに見つめる。



「くれぐれも無茶はしないでね…無理そうだったらスグに逃げて! 十分にシキくんも分かってるとは思うけど…私達の死は現実なんだから」


「…はい。……それじゃ、そろそろ行ってきます」


「…あ、そうだシキくん! ちょっと待って―」



ゲーム内での生体NPCの死は、現実の死と同意義であるとシキに改めて告げるエレノア。


また、それでも意思を変えずに出かけようとするシキをエレノアは呼び止め、何かを思い出して取りに向かう。


程なくしてシキの元に戻ってきたエレノアの手には、武器を携帯するためのベルトが握られており、エレノアはそのベルトをシキに差し出す。



「はい、これ良かったら使って!」


「えっ、このベルトは?」



ベルトを受け取ったシキはその特殊な形状に首を傾げる。


受け取ったベルトには小さなベルトが複数取り付けてあり、エレノアからはそれがフリーサイズの武器固定用のベルトだと説明された。



「元々鞘があるのか知らないけど、流石に剣を持ったままじゃ不便でしょ? 遠慮なく使って!」



どうやら剣を握ったまま家から出ようとするシキの姿を見て、それを不便というよりは物騒に感じたエレノア。


シキはベルトを受け取ると、小さな複数のベルト部分を剣を覆う鞘のようにして剣をベルトに挟むように差し込む。


剣はそのビジュアルの大部分を複数のベルトで覆い隠され、シキの腰の裏に固定された。



「…ありがとうございます! 遠慮なく使わせてもらいます」



思いがけないエレノアからの贈り物は、シキが不用心に持ち歩いていた武器の形状を隠ぺいするのにも一役買うことになり、意図せずGM武器の外装として割り当てられていた剣の形状を外から判断できなくさせる。


そして、出発の準備が整ったシキはエレノアに挨拶を済ませ、表示されている目的地を目指して家を出た。

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