結論
ギルドメンバーとの意見交換の末、未知のモンスターの出現条件は覇王の免罪符のデメリット効果であるという流れで話は進み続け、メンバーの意見をまとめた代表のラゾールが発言する。
「覇王の免罪符が関係している可能性は俺も高いと考える。実装されて間もない状況で、隠された効果がある可能性は高いからな。後はアレの討伐可能の有無だが…あのカンスト級のダメージを超射程・広範囲で放つあのバケモノへの対策について俺に考えが―おっと、すまない連絡が…」
ラゾールも覇王の免罪符がモンスターの出現に関連している説を支持し、議論は具体的な討伐可能の有無の検証に移ろうとしていた。
その際、ラゾールが何かの策を提案しようとするだが、話し合いの最中にラゾール宛てに他のプレイヤーからの連絡が届く。
それはモンスター(健太)を見張っていたプレイヤーからの連絡であり、その内容はMAPからの攻撃対象の消失を告げるモノだった。
実はギルドメンバーを数名モンスターの監視につけていたラゾール。
理由としては監視以外に、ギルド外のメンバーがモンスターを横取りするのを防ぐためのものでもあった。
「どうした? ……!……そうか…いや…もう大丈夫だ…」
同じギルドメンバーであれば、基本的にゲームフィールド内ではどこに居ても脳内通話の様なことができ、ラゾールは片手で周囲の雑音を防ぎながら頭に響く声に向かって返答した。
健太を見張っていたプレイヤーによると、忽然と反応が消えたらしい。
(ちっ、色々と検証する暇もないか。まぁ、デメリット説だとすると倒す意味もなさそうだが…やられっぱなしも癪だ。それにレアアイテムドロップの可能性も捨てきれない)
攻撃射程を考慮して離れた場所から他のメンバーに状況を監視させていたが、どうやらPOP時間が制限されているのかモンスターは自然消滅したようだった。
俺は思いついた案が試せなくなり少し残念だったが、他の勢力に横取りされるよりは全然マシだ。
それに出現条件はなんとかなく分かったので、まち近いうちにあのバケモノとは再戦できるだろうと考える。
ゲームフィールド内のモンスターには一定時間経過と共に消失してしまう個体もおり、特にレアなモンスターがその対象であった。
ラゾールも消失の可能性を考慮して討伐を急いでいたが、残念ながらその期を逃してしまう。
そして、討伐が無意味になる可能性を感じながらも内心では強く再戦を望むラゾール。
未知のモンスターをゲーム内で最初に討伐するという承認欲求やプライドなど、TOPプレイヤー故にその思いはひと際強かった。
「…どうやら対象がロストしたらしい。出現時間は10分から30分程度か…残念だが今日はこのまま解散だな。また何かあれば共有チャットにでも共有しておくから見ておいてくれ。それと―」
モンスターの姿がMAPから消えた知らせを受けたことで、その日の討伐と打ち合わせはそこで打ち切られる。
一方的に敗北を喫したことから、ラゾール同様にリベンジに燃えていた多くのプレイヤーはその連絡に落胆。
そんなメンバー達を宥め、ラゾールは何点か指示を共有すると、ギルド拠点の他所で打ち合わせが終わるのを待っている他のプレイヤーを含めた討伐メンバーを解散させ、ラゾール自身は不満気な表情を浮かべながらゲームからログアウトした。
それから程なくして、闇夜の狂想曲のギルド共有チャットにラゾールからの投稿が行われる。
共有チャットはギルドメンバー専用の掲示板のようなものであり、主に全体共有やギルド独自のイベント告知などで使用されており、今回の騒ぎもこの共有チャットからの一報で始まった出来事だった。
そして、チャット内容には出現した正体不明のモンスターに関しての情報共有が記載されており、そこには仮称として【死鬼】というモンスター名が記載される。
加えてギルドメンバー全員に当面のレベリング目的での覇王の免罪符の使用を禁止する通達がされると共に、大規模なギルドイベントの告知が合わせて行われた。
このギルドイベントは後に死鬼と闇夜の狂想曲が再び相対する切っ掛けになるのだが、それはまだ大分先のことである。