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周回遅れで異世界転生に気づいたけど、誰か私を殴って頂戴!

作者:

「きゃあっ」


私の悲鳴に召し使い達が駆け寄る。


「お嬢様!大丈夫ですか」

「この女、お嬢様に向かって! 」


偶然見かけたのだろう村人達は、ヒソヒソと話している。


「可哀想に、薔薇嬢の前でなければ……」

「あの人、追い出されるでしょうね」


私に聞こえてないとでも思っているのか知らないが、村人達は話し続けている。

まぁいい、その通りなのだから。


道端で水を撒いていた女は、父上に言いつけてこの村から追い出せばいい。

そう思っていたのだが……


私に水をかけた事も忘れたのか、女は構わず地面に水をかける。


それは当然、私にも当たるのだった。


パシャリ


「お嬢様! 」

「おい、まずいってあのおばあさんを止めろ!」


村人達がざわざわと私達を取り巻く。

駆け寄ってくる召し使いを私は手で征す。


「いいわよ、これくらい。召し使い……タオルを頂戴」


正気に戻してくれた貴方に感謝を、心の中でだが、そっと。



偶然にも水をかけられた事で、私は前世の記憶を思い出したのだった。




 前世の私は、23歳。図書館司書としてして働いていた。出勤途中に車に轢かれ死亡。そうして、今流行りの異世界転生をしたのであった。


(最近は無痛転生が流行ってるって友だちから聞いたのに)


痛みを伴う転生を私にさせた神様を少し恨む。


ともかく私は、善良なる悪役令嬢として、乙女ゲームの世界で生きる事にしたのだった。


取り敢えず、学園では、図書委員を選ぼう。その他は……以下略である。



 この学校の生徒は締切を守ってて偉い、と思う。

自分が勤めていた所なんて、貸し出し期限は破る人はいるわ、子どもは、プールバックに本を入れるわ、で散々だった。

おかげで、本を何回も自宅に持ちかえり、何冊も冷凍庫に入れた。

実は、濡れた本は濡れたページ全てに紙を挟んで乾かすか、保存バッグにいれて、冷凍庫で少し乾かす。これで元通りになるのである。ならない時もあるかもだけど。


利用者もいないし、棚磨きでもしに行こうと、私はもう一人の図書委員に声をかける。


「星井さん、戸棚の表紙でも揃えてくるわね」


この前、別の子に「棚磨きしてくる」と言ったら、通じなかった。

棚磨き……というのは、棚に入った本を整える事である。表紙を揃えて置くことで、利用者がブラウジング、つまり沢山の中から本を見やすくなるのだ。まぁ正式名称は特にないので、棚揃えと言っていた先輩も居たことを思い出す。


私は、棚磨きをしつつ、バラバラな本は、元の場所へ戻していく。

幾度も繰り返していた時に、窓際の席によく知っている生徒が座っていたのを見つけた。

天羽聖子、国宝級の【聖】の魔法を使いこなす女の子で、このゲームの主人公である。


……と言っても、私が知っていた主人公とは、物凄く違うのだが。


 実は、乙女ゲームはノーサンキューな私もこのゲームはプレイした事がある。

……というのは、友だちに無理やり押し付けられたからなのだが。

律儀にプレイをした時の事を思い返すと、


悪役令嬢である私、獄獄闇子と主人公である天羽聖子の出会いシーンは、闇子が聖子の足をひっかけ、聖子を心配する友だちに「えへへ、ドジしちゃった」と返す。……というのが、ゲーム雑誌に載っていたこのゲームの宣伝用のシーンだった。

実際には、選択肢が三つあり、選べるので私は 『>心配しないでよ。』を選んだ。


そのシーンが目の前で起こった時のことだった。


全く足をひっかける気も無かった私だが、靴が汚れている気がして、なんとなく、片足を上げて見ていたのであった。

その時に偶然、天羽聖子が通りかかり、私の足に躓いて転ぶ。


「せ、聖子ちゃん! 大丈夫? 」


この学園の支援者の娘である獄獄闇子に対して逆らう人は、先生にもいない。

その中で良い友だちを持ったのであろうと私は感心する。

天羽聖子を心配して駆け寄る友人に対し、彼女はこう言ったのだった。


「うんー。この床冷たいし、ここで寝るねぇ」


いやいや寝るな。

当時の異世界転生を自覚したばかりの私は、覚えてる限り、ゲーム通りにストーリーを進めるべく、振る舞っていたが、この時はうっかり言ってしまったのだった。


「汚いわよ。良いところ教えてあげるから、そこで寝なさい」


図書館司書として、図書室をそんな風に使うのは、前世の私として、許したくはなかったが、仕方ないのだ、許せ私。


そうして、この図書室の奥の席を教えたのだった。

この学園の生徒は学びの意欲が凄いのか、悪役令嬢に怖じけ付かずに図書室に来るくせに、なぜか自習席には座らない。そこはちょっと怖いらしい。

教えた私に対して、素直に「ありがとー」と言った彼女は、それ以来ここを利用しているらしい。

怖がりながらも、私と話をしようとした勇気ある図書委員が教えてくれた。「天羽さん、たまにここで寝てるんですよ。獄獄様が教えて下さったおかげで、彼女の顔色も最近いいらしいです」そうなのか、主人公が顔色悪いくらい何か疲れてるって大丈夫なのかこのゲーム。


そんな訳で、私が出会った天羽聖子……というのは非常におっとりとしている。

というか、ゲームを進める気がないな? まぁゲームキャラに対してそう思うのは、少し可哀想かもしれないが。

私が、主人公のヤル気ゼロ感を感じた瞬間は、まだまだあるのだ。


 私が生きているこの世界。前の世界では、とある乙女ゲームなこの世界は、悪役令嬢 獄獄闇子が処刑されるというハッピーエンドの前に、学園に魔王軍の手下が侵入されるというイベントがある。そこで、手下に人質にされた天羽聖子が【聖】の力を使い返り討ちにするシーンだ。

乙女ゲーの主人公って強いんだなとプレイ時に思ってたのが懐かしい。そこでも三択で台詞が選べるのだが、『 >(無言でグーパン) 』を選んだ。カッコよすぎるだろこの主人公。


という本来のルートを、私が出会った天羽聖子は……


「人がいっぱーい」

という一言のみで現状を片付けた。おい、貴方の命がかかっているのよ。真剣におなり。


手下達が「コイツ、わざわざ先に倒しておく必要あるんすか」「しかし、魔王様は……」「しかしって言うことは部長もそう思ってるってことじゃん! ねぇ! 」と騒いでいた。魔王軍にも部長ってあるのね。知りたくはなかったが、知ってしまったので、もし友だちに会うことがあれば、教えてあげよう。あの子は魔王様のファンなのである。

あっ、私死んでたんだった。


風が吹けば吹き飛びそうな藁の家……それが、私が思う天羽聖子の感想である。せめて葦くらいにはなって欲しい。私の中での貴方は、グーパンをするカッコいい主人公なのだから。

それから私は、「勉強でもしときなさい! 」と訳のわからないふっかけ方をして、彼女に『BUDOUの心得』という本をあげた。ベストセラーらしい。

それから、彼女と会うたびに「押忍! 」と挨拶されるので、心底後悔している。


 この本を渡した事で後悔した事はもう一つある。


そう、王子様の事である。ガチの王子様が通うこの学校、つまりこの乙女ゲームでは当然だが、王子様と結婚ルートがある。

他のルートはバンドマンだとか暗殺者だとか物騒だったので、プレイ時には王子ルートにしておいた。友だちは魔王様ルート進めてきたが却下した。

私も天羽聖子と王子様をくっつけようとしたのだが……


「あの二人、お似合いですよね」と、私に話しかけてくれた勇気ある図書委員二号の言葉をきっかけに、天羽聖子と王子がいるAクラスに行くことにした。二号さんの言葉からして、これなら結婚ルートも容易いだろう。

バンドマンとは付き合うなよ聖子。狙うは玉の輿だぞ。そう心で天羽聖子に激励を送りつつ教室へ入った。


「ごめんあそばせ」


何語だよと心の中で自身にツッコミを入れつつ入ったAクラス。


「うんうんー」

「でね、やっぱり聖子チャンにはパステルブルーがいいと思ったワケ」


椅子に座り、うとうとしている天羽聖子と……物凄く可愛い女の子。


「あっ、獄獄様。来てくださったんですね。やっぱりあの二人お似合いですよね」


件の図書委員二号が、律儀に私に声をかける。

きゃあっと黄色い悲鳴をあげる周囲。

いや、まさかな……


「もしかして、天羽さんの隣にいらっしゃるのが王子? 」


そうですよ、と二号さんから答えを聞いた瞬間に倒れたくなった。前言撤回だ。聖子、王子ルートは止めろ。


「闇子ちゃん。こんにちは~」


倒れかけた私に気づいた天羽聖子に呼び止められた。隣の王子(仮)は「こっちへいらっしゃい」と座ることを勧めてくる。

周囲の目もあるし、座ることにした。昼休みは残り50分。まぁ時間はあるのだ。


「そういえば貴方とは、お父様のパーティーで会ったわよね。なら驚いても仕方無いわ」


一応説明しとくわね、と彼女は経緯を話し始めた。


~王子様の回想~


何を着ても自分は似合う気がする。何せ俺は顔がいいから! ということだろう。

そう思っていた俺は、日々鏡とにらめっこし、美貌を上げていた。


「ここから先はどうするべきか」


自身の美貌の高まりに限界を迎えていた所に、新入生である天羽聖子さんが俺に声をかけた。


(そういえば、父は彼女と仲良くするように言ってたな)


美とは心からを信念にする俺は、彼女がやっかまれていたら所々助けてはいたが、自身の美への追及に夢中になっていた為、他の私生活については放置のような状態だったのだ。


「席ー、どうぞ~」


とのんびり話す彼女に、【聖】の魔法を持う国宝級は、案外おっとりしているんだなという感想である。

父も国宝級の魔法を持つが、判明してからは『周りの態度が大層変わった。父もね』と母は言っていた。そのままの彼女でいて欲しいと俺は密かに思っていたのである。


「征夜くんって自分の顔が好きなの? 」


突然聞いてきた彼女に大きく頷き返す。

俺の顔は随分と美しいのだから、仕方無い。


「んじゃー、女の子の服も似合いそうだね」


こんなやつねー、と前の席の生徒の忘れ物であろうファッション雑誌を指差した。

なるほど、男という路線に俺は囚われていたのか。


「確かに、俺なら似合うな」


でしょぉー、と彼女はニッコリ笑ったのだった。


~~


「という訳なのよね」

「それで終わらせられても困るのだけど」


何一つ分からん。最近よく借りられるラノベにも王子が女装設定は無かったぞと思い返す。


「でも楓ちゃんは男の子の服も似合うから、火・金・日だけ女の子の服なの~」


ね~、と女装系王子は頷く。周りは引いてないようだし、なんだか好きにすればいい気がしてきた。


「まぁ、貴方似合ってるものね。それで、どうしてその発想に至ったのかしら? 」

「闇子ちゃんがくれた本に書いてあったよー」


これ~、とスクールバッグから取り出した本は『BUDOUの心得』。遠因は私かい!


「あら、『美しさに性別関係なし、突き抜くべし』って書いてあるのね」


BUDOUの心得を親切丁寧に読み上げてくれた王子には感謝だが、読み上げなくていいし、ってか、これは武道に関しての本ではないのか。ちゃんとタイトルと内容を一致させろ。9類にするぞ。当館では寄贈などで分類に困った本は9類にしております。かしこかしこ。


「闇子チャン。貴方の事はよく聞いてるわよ『薔薇被りのサンドリヨン』でしょう」


私も素敵な通り名欲しいわー、という王子様に天羽聖子は、学園の王子様っていう通り名あるじゃ~ん、と返す。いやねぇ、可愛いのがいいのよ、と王子様。


「薔薇被りって……灰被りではなくて? 」

「歩く度に薔薇が見える様な貴賓さを表現したそうよ」

「サンドリヨンはそのまんまだよねぇ。闇子ちゃん、学園祭でシンデレラ役だったもん」


 そうなのである、この乙女ゲームイベントNo.イチロク『天羽聖子と学園祭』で、本来ならば、Aクラスの出し物『シンデレラ』で天羽聖子がシンデレラ役、楓 征夜が王子様役だった筈なのだが、本番で天羽が屋上でサボるという(この事は、後日勇気ある図書委員二号から聞いた)事をやらかした結果、勇気ある図書館委員三号(好きなジャンルはミステリー)が私に声をかけ、シンデレラ役をやらせた結果である。

というか、この時はまだ王子は男の服を着ていた気がする。

ということは、女装イベントはこの後だったのだろう。


「来年は私もシンデレラを狙うわよ! 覚悟しといてね、闇子チャン」


昔、初めて出会ったパーティーの時から見たな、それ。ゲームスチルでも見たけど。

王子様のアイドル級ウインクは女装時でも健在らしい。

私、Bクラスなのだけど、とツッコむ前に、天羽聖子が「闇子ちゃんはBクラスじゃんねー」と返した。この学校はクラス変更ないのよね。あら、そうだったわね、と言った彼? 彼女は、じゃあミスコン勝負ね! と新たに勝負を持ちかけてきた。


「学園祭は、出し物で忙しいから辞退させていただくわ」

「そうだったわね! 図書委員の出し物、お父様も褒めてたわよ」


辞退させてもらいはするが、支援者に褒められるのは素直に嬉しい。「ありがとうございますと伝えておいて頂戴」と王子にお願いする。


……ここら辺で王子についての回想は終わりにしておこう。

まぁ、ともかくだ。天羽聖子から、この乙女ゲームの異変は起きている。


(元のストーリーに進める必要性とは???)


王子は女の子になったりするし、主人公な天羽聖子は睡眠と結婚してる。

こんなことなら、異世界転生モノ読んどくんだったなぁと思うのである。


(もう異世界転生とかめんどくさいので、誰か私を殴って頂戴!)


本来の獄獄闇子戻って来て欲しい。そう切実に思うが、私と天羽聖子達のストーリー

から逸れた学園生活は始まっているのである。


「取り敢えず、図書室に置かれてる昔の飾りは捨てよう、そうしよう」


現実逃避代わりに片付ける事にした。『前の人がせっかく作ってくれたからもったいなくって』で図書館の飾りが代々受け継がれるのはどこの世界でもあるらしい。

ある程度は捨てないとスペースが無くなります。皆さんも気をつけて! それでは!

みんないい人がいいです。ハッピーーーー!!!

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