MMORPGから考えるマジックマネーの時代とインフレの理由
インフレ抑制の最良の手段は、国営によるソシャゲサービスの提供である。
というか、大富豪から自発的に富を巻き上げれない国民国家は、近い将来に破綻するか政体変更を余儀なくされるだろう。
我らがフォーリンアフェアーズリポートジャパンが、また一つ、面白い論文をツイッタラーの為にチョイスしてくれた。
「マジックマネー」の時代
―― 終わりなき歳出で経済崩壊を阻止できるのか
セバスチャン・マラビー 米外交問題評議会シニアフェロー(国際経済担当)
The Age of Magic Money Can Endless Spending Prevent Economic Calamity?
ここで現代貨幣理論という言葉を用いない点が、このリポートの冒頭の秀逸さだと思う。
という冗談はさておき、テーマ的には完全に現代貨幣理論に欠陥があるのかないのか?というテーマであるように思う。ただ、今回論ずるにあたって、現代貨幣理論もその理論的基礎になっている信用創造も、論じるのはやめておこうと思う。
二番煎じだし、現代貨幣理論マニア(信者)とかと関わるのめんどい。
それはともかく、私は自著の二つ前のエッセイあたりからMMORPGを取り上げている。
ゲームとしてはオワコンのこの箱庭システムも、社会実験の場としてはとても有意義で可能性に満ち溢れたものだと思っている。
MMORPGにヴァーチャルセックスの要素が合流すれば、またケームコンテンツとしても画期的なものになると思うが、それはとりあえず横に置いておこう。
閑話休題
ここで言うところのマジックマネーとは、いわるゆ信用創造で生まれるマネーの事である。
それは乱暴に言ってしまうと、銀行預金を準備金とみなして、準備率を元にテコ原理で預金額以上の貸付けを行う事で、市中に預金の数倍のマネーを供給する手段である。
そしてさらに乱暴に言ってしまうと、この預金の預け入れをする人。つまり、預金者が政府当局だったりその地方の政府当局の委託を受けている中央銀行だったりすると、事実上、無から生まれたマネー(万年筆マネーとでも言うのかな?)が市中に供給されることになる。
もちろん、厳密に言えばそれは国家だったり中銀だったりの負債になるのだが、彼らはインフレリスクや国債暴落のリスクを無視する限り、いくらでもマネーを増やせてしまうのである。
このあたりの仕組みについては、以前に書いた自著エッセイで言及しているが、詳しいメカニズムを知りたければ、それなりの専門家の書いている学術書を当たってほしい。なおその時、日本の学者は政治的に偏りがあったり、教祖チックなところが多分にあるので、読むなら海外の学者の本を読むことをオススメする。考察の入り口ならともかく、論拠とするにはユーチューブ動画とか論外なのでご注意を。
さて、ではこれらの話を踏まえてインフレの原因というものを少し考えてみたい。
注意してほしいのはインフレ=リセッションではない事だ。別に景気後退やクレジットクランチといった経済的破綻とは全く違う現象だという事だ。
つまり、インフレが起きなくとも経済は混乱するのである。
では、なぜここまでインフレが起きることを経済の専門家や中央銀行の従業員たち、そして政治家たちが法律に明記してまでが恐れるのか?といえば、やはりインフレもまた経済を混乱させるし、歴史的な経緯からインフレこそが経済混乱の主要要因だと言われてきたからだ。
まあ、ここ数十年の経済史や株価を冷静に観察していれば、インフレが経済的混乱をもたらす時代は終わったとみるべきだし、事実として日本に限って言えばバブル崩壊以降目立ったインフレは起きていない。それにもかかわらず、小バブルやリセッションやそれに続く景気低迷は普通に起きている。
このような経験を経たうえで、一部の人たちは現代貨幣理論を提唱したのだろうし、今回のリポートの著者もマジックマネーという言葉を持ち出したのだろうと、私は思う。
簡単に言えば、インフレ抑制にこだわって、その為の施策を実行し続けることが、経済の発展に資するのだろうか?むしろ、インフレが起きなくなっているマジックマネーの時代に突入しているのなら、インフレ抑制の視点は無駄もしくは害悪なのではなかろうか?
という話である。
しかし、このような論の持って行き方をするには、まずインフレが起きない事の証明。もしくはインフレの原因の究明が必要になるのである。そこで、今回のようなレポートとなったのだと思う。
私としては、インフレの原因を探るのならば、MMORPGにおける物価推移を調べると面白いように思う。それは何故かと言えば、相場とは基本的には心理戦であり、疫病や災害などの外的要因がないかぎり、それは相場参加者の心理的要因で形成されると思うからである。
さて、まずはなぜ相場が心理戦なのか?という点について軽く書きたいと思う。
その理由は単純である。
人は値付けをする時に相手の「足元を見る」のである。
本当に欲しいものの値段は青天井になるし、有り余っているものは暴落する
これは「需要と供給」というありきたりな言葉で表されるが、簡単にコントロールできるものではない
ただ、MMOという限られたパラメータのみが存在する箱庭では、これらをコントロールすることは比較的たやすい
具体的なタイトルを出すのは憚られるので伏字にするが。この件については好対照な二つのMMORPGタイトルがある。
一つは「○VE is Real」とまで称され、リアル外交官やリアル軍人まで参加している「EV○Online」である。
もう一つは、ラグナ○クオンラインの後継と期待されて爆死した「Tr○e of savi○r」と言われる作品である。
EV○オンについては、物資やマーケットの商品のほとんどの供給をプレイヤーの手に委ねており、取引に用いられる通貨はプレイヤーがゲーム内クエストなどを経てマイニングするしかない。という、なかなか特徴的なシステムを取っている。
MMORPGにおける通貨発行のほとんどが、クエストやエネミードロップなどのゲーム運営が用意したコンテンツの報酬であるというのは、MMORPGにおける一般的な様式である。
現実世界に当てはめれば、NPC商店やクエストやエネミーが銀行の役割をしているのである。
EV○オンにももちろんこれらに相当する仕組みは存在している。しかし、それ以上に大部分のマーケットがプレイヤー間の取引によって賄われている。その仕組みは商品を株式に置き換えたかのようなティック型の取引である。
その結果、EV○オンでは長年の積み重ねによって、慢性的なインフレが進行している。そのインフレ具合は数年間で、フレイター級艦船の価格が数倍になる程度である。
このインフレ具合が健全なものなのかそうでないのか?の議論は横に置いておく。重要なことは、MMORPGのマーケットというのは市場原理に任せて放置しておくとインフレが進行していくという事である。まあ、銀行に相当するシステムが、ユーザーがプレイすればするほどマネーを無尽蔵に供給していくので、これは当然の帰結といえる。
無論、EV○オンに限らずMMORPGにはNPCによるアイテムの小売りや、なんらかのNPCサービスによるコストとしてゲーム内マネーを回収するシステムは存在する。しかし、大半のユーザーがまともな金銭感覚を備えている以上、ユーザーのゲーム内家計が赤字になる事はほぼ無い。
結果としてマネーは市場に滞留し、インフレを起こしていくのである。そう、ユーザーが次のボトルネックアイテムや攻略キーアイテムを購入するために貯蓄を放出するその時まで、その傾向は続くのである。
さて、この現象に対して「Tr○e of savi○r」略してT○sは、面白い解消策を提示してきた。それは三つある。一つはボトルネックアイテムの品目を時節ごとに変更してきたのである。
前のサービス期間では貴重品だったアイテムを次のサービス期間では過剰供給してみたり、逆に前のサービス期間ではゴミだったアイテムを、次のサービス期間ではボトルネックアイテムに仕立てたりしたのである。これによって局地的な相場のインフレやデフレは解消された。価格が地ならしされたのである。
二つ目は、Paytowinの仕組みを推進することで、高騰していたアイテムを市場に過剰供給することで、結果として供給過多の状態を生み出し、インフレを抑制したのである。
三つ目にこれが一番特徴的であるが、貴重品やボトルネックアイテムの供給方法に「くじ引き」を導入したのである。つまり、欲しいアイテムを定価で売るのではなく、目玉商品を当たりくじの景品にしたのである。これによって、市場から通貨がスムーズに回収されるようになったのである。
EV○オンとT○sではサービス期間もプレイ層も全く違うので、厳密に比較することは難しい。しかし、この二つの運営体制は好対照のように私は思う。
ちなみに、最新のロードマップではEV○オンにカジノが導入されるとのことなので、その仕組みによってはインフレが抑制ないしは解消されるかもしれない。
さて、この仕組みをリアルに当てはめて考えてみたいと思う。
まず、インフレ抑制の方法の一つ目にして最大の手段は、このエッセイで触れるまでもなく、通貨発行主による負債の返済である。
負債によってマネーが供給される以上、通貨発行主が回収したマネーを返済に充てれば、それでマネーは消滅し、結果としてインフレ抑制につながるのである。
逆に言えば、市場からマネーを消し去る手段は、物理的な手段を除くと、これ以外にはない。物理的な手段としては、家計や企業の預金を現金化し、それらの現金を物理的に焼却するのがその方法となる。完全に現実味がないし、誰も得しない無駄な行為である。下手したら違法かもしれん。
さて、ではどのようにマネーを回収するか?と言えば、ぱっと思いつくもので2つある。
通貨発行に政府が関わっている事を前提とするのだが、一つは徴税による回収と歳出による国債の返済である。
もう一つは、国営サービスによる料金徴収である。これはインフラに限らず、国営のギャンブルなども財政の仕組みによっては当てはまると思う。
このように、自国の市場に出回るマネーを自国の国家当局がコントロールできる限り、原理的にはインフレは起きない。すべてを市場に委ねるなどという愚かしい真似をしない限り、そもそもインフレを起こしようがないのである。
さて、では歴史的なインフレはこのコントロールが失敗したから発生したのであろうか?
答えは「否」である。
その答えについてはMMORPGとはほぼ関係ないのでサラっと流すが、前述のエッセイでも書いた通り、外交的なバリュージャッジの結果、通貨に価値無しと判断された場合にインフレが起きるのである。そして、特定の国で起きたインフレによる混乱が他国のサプライチェーンを巻き込めば、その外的インフレは周辺国に感染するという次第である。
この辺りの、外的なインフレ要因についてはほぼ、二つの世界大戦前後を調べれば、ほぼ回答を得られると思う。
マジックマネーの正体とは、つまるところ信用創造の管理によってもたらされている虚像なのである。
それは物資のサプライチェーンと政府のマネーコントロールの二つが、適切に管理されている場合に限り、発生する現象なのである。
逆に言えば、マジックマネーの活用を妨害したければ、これらのうちのどちらかを一時的に破壊すればよいだけの話である。
以上、細かい事を書き始めるとキリがなくなるので、この辺りで筆をおさめたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。