一章 第二話
二
「んん…」
俺が目覚めたのは、鬱蒼とした森の中だった。
変な草も生えている。(wwwwwwwwwww)
俺の脳内にも草が生えた。
笑わずにはいられなかった。
それなりに、ラノベを読む俺は、ある結論にいたった。
「これ、異世界転移モノだな…」
夢だとは、思わなかった。(実際、夢じゃなかった。)
「ってことは………俺、異能力者にでもなったか?」
短絡的だが、異世界転移物のお約束である。
そんな想像をしていて、気付くのが遅れた。
異形に囲まれていた。
異形が一体襲いかかってくる。
とりあえず殴ってみる。
軽い異形は、少々飛んだが、ダメージは受けていないようだった。
「あっ…異能は無い系か。ってやべぇ」
薄々気付いていた。力が溢れ出すみたいなこともなかったし。
必死で助けを呼ぶ。
異界に飛ばされ、そこで死ぬなど嫌だ。
ん?まさか、「R●:ゼ●」パターンか?
いや、それも嫌だ。何回も死ぬのは御免だ。
鬱蒼とした森の中、人など歩いている筈がないとは思いつつも、ひょっとしたらという僅かな希望をもとにひたすら叫んだ。
いや、こういうのはお約束で、誰かがいる筈だ。
異形が殴れそうで殴れない、すんでの所まで近付いてきた。
異形が襲いかかろうとしてくる。
もうダメか。
俺が、死を覚悟したとき、異形は、動きを止めた。
へ?なぜに?なぜに動きを止める?
助かったのに疑問に思ってしまった。
そんな時ふと、聞こえてきた足音。
俺は、悟った。救世主のお出ましだと。
俺の心に希望が芽生えた。
足音の方を向くと、西洋の騎士風の美男子が立っていた。期待大。
「救世主キター」
心の中だったが叫んでしまった。
いや、実際に声に出てたかもだけど。
騎士の全身をチェックする。
そこで、あることに気づく。
騎士の手に握られていたもの、それは戦闘力とは無縁そうな物だった。
俺は絶望に包まれそうになった。
その手には、剣ではなく、蒼い布団叩き(のようなもの)があった。
「ー布団叩き………」
俺は、絶望する。
通りすがりの、家事中の騎士(?)か……
(なんだよそれ!と突っ込みたい人もいるだろう。俺も突っ込みたい。それくらい、落胆し
ていたのだ。)
そんな俺の絶望ないし落胆など知らない騎士は、「お呼びかな?」とJC・JKならキュンキュンしてしまう様な声で言った。
不知火の、五倍ぐらいいい声だったのだろうが(あとで聞いた声からの推測)、絶望ないし落胆した俺には届かなかった。
俺は項垂れた。
騎士は、それを頷きだとでも思ったのか、「僕に任せろ!」と威勢よく言った。
顔をあげることもできなかった。
俺は、ただの人の良い頼まれると断れない早死にするタイプの家事中の騎士なのかと思った。(どんなタイプだよ!いや、家事中の騎士って!)
しかしだ、その時騎士が途轍もない威圧感のあるオーラを発し始めた。
驚く俺、騎士を凝視する。
騎士の手に握られた布団叩きは、みるみるうちに両刃剣へと変わっていった。
結構かっこいい。
蒼く光る刀身。角ばったCの字のような鍔。何やら模様の入った長い柄。
訂正、かなりかっこいい。
俺の心が再び希望に包まれる。
「君っ!しゃがんで!」
言われるままに、その場にしゃがみこみ、固く目を瞑った。
何故その時目を瞑ったかは覚えていない。人間としての本能がそうさせたのかもしれない。
騎士が剣を一振りしたような音がした。
とたんに、何者かの断末魔の様な声があたりに響き渡った。
その声を、俺は今でも覚えている。
聞いた者に恐怖を植え付けるような声だった。
そんな時、騎士が聞いた人に希望を与える様な声で言った。
「もう、大丈夫」
その声で異形に植え付けられた恐怖心は引き抜かれた。
俺は、目を開ける。
そこに異形はなかった。