09話
【その中から特に優れた52人をトランプになぞらえ選抜しました。
『国営トランププロジェクト』とは、その団体の総称です。
その52人は選ばれし国民、通称スートと呼ばれます。
スート達は、国がリストアップしたいわゆる『犯罪者予備軍』と呼ばれる者達を監視します。
その上で、自己の判断で法で裁けない者達に、判決を下すのです。
判決を下され、悪と認識された者達は、国の収容所へ送還されます。】
読んでいて気持ち悪くなった美咲は、スマホをその場に放りトイレへと駆け込む。
嘔吐するほど、気持ち悪い。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
吐いても吐いても、気分が良くなることはない。
自分も、この中の一人になれということなのだろうか。
自分には、誰が悪で、誰が善なのかなんて、決めることなどできない。
美咲自身、自分が全て清く正しく生きているなんて思っていない。
昼間、鳴戸があやかに言った『判決の時間だ』という言葉を思い出した。
鳴戸はきっと、選ばれし国民だ。
あの人は自分が選ばれし国民であることを受け入れ、使命を全うしている。
自分にあれと同じことをしろと言うのか、と美咲は思っていた。
気分が良くなることはないけれど、断るにしても、最後まで読まなくてはならない。
気持ち悪いことは、一気に受け入れたい。
トイレから出た美咲は、もう一度リビングのソファに戻り、スマホを拾い上げる。
【また、能力が高いスート達を制御するのは容易ではありません。
スート達が不正を行わない為に。
私利私欲の為に動かない為に。
さらにその上にスートの監視役を設けました。
それが、ジョーカーです。
ジョーカーは、スートの監視が主な使命です。
ジョーカーの存在は、スートには知らされていません。
ジョーカーは秘密裏に、スートを監視しています】
国民の上にスートを。
スートの上にジョーカーを。
ジョーカーの上に国を?
どんな構図なのだろう。
頭が混乱してくる。そしてふと、あることを思い出す。
「あれ、そう言えばエキストラ・ジョーカーって…」
美咲の役職は、エキストラ・ジョーカーだと、アイは言っていた。
エキストラ・ジョーカーってなんだっけ?
トランプに詳しくない美咲は首を傾げる。
アイのメッセージがさらに更新される。
【芝浦美咲、あなたは存在しないエキストラ・ジョーカー。
国にもスートにも属していません。
あなたはスートの中から、仲間を見つけてください。
正しい判断のできる人間を、探してください。
あなたにはやるべき使命がある。
その為の仲間を、探して欲しいのです。】
最後まで読んだ後、美咲はスマホで文字を入力する。
一番聞きたかったことをアイに投げかける。
【あなたは一体誰なのですか】






