04話
「……」
黙ったままの美咲の反応を見て、男は感心したように笑う。
「沈黙が最大の防御と知ってるなんて、なかなか頭がいいじゃない。まぁそれはそれで困るんだけど」
顎に手を当てて、考え込んでいるような仕草をしている男を美咲はもう一度正面から見据える。
やはり、なにも『見えて』こない。
「君は、僕らの仲間? それとも敵?」
「…なにを言ってるんですか」
突然の質問に美咲は身構える。
が、まったく彼の質問の意図が読み取れない。
なにが言いたいのか分からない。
「あれ、本当になにも知らないって顔だね。おかしいなぁ」
伝わっているのかいないのか、彼は不思議そうに、でも笑顔のまま話を続ける。
美咲はその笑顔が怖くて、身体に力を入れて警戒する。
「…メガネ、返してもらえますか」
「あぁ、悪かったね。うん、もういいよー」
振り絞って出した希望を受け入れてもらえて、一瞬気が緩んでしまった。
メガネを取ろうと差し出した右手をそのまま掴まれて引き寄せられてキスをされた。
驚いて慌てて男の胸板を両手で押し返すと簡単に彼は手を放したが、抱えていたあやかが地面にゴン、と嫌な音をして転がってしまった。
「あ、あやかごめんっ! いや、でも、あなた!!」
あやかが頭を打っていないか心配しながら抱え直し、男を睨みつける。
「ごめんごめん。美味しそうだったんで、つい。はい、本当にメガネは返すよ」
悪気がないように両手を上げて心にもない謝罪をした後、男はそのまま美咲の顔にメガネをかける。
「僕は、メガネをかけてない方がタイプだけどね。ごちそうさま」
「ひゃっ!」
メガネをかけてあげながら、自分の口をぺろっと軽く舌なめずりをする男を見て、美咲は思わず目をつむってしまう。
男は、美咲から離れるとそのまま店の入口へ視線を移す。
「――時間だ」
美咲が連られて視線を移すと、入口にはサングラスに黒スーツという、いかにもな格好をした男が二人、立っていた。
「そこに寝てる子だけだよ、メガネの子は置いてってね」
先程の笑顔のまま、男はスーツの二人組に指示をする。
スーツの男達は怪訝そうに美咲を見た。
「しかし、大丈夫なのですか?」
「二度は言わない」
空気が凍った。
その一声で、スーツの男達はなにも言わずあやかに手を伸ばす。
「――承知しました」
男達に連れて行かれるのが怖くて、あやかをあばうように抱き締めて抵抗する。
「ちょっと待ってください、この子は、あやかをどうするつもりなんですか!」
「…」
スーツの男達に必死に訴えたが、なにも答えない。
美咲の抵抗は男達にとっては大した抵抗ではなかったようで、美咲の手はあっさり解かれ、そのまま連れて行かれてしまった。
誰か助けて…と、店内を見回したところで、美咲はようやく妙な点に気づいた。
「お、ようやく気づいた?」
「――誰も、いない」
美咲の視線の行方に気づいて、男は感心したように声を掛ける。
そう、店内には美咲と男以外、誰もいなかったのだった。