02話
「美咲、久しぶり!」
「あやか」
次の日、土曜日13時。
美咲は待ち合わせ場所の駅前で、駆け寄ってくるあやかに手を振る。
「何年振りだっけ? 10年以上? 高校の時以来だよね」
「言わないで! それは言わないで! 年取ったって思いたくない―!」
高校時代の同級生、あやかに言われて美咲は自分の耳をふさいだ。
あやかはクスクスと笑いながら、予約をしたという店に向かって歩き出す。
あやかとは高校卒業以来連絡を取っていなかったのだが、とあるソーシャルアプリで再会し、今回直接会うことになったのだった。
久しぶりに会ったあやかは、高校性の頃と変わらずとても綺麗。
昔から綺麗な子だったけど、30歳すぎて大人になった感じ。
「あやかは相変わらず綺麗だねぇ」
「なに言ってるの、美咲の方が昔からモテてたくせに。てか、まだそのメガネ、してたんだね」
「は、はは…」
たしかに美咲が身に着けているメガネは、お世辞にもお洒落とは言えない。
色々試してみて、このメガネが一番合っていたのでかけているだけ。
合うのであれば、正直なんでも良かった。
美咲は苦笑しながら、メガネを反射的に触る。
外れないか心配で、昔から癖になってしまっている。
「ついたよー!」
くだらない話をしている内に着いたのは、なにやらおシャレな雰囲気のあるカフェ。
昼間だと言うのに、店内は薄暗く、モダンカントリー調の落ち着いた雰囲気。
穴場の店なのか、お客さんは自分達しかいないようだ。
「よくこんな店知ってたね」
「この年齢になれば、ね。もうファミレスで何時間も粘るって歳でもないでしょ」
それはたしかに。
席に案内されて注文をする。しばらくするといい香りのコーヒーが運ばれてきた。
一口飲むと思っていたより本格的で、美咲はまた別の友達も連れて来てみよう、と店内を再度見渡していた。
「それでね、今日は話があって来たのよ」
あやかが話を切り出したのが聞こえて、美咲はぼんやりと動かしていた視線を戻す。
「実は私、最近お気に入りの化粧品があってね」
その一言で、全てを察した。
美咲は心の中で深いため息を吐く。
――マルチ商法。そう直感した。
子どもの頃は、みんな純粋に楽しいことで盛り上がっていられた。
お金の心配なんかしたこともなくて、数少ない悩みと言えば、月のお小遣いじゃ欲しい服が買えなくて、親に何度もお小遣いの交渉をしたことくらいだ。
いつから友達の間に、こんな格差が生まれるのだろう。そんなにお金に困っているのだろうか。
いや、こんな話を始めること自体、あやかは美咲のことを友達とは思っていなかったということなのだろうか。
美咲が頭の中でそんなことをぐるぐる考えている間も、あやかの話は続いている。
少し高いけれど効果はかなりあるとか、持続して使うことが大事とか、自分経由で買うと社割で買えるとか。
「ごめんあやか。私、化粧品はいらない」
話の途中で腰を折り、美咲はそう告げて荷物をまとめる。
「なに言ってるの美咲! そんなこと言わずに最後まで話を…」
「ごめん、帰るね」
ただ普通に昔を懐かしんで、お茶が出来ればそれで良かっただけなのに。
そう思いながら、お会計伝票を持って美咲は立ち上がる。
そんな美咲の腕を、あやかはガシッと掴んだ。
「いいからちょっと待ってって言ってるよね」
振り向いた美咲と視線がぶつかった。
あやかの目は、常軌を逸していた。
「あやか…」
この子になにがあったのだろう。
なぜ、そんなにお金が必要なのだろう。
ほんの、出来心だった。
美咲は自分のかけていたメガネを外し、もう一度あやかと視線を合わせる。
「ひゃっ!!」
合わせた瞬間、目の前に真っ黒な大量の文字が押し寄せてきて、思わず美咲は声を上げた。
お金が欲しい
お金が欲しい
お金が欲しい
男に騙された
男に裏切られた
金を持ち逃げされた
身体を売って稼いでもお金が足りない
なんでこんなことになったんだろう
つらい苦しい悲しい
助けて――
「あや…」
「ストーーーーーーーップ! はい、そこまで」
声がした方に美咲が顔を向けると、そこには知らない男の人が立っていた。
美咲は慌ててメガネをかけ直す。