爺! ~表に出なかった最強、ようやく~
新しい奴です。
異世界転生と言うのを体験した。
マンガや小説などで腐るほど題材にされてきたアレである。
前世で命を落としたのが高校生くらい。
もろにその類のマンガ等を読んでいた時期だ。
その数多ある異世界転生もので、いくつかパターン化されているものもあり、私も一つそれに乗ってみることにした。
転生したて、赤ん坊のころから魔力を操る訓練をし、身体が動くようになればどんどん鍛えて行った。
勉強も怠らず励み、戦闘方法も会得していった。
残念ながら魔力はあれど魔法の才能はなかったので、魔剣術という剣に魔力を流して戦う武術を覚えていった。
もちろんそうまでして己を鍛えたのは、目立ちたいとかハーレムとかではなく、とにかく自分の身を護り、手の届く範囲の人を守ろうと思ったからだ。
何せそのころ読んでいた異世界転生系の本は、概ね異世界の環境が劣悪で、酷い目にあったり、一度どん底に落とされてから這い上がるみたいな主人公が多かった。
今になって思えば、全然劣悪でもなんでもなかったが。
とにかく、それゆえに私が目指した主人公は、とにかく鍛えた技術を隠して裏方に徹する主人公だった。
陰の主役と言うやつだ。
学園ものでクラスではそれほど目立たない奴だが、実は強いみたいな。
そしてそれは実現できた。
様々な才能を持った者が集まる学園に通う事となり、同じクラスには、よく目立つまさしく主人公のような男子がいて、彼を囲うように美少女達が集まっていた。
その中で私は目立たないように過ごし、それでいて学園内で起こる様々な問題を、解決したり解決しようとする主人公くんを影ながら手助けをしたりした。
そうして実力を隠し、目立たぬよう平和な生活を目指していき――。
気が付けば学園を卒業して五十年が経っていた。
――うん、いや、いいことだらけな人生だったよ。
目指していた平和な生活を過ごせたし、気立てのよい妻ももらった。
今でこそ妻に先立たれてから一人で過ごしているが、本当に満足な人生だ。
――しかしなんだ、私の予想ではその、実力を隠していてももう少し波乱万丈な人生になると思っていたのも事実なんだ。
そう、よくある実力を隠している主人公の学園ものでは、たいていクラスの中心人物なりどこかの組織だったり国の中枢だったりに実力がバレ、なんだかんだ言いながら手を貸していくみたいなものが多かったから。
実際、学園で過ごした間、本当に色々事件はあった。
陰謀に巻き込まれ追われている王族に手を貸したこともある。
まあ、確かにその時には「私の事は秘密で頼む」と頼んだ。
――……本当にその後何もないとは思ってなかった。
いや、律儀に私の頼みを聞いてくれた彼は――現国王であるが――何も悪くない。
むしろ本当に私が頼んだ通りにしてくれた彼は、本物の善人と言えるだろう。
ただ今の地位につくまでには、本当に苦労しただろうし、忙しかったろう。
当然人手がほしいと思う事もあったろう。
だからこそ、少しくらい私の事を思い出してくれてもよかったのではないかと思ってしまう。
物語とかでは秘密にしてくれと頼んだところでなんだかんだ手を貸すことになるのが普通だったので余計に。
他にも私の闘う姿を目撃した人は少なからずいた。
何せ学園内での出来事だ。
そのほとんどは主人公くんが大舞台で解決するようなものでも、中には舞台裏をのぞいてしまうものもいたのは当然の事。
私がいくら実力を隠して陰で行動しようとも、見つかってしまうときは見つかってしまう。
無論、その生徒らも私の事は黙っていてくれた。
――……うん、皆私が陰で動いているのを察して黙っていてくれたいい人たちなのはわかっている。
その点に関しては感謝しかない。
おかげで平和な生活を手に入れたのだ。
ただ、少し察しが良すぎではないかとも思う。
何故ならその生徒らには口止めすらしていないのだから。
――いや、文句ではない。そんな矛盾だらけのわがままみたいなことを言うはずもないだろう。
「……はぁ」
そこまで考えたところで思わずため息をついてしまう。
妻に先立たれたから幾度となく考えてしまうくだらない回想。
妻が生きている頃は過去を振り返ることなど一度もなかったが、一人の寂しさと言うのはことのほか堪えるようだ。
「……ふん!」
私は迫りくる魔物を片手間に切り捨て、山菜を集めている。
山で暮らすようになり数十年。
最近では肉よりも野菜の方を好むようになったので、山菜取りは大事な仕事の一つだ。
この山は魔物が多く出るので、肉にはさほど困らないしな。
私は剣を鞘におさめ、再び山菜を探し始める。
山で暮らし始めたとき、老いたときに魔物狩りは苦労しそうだと、漠然と思っていたが、思ったよりも大丈夫だった。
年を取るにつれ筋力は衰えたが、魔力を操作する力は年々練度をあげ、肉体強化や魔剣技術のお蔭で、若い頃と同じように体を動かせていたためである。
「ああ……そういえばギルドカードの更新時期も迫ってきたが……どうするか、最近は使わないしな……」
だいぶ前に目立たないよう、程々のランクに抑えようとBランクのギルドカードを手に入れたが、その後は妻とスローライフを楽しむために、魔境と呼ばれるこの山で過ごすようになり、使う事はほとんどなかった。
「しかし……ここに住むようになったときはこの絶景も感動したものだが、今や見慣れたものだな」
魔境と呼ばれる山にわざわざ越してきた理由が、この景色にあった。
強力な魔物が巣食うこの山は、太古からの自然が残った素晴らしい光景を見せてくれる。
その景色をたいそう気に入った妻たっての希望でこの山で暮らすようになり、三十年は経っていた。
そんなことを思い出しつつ、私は帰路につく。
――とある王国。
かつて大きな内乱を経て、才覚溢れる王が国を守っていた。
そしてその国の王が、今まさに凶刃に倒れようとしていた。
「陛下!!」
「お爺様!!」
王は傷を抑えつつ、二人の子供を守るように魔法で結界を張っている。
「ふむ、流石に一撃では殺れんか。年老いたとて手ごわい相手だな」
「……はっ、ワシ、程度で手ごわいとは、程度が知れる、な……」
「言うじゃないか死にぞこない」
「…………何が目的じゃ……どこかの国に属しているようには見えんが」
「目的か。……言うなれば、最強かな」
「……なにを、言っておる」
「あんたは国を背負うものでありながら大陸屈指の魔法使いだ。どれほどのものか試したくてな。ついでに兵士で遊んでみた」
「そんな、くだらん理由、で……」
「くだらんとは酷い事をいう。男の夢だろうに」
「……………………」
王は男を無言で睨みつける。
もはや王に男へ対抗できる力など残っておらず、結界張りつつ少しずつ止血をするので精一杯だった。
だがそれでも、自分の後ろで泣いている二人の孫を守る為に最後の力を振り絞っていた。
男は一瞬だけ二人の子供に目を向ける。
「ま、ガキには興味がないから俺はもう行くよ」
そしてそう言って男は颯爽と去っていった。
「……くっ」
王は男がいなくなったのを確認すると、気が抜けたように結界をといた。
「……陛下っ!!」「お爺様ぁ……っ!!」
二人の孫は縋るように王へ抱き着く。
「……安心せい。この傷であれば、まだ、止血すれば、何とかなろうて……大丈夫だ、死にはしない……」
そう言って王は孫を安心させようとする。
「そうですか。それは困りますね」
しかしその言葉の後、先程の男とは別な男の声が響き渡る。
そして王の背中に突き刺さる刃。
「ぐ……ぉっ」
「え……?」「……ぁ……」
とっさに、再び孫二人を囲うように結界を張る王。
「ああ……今度、は……何じゃ……」
息も絶え絶えな状況ながらも声を発する王だったが、男はその言葉を聞こうともせず、自分に酔ったように口を開いた。
「ああ、嘆かわしい。せっかくあの戦闘狂をこの城に差し向けたと言うのに、この体たらく。良くも悪くも戦いにしか興味のない男でほとほと困りますねぇ」
「……貴様が……」
「僕の予定ではここであの戦闘狂が王族全てを皆殺しにしてくれて、僕は手を汚さずこの地を手に入れることが出来る予定でしたのに。こうして血筋が残っているとなると、結局僕自身で手を汚さなければならないじゃあーりませんかぁ?」
その言葉に先ほどの男とは違い、この男は孫たちもろとも命を奪おうとしているのを察し、王は命を捨てるつもりで魔力を高め始める。
「んんんんん? おや、勝手に死なれるおつもりで? それとも最後の抵抗で僕に攻撃を仕掛けてくるおつもりじゃないですよねぇ? 一応言っておきますけど、無駄ですよ。便利な魔法具を手に入れてまして、魔法攻撃は一切通じないんです、僕。あなたが何かするつもりなら、完全に無駄骨ですよぉ?」
命を振り絞る王を前にして、ニヤニヤと笑いながら話す男。
しかし王は男を言葉を無視し、後ろにいる孫たちに向き合う。
「……すま、ないな。どうやら私はもう駄目だ」
「……はい」
「そんな……っ、嫌です! お爺様!」
時期王としての教育を受けた王子は悲痛な顔をしつつも事態を真摯に受け入れようとし、蝶よ花よと育てられた姫は受け入れがたいと泣き喚く。
「ああ…本当にすまないな……だがこれは、どうしよもなくて、の…………私も、この国も、ここで終わる、らしい」
「「………………」」
王子が姫の――妹の手を強く握る。
姫もまた、兄のその行動で、自分の大好きな祖父の、最後の言葉を静かに聞くべきなのだと悟った。
「だが、お前たち、いれば……生きて、さえいてくれれば、いつか私の愛した国が戻ってくるかもしれん。私が目指した、平和な、国が……」
「……はい」
「お爺様…………」
「……ぅ……お前たちの、両親が事故で亡くなり、私が親代わりとして育ててきたが……立派に育っておるよ、お前たちは……。……王として生きていく術を学んできた、知性に溢れた兄と強い優しさと慈愛に満ちた妹……お前たち兄妹なら……」
「陛……いえ、お爺様……」「おじいさまぁ……っ」
王がそこまで話したところで、つまらなそうな声で男が横やりを入れてくる。
「もぉいいですぅ? なんか僕を無視して勝手に最後の言葉とか始めちゃいましたけど、そんな言葉残したところで、結局全員死ぬんですけどねぇ」
その言葉に二人の子供は身を強張らせるが、王は少し口元を緩める。
「私は確かに死ぬだろうが、この子たちは違うな」
「………………何?」
王は先ほどから命を削って高めた魔力を使い、複雑な魔法を構築していく。
男は怪訝そうにそれを見ていたが、徐々に驚愕の顔付けへと変化する。
「まさか……それは!」
再び男を無視して孫たちに語りかける王。
「いいか……今からお前たちを、ここから出来るだけ遠くへ逃がす。そこから、魔境と呼ばれる山を目指すんじゃ……そこに住む、あの人なら、必ずお前たちの助けとなってくれる」
「お、爺様? 一体何を……いえ、まさか」
「お、お爺様、ま、魔境……? ってどうしてそんな……それにあの人って」
王のやろうとしていることを察したのか、男が必死に結界を剣で切りつけているが、傷が出来る気配すらない。
王は自分の命が残り少ないのを察し、詳しい説明を省いて魔法を構築していく。
「お前たちには厳しい道のりになるかもしれないが、あの人に助けを求めることが出来たなら……」
「だからあの人って」「どんな人なの!? お爺様!!」
「……最強のお人じゃよ」
そういって王は最後の力を振り絞って二人の子を転移の魔法で、可能な限り遠くまで飛ばした。
それと同時に先ほどまで圧倒的な強度を誇っていた結界が消えうせる。
「………………無駄なことを」
先ほどまで男が見せていた余裕そうな表情ではなく、苛立ちを前面に出した顔つきに、王は一矢報いたとほくそ笑んだ。
「はは、無駄ではないさ。あの人なら必ず力になってくれる。あの時のように……」
王が最後に思い出したのは、内乱の始まりの日、多くの追手に思わず諦めの言葉を吐こうとしたとき、颯爽と現れた男。
『……助けてやる。報酬はそうだな……私の事を秘密にしておくだけでいい』
そういってあっという間に追手を切り伏せた彼の姿だった。
助かった後、お礼をしたいと言うと。
『本当にいらない。先程も言ったが、私の事を秘密にするだけでいい。……いや、ただまあ、一つあるとすれば、この国を良くしてくれ。俺の平和のために、さ』
――ああ、あの人の平和を私は作ることは出来たのだろうか……いや、駄目だな。最後に秘密にしておくと言う約束を破ってしまった……。
「孫たちを、お願いします」
――ザンッ!!
この日、賢王と名高い王が命を落とし、国が一つ落ちた。
――そしてこの日が、真の最強たる男が、長い時を経てようやく、表舞台に立つこととなるキッカケの日であった。
実力を隠す系主人公が、本当に実力を表に知られることなかったおかげで大分歳とっちゃったって話。
そこからちょっと表に出してみよう的な。
ボツにした理由としては、大前提としてバトル物書けない。
後、頭に浮かんだだけでも登場人物が多すぎて渋滞しそうだと過去のボツから察したため。
個人的に読みたい話だったから設定考えたけど、案の定断念しました(笑)