①兄と友達
幼稚園までは、何をやるにも一緒だった。小学生までは、隣の布団で寝ていた。中学生までは、一緒に登下校していた。
高校生になってから、何だか冷たくなった気がする。俺はどうすればいいのだろう?
俺の相談に、親友の玉木正と枝葉楓は揃って
「「いい加減妹離れしろ」」
と回答した。
「小方川さあ、妹の美子ちゃんが可愛そうだと思わないの?」
と玉木。
「私だったらあんたみたいな兄さん、絶対嫌だわ」
と枝葉。
「わざわざ喫茶店なんか連れて来てさ、俺だって暇じゃないんだぜ?」
と玉木。
「私だって、良い大学狙ってんだから。貴重な勉強時間を削って来たのに」
と枝葉。
「うるさい!」
俺はテーブルを叩いて激怒した。
「何が暇じゃないだ!お前ら揃って帰宅部だろうが!良い大学狙ってる?うちみたいな底辺進学校しか入れなかった奴が嘘付け!嫌なら出てけ、今すぐ出てけよ!」
玉木と枝葉が本当に席を立って出て行こうとしたので、俺は慌てて二人の腕を掴み、引き止めた。
「ごめんなさいごめんなさい。もう大声出さないから、悪口言わないから、お願いだから聞いてください。あなたたちしか相談できる人いないんです。お願いしますもうしません」
二人はしぶしぶ元の席に戻った。ふとカウンターの方を見ると、店長がとてつもない形相で睨んでいる。どうやら声が大きすぎたらしい。
俺は急いでマスターの元へ駆けつけ謝りに謝った後、店内にいたお客さん一人一人挨拶に伺い、全員に頭を垂れて謝った。
やるべきことを終えた俺は、やっと自分の席に戻った。
「まあ友達だから、悩みは聞くけどさ」
「ありがとうな玉木。ありがとう」
「貴重な時間を友人に捧げるのも悪くないしね」
「ごめんな枝葉。ごめん」
枝葉はセミロングの黒髪を右手で払う。形の良い耳が一瞬露になり、自然に目で追ってしまったが、それでも我が妹の方が数段美しいはずだと心の中で思い直す。
「で、美子ちゃんに何かあったの?あんたシスコンで気持ち悪いけど、美子ちゃんもあんたのこと嫌ってなかったはずでしょ」
「それどころか大好きなはずだよ」
「それは主観の問題として」
「違うよ。美子は俺のこと大好きだよ。これは絶対の事実だよ」
「分かった分かった。分かったから。
で、妹が最近冷たいって言ってたけど、何かあったの?早く言ってみなさいよ」
「どうせ」
玉木が人の悪い笑みを浮かべながら口を開いた。歪んだ唇が彫りの深い外国人風の顔に似合っていて、同性から見ても魅力的だった。
「おはようの挨拶返してくれなかったんだよ~とか、最近行ってきますのチューがないんだ~とかそんなところだろ。お前らのシスコン、ブラコンっぷりは有名だ」
「チューはさすがにしてない」
「冗談だよ」
「一緒にお風呂は入ってるけどな。一週間に一回」
玉木は絶句した。
枝葉は話を戻すためか、一つ空咳をした。
「ともかく、ブラコン入ってる美子ちゃんが最近冷たいってどういうこと?原因は分かってるの?」
「ああ、冷たいっていうのは言い過ぎだったかもしれない。ただ最近隠し事が増えてな」
「美子ちゃんも高校生なんだから、それぐらい当たり前よ」
「仕方ないのかな・・・で、心配だから最近美子の部屋に忍び込んで机の中、ベッドの下、箪笥と、定期的に調べてるんだが」
「母親かよ」
俺はバッグから白い封筒を取り出すと、封筒の中から、折りたたまれた一枚の紙を出して、テーブルの中央に置いた。
二人は身を乗り出して、それを眺める。
「これは?」
玉木の疑問に答えるように、俺は折りたたまれた紙を広げ、その中身を二人に見せた。
「ラブレターだ」