TOP GUN part 1
智樹は、迷彩戦闘服を着た2人の兵士と大きな扉の前に立っていた。
「よっ! また会ったな、お手伝いさん!」
アゥストフと言う無精髭の男と、見た事の無い金髪でハーフアップの男が、智樹を挟むように立っている。
アゥストフは、ボリボリと頭を掻きながら面倒くさそうに話を始めた。
「えーっと、改めて自己紹介しておく! 俺の名前はアゥストフ・マッキンリー! 一応、大尉やってる。で、そっちの金髪の若いのが、グエル・ヘイへ少尉! 俺の部隊の狙撃手だ!」
アゥストフは反対側でニヤニヤしている兵士を紹介した。
「あんたは結婚した夫婦の夫と、罪を犯して捕まってる囚人の違いがわかるか?」
智樹は突然グエルという男から質問された。
「えっ? 罪を犯してるか、そうじゃないか。じゃないのか?」
智樹はそのまま思った事を答えた。
「はっずれぇぇ! 囚人は態度が良ければ釈放してもらえるだろ?」
グエルはそれを言うと、一人で大爆笑していた。
「あぁ、ごめんな! 俺はグエル、グエル・ヘイへ! よろしくな! あんた、基地に鉄の鳥で入ってきて、取り囲まれてた奴だろ? 面白いじゃん! 名前なんてーの?」
こいつは凄まじく明るくてフランクな奴、どこか自分に似ていると智樹は思った。
「あれは参ったぜ! ノーリの指示で着陸してみれば、今にもWTの部隊に撃たれるかの瀬戸際! 外国で捕虜になる人たちの気持ちがわかったぜ! 俺の名前は長坂智樹、ファーストネームが智樹で、ファミリーネームが長坂だ! ローフィって呼んでくれ!」
智樹は交互に2人と握手した。
「ところでさ? 二人はオーラ力とか、使えちゃったりするの? ハイパー化とかで、機体大きく出来ちゃったりするの?」
智樹はロボットに乗って戦う人たちに、一回は聞きたいと思っていた質問をしてみた。
「何の事だ? オーラ力? ハイパー化? WTは設計で大きくは出来るだろうけど、特に大きくするメリットも無いしなぁ」
アゥストフとグエルは顔を見合わせ首を捻っている。
「じゃあ、ニュータイプとかは?」
智樹がまた新たな質問をした時、ちょうど良く目の前の扉が開き、中にいた兵士が敬礼した後、三人に声が掛けられた。
「中にお入りください!」
智樹とアゥストフとグエルは言われたまま、その大きな扉の中に入った。
呼ばれた兵士についていくと、三人の前には玉座に座る王様らしきダンディーな男と、その横には、ずらっとスーツを着た人達が並んでおり、その中にノーリの姿も見つけた。
すると、先導している兵士が急に止まり、「全体、止まれ! 全体休め!」と声を張ったので、智樹はとっさに休めの体制を取ってしまっていた。
「陛下! マッキンリー大尉、ヘイへ少尉、ならびにお客人! 以上3名が参られました!」
玉座に座っている王様らしき人に、大声で報告していた。
智樹はそんなに声を張らなくてもいいだろと思いながら聞いていた。
「ありがとう! 元気があってよろしい!」
王様らしきダンディーな男性は大声の兵士に声をかけたのだが、兵士は嬉しかったのか更に大きい声で、「ありがとうございます!」と広い部屋の中に声を轟かせた。
それを気にもせず王様は、3人に話しをかけた。
「3人共、ご苦労様だった! 君がローフィ君かね? ノーリ君から話は聞いてるよ! 私は、グラティス・ブラガー3世、この国の国王をやっている」
王様の口からローフィと言われたので、智樹は一瞬ノーリを見たが、ノーリは涼しい顔をしていたので、「はい!」と話を合わせる事にした。
「君は異世界の日本国という国の、自衛隊と言う軍のような所で、戦闘機という鉄の鳥に乗り、戦闘、または支援活動をしていた幹部将官、と聞いているのだが、間違いではないかな?」
ノーリは何処まで話したのかと思うくらい智樹の事が王様の口から話されていて、智樹はとっさに、ノーリに恥ずかしい事を教えたかどうか、ノーリとの会話を思い出していた。
「間違いではないです! それで、俺になんの用で呼んだんです? 戦闘機まで持って来させて!」
智樹が王様に向かって口を開くと、横のスーツの人達がどよめき出した。
「陛下に向かってなんと!」
「ちゃんとした教育を受けて来なかったのか?」
「馴れ馴れしい!」
この様などよめきの中に笑っている人が2名いた。
ノーリと、その横にいる背の高い凛々しい中年男性だ。
「僕の言った通りだろパパ! ローフィは面白い男なんだ!」
横の中年男性は笑いながら、「そうだな! 面白い男だ!」と2人で笑っている。
その瞬間、元奴隷で国会議員になった人が、ノーリの父である事が判明した。
「静粛にせい!」
王様が一言発すると、今までどよめいていたスーツの人達は静まり、その姿に驚いた智樹が周りを確認しようと、アゥストスとグエルの姿を見ると、もの凄くだるそうに立ってるアゥストフと、つまらなそうにアクビをしているグエルがいた。
「べつに、私に対する礼儀などは気にしておらん! 重要なのはローフィ君、君がデキる男なのか! という事だ!」
智樹はこの部屋に入ってから、今までの出来事を思い出し、とっさに直感した。
この王様は、実力至上主義なんだと。
だから、こんな姿の自国の軍人2人と、どよめきの中盛大に笑っていた2人に何の注意もしないし、今あげられた人達は、王様の一喝にも動揺せずに涼しい顔をしている。
動揺しているのは、元貴族の人間なのであろう。
四民平等が成功して選挙制度が出来たとしても、まだまだ浸透はしていないはず。親の七光りや、元貴族というネームバリューを使って議員当選したお飾り議員が多いのだろうと、智樹は思った。
「俺は何すればいいの?」
智樹はクラストージ国王、グラティス・ブラガー3世と言う男に一気に興味がわいた。
「戦闘機の性能が見たい! 現在、我がクラストージ王国は、隣国のアヌストリス公国と戦争のまっただ中でな、猫の手も借りたい状況なのだ。聞けば君の戦闘機と言う機体は、空を飛ぶ兵器だと聞いた。その兵器を我が国が使えるようになれば、アゥストフの部隊と共に、絶大な戦力になれる!」
王様にF-2戦闘機の性能を見たいと言われ、急遽、飛行演習と戦闘演習をする事になった。
その演習を指揮するのが、ノーリの父親で軍事防衛大臣のジョルジオ・ベンダーと、王国軍第3WT部隊、アゥストフの部隊だった。
「えーっと! ジョルジオ・ベンダーだ! 国王陛下の命令で、今からローフィ君による機動力テストと、戦闘力テストを実行する! 機動力テストの指揮は私が行うが! 戦闘力テストはマッキンリー大尉の部隊に任せる!」
ノーリの父親のジョルジオは、WT部隊と、視察に来ている王様や議員達の前に立ち、拡声器を使って演習についての説明を行っている。
智樹が対Gスーツを着ていると、そこにノーリが来て、戦闘機の装備、弾薬を兵器補充の名目で量産している、という事を伝えてくれた。
そして今回は、演習用に作った模擬弾を装備していると言う事と、燃料を満タンにしている事を説明してくれた。
「ありがとうな! とりあえず、いっちょ飛んでくるわ!」
智樹はバイパーゼロに乗り込み、エンジンに火を入れて、誘導係に従いカタパルトに誘導された。
そして、持っていたMDプレーヤーにお気に入りのMDを入れ、1986年に公開された映画、「トップガン」のテーマ曲、「Danger Zone」をかけた。
「重要な作戦の離陸前はこの曲聞いて、コンセントレーションを高めないとやっぱり落ち着かないな。」
智樹が音楽を聞いていると、誘導係がOKサインを出したのでバイパーゼロを発進すると共に、カタパルトオフィサーが作動スイッチを押して、バイパーゼロが飛び出した。
「よっしゃ! 離陸成功!」
すると、今までこっちで使えていなかった無線機に反応があった。
「こちらジョルジオ! ローフィ君、聞こえるかい? 私は娘と違って学が無いから、今でも人が空を飛んでいるなんて信じられないが、今から機動性テストを始める! とりあえずそこら辺を飛び回ってから、最高速度で飛んでみせてくれるか? それから君に自由飛行をしてもらう! しっかりアピールしてくれよ?」
「こちらローフィ、了解! 辺りを旋回飛行した後、全開飛行をし! アピールする! 最高にかっこいい事してやるから、目ん玉ひんむいて見とけよ? オーバー」
智樹はジョルジオの指示を受けて、旋回飛行を終えた。
下では王と議員達が驚いており、その横ではノーリが興奮して何かをメモしている。
「いっちょ全開見せてやっか!」
智樹はそう言うと、手元のスロットルを徐々にあげていき、アフターバーナーを点火させ、ソニックブームを出し最高速マッハ2で全開飛行をし、音速を超えた。
マッハ2で飛行するバイパーゼロを目の当たりにして、王様達は何も言えなくなっている。
「これからアピールターイム! バーティカルクライムロールやるぞー! うっひょぉぉぉぉぉ!」
そう言うと智樹は最高速から一時速度を落とし、白線を引いて飛んでいるバイパーゼロを急上昇させて直角に立てた。
バーティカルクライムロールとは、飛行演技の一つなのだが、ソロの技の中でも難易度の高い技で、出来るパイロットが限られてくる技である。
直角にたったバイパーゼロは、白線を引きながら4と4/1回転のロールをしながら、真上に飛んでいく。
それを見た王様達は、驚愕し盛大な拍手を智樹に送っていた。
「それじゃ、も1つおまけに! バーティカルキューピッド!」
智樹はそのまま白線でハートを作り、そのハートの中央をバイパーゼロで射抜いた。
それを見て下の王様達は、また盛大な拍手を送っていた。
「こちらローフィ、ジョルジオさん! 機動性テスト全項目終わったぜ! オーバー」
すると、すぐに無線機から反応が返ってきた。
「凄いな! ローフィ君! こっちはみんな興奮して拍手が鳴り止まない! 機動性テストは文句なしの合格だ! それでは、戦闘力テストをするので、マッキンリー大尉に変わる!」
ジョルジオがそう言うと、ノイズのような音がしたが、すぐに無線が切り替わったのだと理解した。
「こちらレッド01、機動性テスト合格おめでとう! だけど、これからはWTとの戦闘テストだ! 実弾は使わないが、こちらも本気でいくから、お手伝いさんも頑張ってくれ! オーバー」
智樹は、このやる気の無い声を聞いて瞬時にアゥストフだと認識した。
「オーケー! やってやろうじゃん! オーバー」
智樹が無線機にそう言うと、演習場にいる右肩を赤く染めたWTの銃から、空に向かって一発打ち込まれた。
「戦闘力テスト! 開始!」