未知との遭遇
見た事の無い土地を探索するために、見た事の無い空をひとしきり飛び回り、街を確認したところでF-2戦闘機の燃料がそこを着き予備燃料タンクに切り替わる時の動作切り替え音が聞こえて来た。
「あそこの牧場に、一時着陸させてもらおう」
智樹は目についた牧場に着陸して、牧場主に事情を話すべく高度を落とした。
その時に、ちょうど牧場に入ってくる昔の型のような自動車がみえた。
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「カーネルさん、今日もミルクを買いに来たよ!」
白衣を着た女性が自動車をおりて、牧場主らしき人物に話しかけていた。
「ノーリちゃん! いつもありがとね! はい、今日の分!」
優しそうな牧場主の男は、話をかけて来た女性にミルクを渡している。
「カーソン牧場のミルクを飲まないと、どうにも頭が回らなくてね」
女性と牧場主がそんな些細な話をしていると、空から轟音と共に巨大なミサイルに翼が生えたような姿の鉄の塊が、滑空して広い牧場に着陸した。
「な、何だー! 俺の牧場に爆撃かぁぁぁ!?」
牧場主は目を丸くして、そのミサイルのような姿の鉄の塊に仰天していた。
だが、そんな牧場主を尻目に白衣の女性は興奮したような声を上げていた。
「こ、これはー! 空を飛ぶ物体ぃぃぃ! いったい誰が開発したのだ!」
二人が困惑している中、鉄の塊の先端についているキャノピーが開いて、着ている対Gスーツを脱いで、一人の男が降りてきた。
そして、その男は二人に向かって大声で話しかけている。
「おぉぉい! あなた達はこの牧場の人ですかぁぁぁ? てか、言葉通じてますかぁぁぁ! 通じていれば手を振ってくださぁぁぁい!」
その男の言葉が通じたのか、白衣の女性が腕を大げさに振っている姿が男の目に映った。
「良かった! 言葉は通じるみたいだ!」
その男は、その腕を振っている女性の姿を見て、一目散に走り出した。
ある程度長い距離を走り二人のもとについて、肩で息をしながら話しかけ始めた。
「急に着陸してごめんなさい! 燃料が切れそうで、ここの牧場が広かったのでここにしか着陸できませんでした!」
空を飛び回っている時に発見した軍事基地みたいな所にも着陸できたのだが、無線が利かなかったのでやめる事にした事は、内緒にしておく事にした。
「俺の名前は、長坂智樹、日本国航空自衛隊北部航空方面隊第3航空団飛行群第3飛行隊所属で、階級は2等空尉、歳は28歳、三菱F-2戦闘機のパイロットやってます! よろしく!」
智樹はひとしきり自己紹介をすませ、握手をもとめた。
その自己紹介を聞き、白衣を着たショートカットで胸は控えめの美女が興奮気味に握手をしてきた。
「あの空飛ぶミサイルは三菱F-2戦闘機と言うのか!? 発明家は誰だ!? 日本国とは何処にある!? 長坂? 変な名前だな! お前の顔はこの辺では見ない平たい顔をしているな!」
大量の質問と共に、若干失礼な事も言われたような気もするが、そこは気にしないのがこの男、長坂智樹のいい所でもある。
「し、失礼した! 興奮のあまりこちらの自己紹介がまだだった! 僕の名前はノーリ・ベンダー、ユークリッド研究機関の所長、26歳だ。この人はカーネル・カーソンさん、ここカーソン牧場の牧場主だ!」
カーネルさんは、狐につままれた様な顔をしながら握手をしてきた。
「よ、よろしく」
「飛行機、勝手に着陸しちゃってごめんなさい! よろしく!」
智樹とカーネルさんが握手をした時に、ノーリが興奮気味に話をかけてきた。
「で! さっきの質問の答えは!?」
「あ? ちょ、ちょっと待って! 近いよ!」
ノーリは興奮しているのか、グイッと体を智樹に寄せてきた。
その距離感の無さに智樹が困惑していると、カーネルさんが申し訳なさそうにこの状態の説明をしてくれた。
「ごめんね、ノーリちゃんはこの若さでドワーフの称号をもらうくらいの、天才発明家だからこういう事に興味津々になっちゃうみたいでさ。悪いんだけど質問に答えてあげて?」
智樹は何度も無言で首を縦に振り頷いてみせ、口を開いた。
「あれは三菱F-2戦闘機、俺たちパイロットはバイパーゼロって呼んでる戦闘機だ! 発明家は解らないけど、アメリカと日本の三菱重工の共同開発で出来た最新鋭機で、主に支援任務に使われるが、要撃任務にも使われている! 日本国って言ったら東の島国だろ、あんたそんなのも知らないのか? てか、あのロボットは何だよ! 日本でもアメリカ軍でも見た事無いぞ?」
ノーリはフムフムと智樹の言った事をメモしていたが、驚いて途中で書くのをやめた。
「待て! ここより東の国なら、今ここクラストージ王国と戦争中の隣国、アヌストリス公国しかないぞ? 島国なんて発見されてないし、もしあったとしてもこんな技術を保有なんて出来ないはずだ! あとアメリカと共同開発と言ったな? アメリカといったら、動物大好きなおじさんが自分の土地に、アメリカ王国という名前をつけて商売しているが、そこの事なのか? あの動物王国にそんなに優れた研究者がいるのか? あとWTを見た事がない? そんな訳はない、僕が12歳の時に開発して以来爆発的に普及し、今や全世界的に使われている物だぞ? もう訳が分からん!」
智樹は考えた、普段戦闘機をどう上手く飛ばすか! と、いう事しか考えていない頭で、精一杯考えた。
その結果まとまった事は、ノーリは日本の事を知らない、この国はクラストージ王国という国で、隣国のアヌストリス公国と戦争中と言う事、この国ではアメリカという国は、日本で言うムツゴロウ王国の様な動物園だという事、あのロボットWTは今から14年前に開発されて、全世界的に普及されていて知らない方がおかしいと言われる事。
そんなロボットが14年も前に開発されているなら、世界的に大ニュースになっているはずだ、今年は2003年、14年前といえば日本では、バブル景気まっただ中で、任天堂からゲームボーイが発売された事で話題になるぐらいの時期だ、そんな物が発表された記憶は無い。
「え? 動物園? ゲームボーイは?」
智樹は混乱しているのか、とりとめも無い事をとっさに言ってしまっていた。
「ゲームボーイ? 誰の事だ? 僕はそんな人は知らないぞ? それより、考えをまとめてみたのだが、お前はこの世界の人間ではないな!」
突然ノーリの口から、衝撃的な言葉が発せられた。
「お前と僕の会話のすれ違い、WTを知らない事、僕の知らない戦闘機という空飛ぶ鉄の塊、すべてを考慮して考えた結果、お前はこの世界と平行に進んでいる別の軸の世界から転移してきたと考えられる! いわゆる異世界転移というものだな!」
ノーリはつらつらとよく分からない事を言い出した。
智樹は無い頭で考えたが、処理が出来ない事だったので考える事をやめた。
「んー、わかんねぇからもういいや! とりあえずここは異世界で、自衛隊って組織はこの世界に無いってことだろ? あっ、俺! 家とかねぇや! どうしよう!」
智樹は昔から楽天家で、航空自衛隊の入隊も、高校3年生18歳の時に、実家の銭湯に来ていた自衛隊員にスカウトされ、ノリで卒業後に入隊したのであった。
そのあとは、持ち前のコミュニケーション能力と、状況判断能力を生かして、パイロットとして成長し今では航空自衛隊きってのエースパイロットとなったのだ。
「この戦闘機を研究させてくれるなら、この国の基礎的な情報と、機体のメンテナンスと燃料の補給、住居と仕事を僕が用意してあげよう!」
ノーリはそう言うと、カーネルさんにウインクをした。
ノーリのウインクを受けてカーネルさんはまた狐につままれた様な顔をしていたが、カーネルさんは元来気が弱い性格なのだろう。「うん」といいながら肩を落としていた。
智樹にとっては願っても無い申し出だったのでこの要求に二つ返事で、YESを出した。
「改めてよろしく! 長坂智樹だ、ローフィって呼んでくれ!」
智樹は着ているフライトスーツに書かれている、RO-FFEEというタックネームを親指で二回叩いた。
「こちらこそよろしく! ローフィ!」