船荒らしの彼女
ガランッ…カーン……カーン………カーン…………カーン……………
金属同士がぶつかり合い、段々と遠くなるような音がした。
それは先程までその手にあったものだったのだが、もう既に彼方奥深くまで行ってしまった。
後に残っていたのは虚しく空を撫でているその手だけだ。
「やってしまった……」
マスクでくぐもってよく聞こえない声が響いた。
その声はとても悲しげであったのが印象的だった。
それもそのはず彼女にとって、今回の部品は久々に見つけた大物だったのだ。
いわゆる、船の動力を制御するために必要な回路、『反重力回路』だったわけなのだが、彼女はこの船を見つけてからずうっとこの部品を探していた。
そして、ついに見つけて歓喜に包まれていたところでこれだ。
手にした栄光の欠片はすぐさま散っていった。
「まぁ、別にいいか。この船は大きい方だからまだいくつかはあるでしょうし」
しかし、彼女はすぐに気を取り直して、太い配管の上を歩き始めた。
その足取りは馴れているようで、踏みはずせば結末は先の部品と同じようになるのだが、その心配はいらないようだ。
やがて人一人が歩ける程度の足場を見つけると、すぐにそちらへ移った。
そして後ろに背負っていたバックを下におき、中から古びた設計図を取り出すと、『B-76』とかかれた部分にバツ印をつけた。
そしてついでに取り出した懐中時計を取り出すと、それは時刻をもう夕方に差していた。
「流石に今日の探索は終わりね、ちょっと長居しすぎちゃったかも」
夜になるとここら一帯は巡回偵察機が回ることとなる。
それに見つかると非常に厄介なので、彼女は少しだけ水筒の水を飲むと、すぐに荷を整えて、走り出した。
「よっ、ほっ、はっ、ほっ……と」
彼女は走り出すと床を蹴り、壁の配管や少し突き出た所を器用に渡っていく。
そして十分もたたないうちに、外に出ることができたのだった。
彼女はマスクを取り、フードをはずすと太陽の方を眩しそうに見た。
「あー、一応まだ大丈夫そうね」
その太陽は大体もう少しで日の入りを迎えるぐらいだろうか、非常に低空で、もう沈むまで一時間もないだろう。
「急がなくちゃ」
そう言うと、彼女はあらかじめ外に用意してあった橇に今回見つけた他の部品をのせて、押そうとするが、ふと何かに気づいたかのようにその場から離れた。
「ととっ……危ない危ない、忘れるところだった。あの機械どもに見つからないようにしないと……」
そして取り出したのは小型の球状ドローンだった。
彼女はその真ん中の赤いボタンを押すと、空に向かって飛ばした。
「コード:86 周辺と同じように半径二キロの物質の偽装を要請」
『コード:86 受領 了解しました、マスター』
少し無機質な声がドローンから聞こえたが、そのままドローンは船の方へ行くと、ホログラムを投下しやがて数十秒後には彼女の手元へと戻っていった。
ドローンをしまうと彼女は再び橇の方へ戻った。
「じゃあ行きますか」
今度こそ終わったとばかりに勢いをつけて橇を押し、坂になる手前で橇に飛び乗った。
だんだんとその速さは増していき、後ろはその勢いで飛び散った砂漠の砂が空中に舞っている。
そして、下にまで降りてきたところで、ブレーキをし、橇を一旦止めた。
そして橇の後ろ側についているエンジンをワイヤーで起動させるとだんだんと橇は浮き始め、やがて出発可能となった。
彼女は去り際にもう一度振り返ってみた。
しかし、そこに広がっていたのはだだっ広い砂丘があるだけだった。