料理しない女
シェリルは劇団員で、家を留守にしがちだった。何よりも料理か嫌いで、冷蔵庫を開けない。冷蔵庫はいつも空っぽだ。ヴィクタ―も、いつも出張だと言っては長期間帰らなかった。
「これ見覚えある?」
と、冷蔵庫にあった封筒のパソコンディスクをシェリルに見せた。
「ない、というか開けてない。料理しないから」
「はぁ?野菜は食べないの?」
「ピクルス以外は嫌いだもん」
「ニュ―ヨ―クでは、サラダバ―に毎日行ってたけどな。こっちでは確かに肉かフライドポテトか、ハンバ―ガ―に偏るわ」
エイミ―は、ア―ロンとカルロスとマリブビ―チを散歩していた。
「この風が好き」
エイミ―はマリブの風が大好きだ。
気持ちよさそうに、風で乱れたブルネットのロングへアをかき上げた。
ア―ロンは大きな一眼レフで、エイミ―を撮り続けていた。
「モデルじゃないのよ。そんなに撮らないでよ」
カルロスは水辺で気持ちよく遊んでる。
ア―ロンがカメラマンに変身すると、話さなくなる。寡黙で真剣に撮り続ける。
彼と出会った日も、こんな夕方だった。
エイミ―はここに別荘を買い、カルロスとビーチを散歩していた。
あれは多分、ア―ロンは夕陽を撮っていたのかもしれない。彼の方から話しかけてきたのだ。
二人はすぐ友人になれた。
ア―ロンはあの日の夕方、犬を連れた上品な女性を発見した。
彼にとって、エイミ―は「発見」だったのだ。西海岸ではない、センシティブで知的な雰囲気。聞くと、ニュ―ヨ―クから移り住んで来たばかりの女流作家だった。
「明日フロリダに行くわ。」
「小説のネタにするような簡単な事じゃない。」
「二つだけ確認するだけよ」
「どんな?」
「ヴィクタ―が本物のヴィクタ―なのか。そしてヘミングウェイよ」
ア―ロンは大きな夕陽に目を細めた。
「一人では行かせないぞ」