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手野響子の独り言

 帝釈紫苑が帰ったあと、私はぼんやりと考え事をしていた。

 谷田くんのこととか、将来のこと、ここから出たらどうするかとか、特に明日のこととか、色々。


(私、柊舞夜と入れ替わるなんて、本当に出来る?)


 性別は同じといえど、あちらは女子高生でこちらは大学生。きっと趣味も性格も違う。おまけに彼女、あの野郎と友達なんて、どれだけ大らかというか大雑把というか、無頓着なのだろう? いや寧ろ頭おかしいのでは?

 ちゃんと入れ替われなかったらどうしよう。周りに違和感を持たれたら? 多少は誤魔化せるかもしれないが、決定的に疑われたら? ちゃんと入れ替われなかったら、そうしたら――。


「――『私』を、私の身体を取りもどせばいい」


 ふと降りてきた天啓のような発想は、まるで目を開かされたかのように鮮烈だった。ありもしない体に、じわじわと力が戻ってくるのを感じた。あいつを力尽くでもこのミラーハウスに連れ込んで、入れ替わってやるのだ!


「……」


 私はそこでふと疑問に思う。


 なぜ真っ先に、この考えが思い浮かばなかったのか。

 なぜ真っ先に、他人の体を奪うことだけに意識を向けてしまったのか。


 最初は『私』のことだけを考えていた。私の体を奪ってったやつ、その背中に飛び蹴りを喰らわせる妄想を何度したことか。

 私は自分の体を、自分の人生を取り戻す。そして鏡の化け物、あいつを思い切り嘲笑ってやるし、こんな所の鏡なんて全部割り尽くしてやる!

 だけど、無茶だと思った。

 まさか偽物の『私』がのこのこと此処を訪れるはずがないし、私の姿が見える人間なんて滅多にいない。もしいたとしても、私が鏡の中から助けを求めたところで、きっと誰も協力してくれない。というより、信じてすらもらえないと思う。寧ろ私が退治されそうだ。


「だから、頼まなかった」


 諦めて数年が経ち、誰でもいい、他人の体を奪ってやろうと思った。自棄だった。

 そこに、帝釈紫苑が現れた。

 彼は違うかもしれない。こういった事に関して造詣があり、彼の望む条件さえ示せば、恐らくだが手を貸してくれる。仕事として、依頼としてならきっと。柊舞夜を狙って敵に回すよりずっとマシに違いない。


「なのに、頼まなかった……」


 私は己の両膝を抱える。

 私はもしかしたら、以前とは違う存在になってしまったのかもしれない。存在だけじゃない。思考回路まで、化け物だとか、そういうものになってしまったのかもしれない。人間以外のものに。

 よく分からないけれど、なんとなく、自覚はなくもない。


「……」


……いや。だからなんだって言うんだ?


 よく考えたら大したことじゃなかった。落ち着け。冷静になれ。膝抱えてる場合じゃねぇ。私はいつまでもこんな所にいたくない。だからなんとかする。それだけだ。

 馬鹿みたいに感傷的になってる場合じゃない。するべきことはただ一つ。柊舞夜の体を奪い取る。いざとなったら帝釈紫苑との真っ向勝負も辞さない。完!


 ただ問題は、ちょーっと勝てる可能性が低いってことかな!


 それでも弱点をつけば、と思ったが、弱点あんのか……? 寧ろ帝釈紫苑こそが私の弱点なのでは……? というかそもそも私に出来ることってある? 鏡の中なのに?

 考えれば考えるほど勝負にすらならない気がしてきたが、諦めるつもりはない。やるしかない。

 私はこんな性格だから、今までも色んな敵とぶつかってきた。大学に入ってからもそうだ。あらゆる女どもから谷田くんを勝ち取ってきた。頭の悪い佐藤、胸の無い八咫、どんくさい鈴木、それから特にしつこくてめんどくさかった加賀美レイナ。

 生意気な高校生一人に負けている場合じゃないのだ。


「――とりあえず、できることから考えるか」


 勝負は明日。時間は無い、と言いたいところだが、予定ゼロかつ不眠不休で動ける私には時間が余り余っている。

 試せることは片っ端から試してやる。

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