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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幼いアサシン

作者: 笹垣牛蒡

リーシャは親の顔も知らない。


ここには、そんな物教えてくれる人は居ないからだ。

しかし、それを気に留めることはない。


彼女にとって、今が全て。

そして今の彼女には、ここが全てだからだ。


ここは、盗賊ギルドのアジトの一つ、アサシンの養成所。

彼女が、いつどうやってここに連れてこられたかは、分からないし彼女も知ろうとすらしない。


彼女は、ここで習い、技術を習得する。

動物を殺し猛毒を抽出し、植物を煎じて毒を抽出する。

また、様々な服をきて、様々な人間に成りすます。

様々な表情をして、相手の油断を誘う。

泣く、笑う、怒る、悲しむ、全ての表情を、心を動かさずに完璧にこなす。

たとえ怒っていても、相手が笑っている、と認識すればそれは、それは笑っている事になるのだ。


元々の赤茶けた髪の毛は、目立たないように黒く染め、ボロキレの様な服を着る。

これより、リーシャは初めての仕事をする。


これまで、研鑽を重ねた技術を使い、人を殺しに行く。



ギルドが指定した哀れなターゲットは、教会のルイス神父。

彼がどんな人物かは考慮されない、ギルドが考えるのは殺せば金を生む、それだけ。


リーシャの歳は11歳、女の子にしては短めガーリーショート、背は歳相応だが酷く痩せている。

幼い顔つきだが、無表情でおとなしいので、年齢より大人びて見える。

彼女は、潜入を手引する大人と一緒に、孤児院に入っていく。


「みなさーん、今日からここで一緒に暮らすことになったリーシャちゃんです。

みなさんと同じで、おとうさん、おかあさんがリーシャちゃんには居ません。

だからみんな、リーシャちゃんとお友達に、そして家族になれるようになりましょうね」

そして小さな声て、

「リーシャちゃん、みんなにご挨拶してね」

リーシャは照れてもじもじしながら、

「こ、こんにちはっ、リーシャです。よろしく」

とだけ言って隠れてしまう。

全部演技だが。

物珍しさから子どもたちはリーシャに寄って行く。

男の子は遠巻きに、女の子はキスしそうなくらい顔を近づけて。

リーシャは取り敢えず、自己紹介された名前を覚えていく。

どうせ直ぐに忘れる事になるのに、面倒だと思いながら。


珍しく近寄ってくる男の子もいた、、

「僕はクレイ、困ったことがあったら言ってね」

と、握手をして来る。

このくらいの歳の子供にしては紳士的だ。

クレイは真っ黒い髪を短く切りそろえ、真ん中で左右に分けている、御坊ちゃんの様な髪型だ。

顔は子供ながらに丹精で、女の子でも通りそうだ。

そして、クレイにそっくりの、髪の長い女の子も自己紹介する。

「私はシシリー、よろしくねリーシャ」

ゆっくりと落ち着いたしゃべり方をする、柔らかい印象の女の子だった。


それからしばらくは、ユックリとした時間が続いた。

忙しいのか、神父は教会に泊まり込みで仕事をしていて、あまり孤児院には顔を出さなかった。


回りの子どもたちに合わせて遊び、笑って楽しむ演技をしていた。

これまで毎日欠かさずして来た訓練を、ここの所していない。

ちゃんと今でもできるか、不安になる。

来週いや明日の予定すら建てない、無計画で行き当たりばったりな子供たちに、イライラして来る。

こんな愚かで身勝手な奴らが、幸せそうに笑うのが、心底ムカついてくる。

愚か者のマネをして過ごすのはまっぴらだ。

早く仕事を終わらせて、ここを出て行きたい。


そんな心内が通じたのか、他の子は次第にリーシャを不気味がるようになっていた。

上っ面だけの表情が生む、些細な矛盾を、感性の豊かな子供たちは、敏感に感じたのかもしれない。

しだいにリーシャは孤立し、いじめに会うようになっていった。


靴を隠されたり、先生に見えない所で肘打ちをされたり、服を泥水で汚されたり、ベットに虫を投げ込まれたり。

リーシャにとっては、生ぬるく悪意とも感じぬ程度の事だった。

むしろ、煩わしく無くて良い、最初からこうすれば良かったと思う程だ。

そんな時、いつも駆け寄って庇ってくる奴が居る。

クレイだ。

正義感からなのか、それともまさか私に好意を持っているのか、わざわざ争いに巻き込まれ、貧乏くじを引いている。

そして、シシリーがおっとり刀で駆けつけ、そいつらを追い払うのだった。

何度も何度も、そんな事が繰り返される。

そして、ついにはいじめに大人たちも気づき始める。


リーシャは、ルイス神父を殺す機会を得る。


ルイス神父が、リーシャの相談に乗ろうと呼んだのだ。

リーシャは小ぶりのダガーに毒を塗り、背に忍ばせる。

そして、部屋を出ると、クレイは心配そうな顔で、

「リーシャは悪く無い、神父にちゃんと話せば、昔みたいにきっとなるよ」

シシリーも

「証人が要るなら呼んでね、ちゃんと弁護してあげるから」

と言う。

リーシャは特に返事もせず、神父の待つ部屋へと歩いて行った。


コンコンコン

「はい、どうぞ」

部屋に入ると、ルイス神父が居た。

この部屋は孤児院の園長室、応接室としても使われている。

「遅い時間にすまないね、少し仕事が立て込んでいて」

と言うルイス神父は、背は人並みながらガッチリとして逞しい、しかし顔はやさしく、温和な表情でアンバランスな印象をうけた。

リーシャは、神父が隙を見せるまでは、孤児院の子供を演じ続けるつもりだった。

ぽつりぽつりと区切りながら、いじめにあった事を話す。

神父は静かに聞きながら、

「そうですか、辛かったですね」

と、言ってくれる。

しばらく話をして居ると、誰かが扉をノックして、お茶とお菓子を持ってきた。

神父は立ち上がり、ドアまで行くと、それをトレーごと受け取った。

テーブルまで持ってきて、ポットからお茶を2つのカップに注いでいる。

神父はリーシャに、若干背を向ける格好になった。

リーシャは背からダガーを取り出すと、死角から神父をダガーで突いた。

クワンと金属の音が響く、その突きは神父の左手に持たれたポットの蓋で阻まれた。

まさか!

リーシャは襲撃に失敗した。

そして、その途端この男が、ルイス神父が怖くなった。

慌てて飛び退り、そのまま逃げようとする。

扉を開けると、暗い廊下に人影があり反射的に突いた。

それを受け止めたのはシシリーだった。

クレイと共にお茶を持ってきて、そのまま聞き耳をたてていたのだ。

ルイス神父はしまった、と叫んでシシリーに駆け寄り、キュアポイズンの魔法を唱え始める。

しまったと思ったのはリーシャも同じだった、少しの間立ち尽くしたが、思い出したように逃げ出した。

それをクレイは、必死で追いかけた。

今見逃せば、一生会えない気がしていた。

施設を飛び出し、街の外れへと走っていく。


足が縺れて転んだリーシャに、クレイは追いついた。

リーシャは、それ以上もう逃げようとはしなかった。

街の外れの草原を、ザワザワと音を立てて風が吹き抜ける。


リーシャは演技ではなく、真剣に心から泣いていた。

クレイは、倒れて泣くリーシヤの隣に座り、リーシャの頭にポンと手を置いた。

ビクッと身を震わせ、

「ごめんなさい、あなた達だけには、危害を加える気なんて無かったのに」

と泣きじゃくりながら言う。

クレイは、

「大丈夫、ねぇさんは強いから。ルイス神父もいるし大丈夫だよ」

そして、

「いじめっこ達もねぇさんが来たら逃げてたろ。

あれって、みんなねぇさんに惚れてる癖に、力でも頭でも叶わないから。

コンプレックスで逃げ出すんだよ」

なんて話をしだした。

その後もずっと色んな話をしてくれた。

そして、リーシャが泣き止んだ頃に手を出して、

「帰ろう、ねっリーシャ」



孤児院に帰ったリーシャは、そのままリンチされ、殺されても仕方ないと覚悟していた。

教会だし、憲兵に引き渡されるだけかもしれない、でもどうせ死ぬかな、とも思っていた。

しかし、ルイス神父は

「すまなかったねリーシャ。心配しただろう、シシリーは無事だよ」

と、謝り咎める様子がなかった。

「キミは教会内のつまらない内紛に巻き込まれ、刺客に仕立てられた被害者だ。

懺悔するなら今までの罪を許そうと思う」

リーシャは懺悔し、これまでの事を告白したのだった。


これまでルイス神父の帰りが遅かったのは、冒険者時代の仲間を集め、汚職神父を罰し、繋がりのあった盗賊ギルドの支部を幾つか潰していたからだった。

あのアサシン養成所も、潰された支部の一つだ。


でもリーシャにとって、あそこはもうどうでも良くなっていた。

今は帰る場所は、ここなのだから。









ファンタジー要素が神父の使う魔法だけって・・・

一応、異世界ファンタジー、剣と魔法の世界です。

あと、先日完結させた小説の外伝でも有ります、完結させたら追加できなくなって・・・

短編で出しました、計画性が無いですね。

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