エンカウント
「死ねない此処で、死に、慣れるために……」
澄み切った青い空と、生命力に溢れる青々とした木々たち。
其処に居るだけで、心の淀みを浄化してくれるのではないかと思えるくらいに、緑溢れるこの場所。
その清浄な空気を吸い込もうと、誰もが深呼吸をしてしまいたくなるような、そんな場所。
だけど今、私の肺いっぱいに吸い込まれるその空気は、嫌な鉄の匂いで、満ちている……。
空を、木々を、見ていた視線を、元に戻す。
赤い。
一面が紅い。
物言わぬものたちが、地面にたくさん転がっている。
その足で立っている存在は一つだけ。
そよ風が揺らす草木以外に、音を立てるもののいないこの場所で、響く呼吸の音は、二つ。
私の視線が、唯一の生者であり勝者、そして強者である彼を捉える。
彼はただ、私を観ていた。
見ていたのでも、視ていたのでもない。
彼は正しく、私を観ていた。
彼の視界では、まるで、私はこの自然と溶け合っているかのように。
ただただ、観ていた。
そして、その端正な顔立ちから、一切の表情を消しさった能面のような顔で、虫の囁きのような小さな声で返された言葉。
彼は私を認識し、確かに私と向かい合っているのに、その言葉はまるで独り言のようで、確かに自己完結された言葉だった。
交わっているはずの私と彼の視線。
だけどその、まるで硝子玉の様な綺麗な瞳には、私の顰められた顔が映るばかり。
そこには、ほんの少しの感情も、一欠片の興味すらも、存在してはいなかった。
私はそのことが、何故か、とても悔しかった……。
「死なない此処で、夢の叶うこの場所で、どうして貴方は、自ら死に急ぐの?」