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蒼空のオリジン

作者: 野澤賢斗

 今日も、空は青く澄んでいる――


 暗闇の中に浮かび上がったデジタルモニターを見つめながら、私は声に出さず心の中でそう呟いた。

 忙しなく歩道を行き交う社会人。手を繋ぎ、母親とともに幼稚園に向かう親子。友達と愉しそうに微笑みながら、学舎の門をくぐる女子高生。

 どの場面を切り取っても、普通通りで、普段通りで、特にこれといった不自由もなく流れる平和な時であると感じる。

 事件や事故はあっても、略奪や戦争など起こることは決してありはしない。ありえはしない。

 今流れている時間こそが正しい流れであり、間違いなんてものはこの世に存在してはならないからだ。


 ――だって、そのために"私がいる"のだから。原初神オリジンという名の神が。創造神が。

 人間のあらゆる行動に対して監視をし、一歩でも人道を踏み間違えば、私の手によって修正される。そこに例外などは無く、この世界に存在する限り、そのルールは必ずしもどんな場合であっても適応される。

 だからこそ人類は平和で、日常的で、平穏な日々を過ごすことが出来る。幸福の光で満ち満ちた、この素晴らしき理想郷の中で。

 "あのような愚かな歴史"を再び繰り返すことが無いように、統治することこそ我が使命であり、私が――原初神オリジンが生まれた所以である。

 もう誰も悲しまないように。私のような報われない存在が生まれてしまわないように。私ではない他の誰かが、永劫に知られる事のないまま、1人で生き続けることがないように。

 この世界を見守る神として。もう誰も口にすることはない、結城結衣ゆうきゆいという名の少女として切に願おう。

 ――世界が正しく、永遠に回り続けることを。


  ☆


 俺が生きてるこの世界では、驚くほど何も起こらない。

 剣や杖で闘うことが無ければ、召喚獣や使い魔を使役したり術式を唱えて魔法を発動させるなんてことも全然、微塵も、これっぽっちもありはしない。

『高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない』って言葉があるけれど、正味この世界の科学は魔法といっても差し支えないようなレベルで、目覚しい発展を遂げていると思う。身近なところでいけば、携帯電話などその産物だろう。

 何世紀か前には、『スマートフォン』なる物が世界規模で流通していた。画面を触ってインターフェースを操作し、ネットや電話を始めとする様々な電子的機能を備え持つ当時最高水準の発明だったと思われる。利用者は爆発的に増え、30年の間に全人類の実に60%以上がスマートフォンを所持している、というデータを目にしたことがある。

 しかし―――長い年月を経て、人類は新たな、革新的とも言える技術を手にした。

 それが『統合型生活補助装置《インテグレーテッド・ライフアシスタンスデバイスインターフェース》』、皆は総じて、AIアイと呼ぶ。

 腕時計のような本体を利き手に巻いて、装着した側の手の指を縦に振ることによりメニューを呼び出す事が出来る。電話やメール、テレビや音楽プレイヤー、インターネットetc…など多岐に渡る機能を有している。

 空中でネットを楽しむ様や、指を電話の形を模して耳に当てることで通話をする様は、一昔前の人からすれば、それこそ魔法のように見えるのではないだろうか。

 ……前振りが思いのほか長くなってしまったようだ。というか完全に話が逸れてしまった。

 結論から言えば、この世界には常人ならざるような科学が溢れてこそすれ、やはりそれは許容の範囲内に収まる科学でしかないということ。魔法の様な不可逆的な、非科学的な現象は起こらない、ましてや神、天使堕天使などといった空想の世界のみにありえる、人智を超えた力は存在しないのだ。

 《AI》のような魔法もどきは作れても、神に手が届くほどの天地を揺るがす本物の魔法は再現できないということになる。


 ――否。それは決して違う。もう手が届いてる筈なのだ。

 だって現にあるじゃないか、細胞から、クローンを作る技術が。赤子を身体的に急速に成長させる技術が。無からエネルギーを取り出す技術が。そこまで至っているはずなのに、どうしてそれ以上を求めようとはしない?あと少し手を伸ばせば掴むことができる、現実的なテクノロジーなのではないのか?

 それなのに――誰もかもがそのことを忘れたように、技術は闇の中に沈んでいく。世の中からも人の記憶からも完全に、雲のように消えていく。まるで神様か何かが、穢れた技術を消し去りたがっているかのように。

 誰も知らないことを、俺だけが知っていて、俺が知っていることを、誰もが知らないという。

 俺だけ騙されているような。俺だけが知ることを許されているかのような。何処かに導いてくれてでもいるかのような――そんな感じだ。

 知りたい――。

 俺は世界の真実を知りたい。闇を取り除き光だけを与え続ける、この不自然極まりない世界の真相をこの目で確かめたい――


 だからこそ、あの扉は俺の前に現れたのだ。

 すべての起源が眠る空間へと誘うための、純白の、穢れなき門扉は。

 ならば知ろうではないか。何が俺を導いているのか。そして俺が求めるものの正体を。

 意を決して、俺は歩みを進めた。なんのイレギュラーもないような――潔白な、鬱屈な生活を終わらせるために。

To be continued

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