食べ物じゃなければ幼女にはならない
流香ちゃんを家に送り届ける。
廃棄問題があってから、2人の間に何か気まずい空気が流れている。
食べ物を捨てるのはそりゃ良くない事だが、だからと言って俺らに出来る事は何も無い。
ウチのスーパーは廃棄は少ない方だし、店員が持ち帰ったりもする。
しかし、ほんとにどうにかした方がいいなぁ。
精神衛生上良くないぞほんとに。
インスタントラーメンばかりだと体にも良くないし。
何が食べられるかというより、そもそも幼女が見えなくなる方法を探した方がいいのは確かだ。
とはいえ……。
「ん? 先輩何か言いました?」
「ごめん、俺の腹の音だ」
やっぱり腹は減ってるんだよなぁ。
インスタントラーメンをボリボリ食べただけで、一日乗り越えられる訳がない。
飲み物をガブガブ飲んでなんとか空腹を誤魔化してきたが、そろそろ限界だ。
そして、それは流香ちゃんも同じだろう。
「あれ?」
「ん、どした」
「こんな所にお店あったんですね」
流香ちゃんが足を止めたのは、ずいぶん昔からある定食屋だった。
懐かしいなここ。
「すげー昔にここで食ったんだけど、美味しく無いんだよね」
「そうなんですか?」
「だからお客さんも滅多にいないんだよ」
「でも、今日はいますね」
中でサラリーマンがチャーハンを食べていた。
そうだったなぁ。確か、俺が食べたのもチャーハンだったなぁ。
うん、あんな感じの。
……あれ?
「チャーハンだ」
「チャーハンですね」
チャーハン……チャーハンだ!
あれ、チャーハンだ。幼女じゃない!?
「はいよ、おまちどうさま」
「おぉ、チャーハンだ!」
「チャーハンですよ!」
チャーハンだ。幼女じゃないチャーハンが出て来た。
2人前のチャーハンだ。
一口食べる。
……チャーハンだぁ!
「チャーハンですね」
「食べられるとはなぁ……」
「うん、チャーハンですね」
チャーハンではあった。
だが、美味しくは無かった。
凄いしょっぱい。
それと、ご飯がねちょねちょしている。
かと思えば、ご飯がほぼ白米のままの場所がある。
ちゃんと混ざってないだろこれ。
「しかし不思議ですね。なんでここのご飯は食べられるんですかね」
「多分、マズ過ぎるから食べ物判定されてないんだろうな。ばーちゃん! 野菜炒め1つ!」
「あいよー」
しかし、それでも暖かい食事というのは良い物だ。
それにしても美味しくない料理は、幼女にならないのか。
「きゃっきゃっ」
「わーい」
隣のタコ焼き屋から、幼女の声が聞こえる。
あっちは美味しいんだろうなぁ。
美味しい物でなければ食べられる。
スーパーにあった物は、基本的に全部美味しい物だったんだな。
まぁ、こんなマズいもんお店で売れる訳ないもんな。うん。
「ふー」
「おかえりー!」
「あれ、帰って来たー!」
「あぁ忘れてた……」
薄CEOの幼女が俺を出迎えた。
というか、よくよく考えたらお前うすしおじゃないだろ。
俺買ってないもん。俺買ったののりしおだもん。
いや、だからって「のりCEO」にはしなくていいけどさ。
「どうだったのー」
「何がだよ」
「りゅーかちゃんとチューしたのチュー」
「……何でお前がソレを知ってるんだ」
そもそも俺が流香ちゃんと会ったのすら、今日出かけてから決まったというのに。
「ふっふっふ。おかしネットワークを舐めてはいけない!」
「何だそのおかしい名前のは」
「お菓子だけにおかしいだって!?」
冷蔵庫の中がドッと湧いた。
ええい無視だ無視。
「それでどーだったのよー」
「自前のお菓子ネットワークとやらで調べればいいじゃないか」
「りゅーかちゃんち、お菓子置いてないんだもーん」
つまりお菓子がある場所だと、全て筒抜けになるというのか。
今度から気を付けよう。
あの後、流香ちゃんは意気揚揚と帰って行った。
何でも「マズい料理を作ればいいんだ!」との事で。
実際にマズい料理を作る訳ではなく、本来とはちょっと違う完成品にするのを目的としてるらしい。
流香ちゃんって、料理上手いのかな。
いや、下手な方が幼女にならなくていいのか。
何か分かんなくなってきた。
ん、電話だ。これは流香ちゃんか。
「はいもしもし」
『せんばぁーーーい』
半泣きしているような流香ちゃんの声が聞こえて来た。
何だ何だ。
「どうしたよ」
『上手く行きまぜぇーーーん』
あぁ、電話越しに何か幼女の声が聞こえる。
幼女化してしまったのか。
「それっ」
「うぉ。こら、電話取んな」
「もしもーし!」
『え、女の子? 先輩、女の子と一緒にいるんですか?』
『やっほー!』
「返事帰って来た!」
嬉しそうな薄CEOことのりしお。
良かったな、返事帰って来て。
大人しく電話返しなさい。
その日は泥のように眠った。
いつもは寝る前にかなりの時間ゲームをするが、余りに疲れていたからだろう。
夢を見た。
砂浜を歩くと、遠くでカモメが楽しそうに飛んでいる。
海は綺麗だな。海岸は貝殻が混じっていてちょっと歩きづらいが。
「先輩!」
「流香ちゃん?」
流香ちゃんが俺の腕に組みついてくる。
まるで恋人のようだ。
「先輩! 捕まえました!」
「おう、そうだな」
「捕まえました……ふふふ」
ん? 何か流香ちゃんの様子が……。
「逃がしません。もう逃がしませんよ……」
「ちょっと、流香ちゃん?」
「一生……永遠に……ふふふ……」
……ハッ。
何か変な夢を見たような……。
「あなたはわたしのペット……ずっと……」
「……何やってるんだ?」
「あ、おはよー!」
薄CEOさんが俺の耳元で囁いていた。
縞パンが見える。お前Tシャツ1枚だったのか。
あと、勝手に流香ちゃんをヤンデレ属性にするんじゃない。
「おっと、そろそろ大学行く時間じゃねぇか」
「起こしてあげたよーえらいー?」
「あぁ、偉い偉い」
しかし、おかしいなぁ。
携帯の目覚まし、ちゃんとセットしたんだが。
というか、そもそも携帯はどこにあるんだ?
携帯携帯……。
「……おい」
「な、なに?」
「俺の携帯しらない?」
「けーたい? しらないよー」
目が泳いでる。
お前が目覚ましを止めたのか。
分かりやすい奴め。
「さぁ、俺の携帯を返せ。今返せば目覚まし止めたのは許してやる」
「ひゅーひゅふー」
口笛で誤魔化そうとしている薄CEO。
口笛吹けてないけどな。
「もしお前が携帯を隠してて、それを名乗り出ないなら……」
「……ごくり」
「お前の封を開けて、湿気でぱりぱり感が無くなるまで放置してやる」
「ひぃーーー!」
すぐに携帯は返されました。
ふん、余裕だったな。