タピオカ入りミルクティーが幼女になっていた
「ついたー!」
「おう、お疲れ」
新商品の幼女……じゃない。新商品のアイスが到着した。
保冷庫をバコッと開けると、幼女が飛び出してきた。
この幼女が新商品のアイスなんだろう。
「で、君はいくつ来たんだ?」
「えっとね、ろっつ!」
「あぁ、六つね。じゃあここに入って」
「わかった!」
新商品に限らず、店に品物が入って来る時は検品という作業がある。
いくつ商品が入って来たというチェックの事だ。
たまーに足りなかったり、商品が間違ってたりするので気が抜けない。
「ふいー涼しいー」
幼女は開けられたスペースに入ると、のんびり横になった。
周囲のアイス幼女は、チラッと新人を見ると再び目を閉じた。
冷たいなぁ。アイスだけにってか。
……無いな、寒いギャグだ。
アイスだけにな。
「なぁ」
「ふぁい!?」
急に声をかけられたのでちょっと変な声が出てしまった。
変なギャグを考えてた罰が当たったか。
「そろそろ休憩行っていいよ」
「あ、はい。もうそんな時間か」
気づけばかなりの時間が経っていた。
ふと空腹に気付く。
そういえば、ずっと何も食べていなかったんだっけ。
普段はそういう時、周囲に食料ばかりなのが憎らしい時もあった。
だが、今は幼女だ。問題ない。
「では、お先に休憩入りまーす」
「おーう」
ふぅ……さて、食べるか。
えーっと。えーっと。
何を食べるんだ?
自分の制服を脱ぎ、Tシャツで店内を歩く。
走り回る幼女。とりあえずどこかにぶつかっても、商品は落ちないらしい。
物理法則どうなってんだこいつら。
接触出来るような出来ないような。
つい野菜コーナーが目に入る。
キュウリとか、このままなんだよなぁ。
これ、洗えば直で食べられるんじゃないのかな。
魚や魚は生で食べるのは危険だが、キュウリなら行けるだろう。
栄養自体は野菜ジュースという形もある。
そうだ、要するに普通なら食べる状態じゃない物なら良いのか。
普通じゃないもの……既に幼女かしていないもの……。
「あ、あのっ」
「ん?」
考え事をしていたら、声をかけられた。
幼女の一人だ。
「私のお友達、どなたか居ないんですか?」
「友達?」
彼女はある一角を指差した。
ドリンクコーナー?
「私、ここにいつもいるんですけど」
「あー……」
幼女が示したのは、とある場所だった。
そこにはタピオカ入りミルクティーと書かれていた。
タピオカ入りミルクティー。ギリギリ食べ物判定だったんだろうなぁ。
どう見ても飲み物のような気がするけど。
まー、ちょっと寂しいかもしれないなぁ。
ドリンクコーナーは他に幼女は居ないからな。
「じゃあさ、陳列を弄って他の子の近くにするよ。それでいい?」
「……うん」
配置を弄って、プリンや杏仁豆腐とかの位置に近くしてやった。
仲良く出来るかちょっと心配だなぁ。
プリンとか杏仁豆腐は……こいつらか。
「おーい、お前プリンとか杏仁豆腐か?」
「うん」
「そーだよー」
「今日から陳列が変わって、このタピオカ入り紅茶が近くになるんだけど、仲良くしてやってくれるか?」
「いーよー!」
「ふぇ!?」
「一緒にあそぼー」
「あ、うん!」
おぉ、優しいな。俺の中でプリンとか杏仁豆腐の株が急上昇だ。
俺もなんとかしてあげて欲しいなぁ。
でもドリンクでフォローするのはちょっときついよなぁ。
あ、そうだ。ミルクティー風味のプリンとかあったら発注して貰えるよう交渉してみるか。
仮に入荷出来たら、なんか仲間意識を持ってくれるんじゃないかな。
そうしたらミルク入りタピオカティーも喜んでくれるかもしれない。
あれ、なんかごっちゃになってきた。
それはともかく、俺もそろそろ何か買わないと。
お、これなんかどうだろう。
ポリポリ……美味い。
キュウリと違って、ちゃんと味がある。
しかも元から安い物だから、お財布にも優しい。
栄養価は……とりあえず今は置いておこう。
「ん? 何食べてるんだ?」
「あぁ店長。インスタントラーメンをそのまま食べてます」
「ふーん、変なの」
あぁ、変な奴だと思われてしまった。
でも死活問題なんだよなぁ。
ポリポリ食べながら考える。
流石にこのままではいかん。
他に何が食べられるのかを考えなければ。
味噌汁とかはどうなんだろう。
飲み物に分類されるのか。それとも食べ物認定されているのか。
お吸い物は? そこにお餅が入っていたら?
いや、タピオカ入りミルクティーがダメだったんだ。お餅は無理だろ。
最悪何でもかんでもミキサーにかければ、なんとかなるのかどうか。
その時、プルルルル……と電話が鳴りだした。
お店の備え付けの電話だ。
店内の監視カメラを見ると、店長は店内でレジ回りの在庫チェックをしていた。
なら俺が出るか。
「はい、こちらスマイルマートです」
『あ、先輩?』
「おぉ流香ちゃんか」
流香ちゃん。ここのバイトの後輩で、今回母親が入院するという事で俺がシフトを変わった。
服飾系の専門学校に行っているらしい。
物凄い可愛いかと言われたらちょっと悩むが、とても良い子で個人的には凄いお気に入りだ。
「お母さん大丈夫だった?」
『仕事でストレス溜めてたみたいですね。体は元気みたいです』
「あー、それはまぁお大事に」
『店長に変わって貰えますか? シフトの相談をしたくて』
「おう、分かった」
保留にして店長に電話を変わる。
ポリポリとインスタントラーメンの続きを食べ始める。
そうだなー、何を食べられるか考える前に、幼女を食べられるようにならなければいけない。
性的な意味だーとかそういう事を言っている場合ではない。
もう、空腹になるのなら性的な意味でもなんだっていい。
いっそ幼女を本当に食べてみるか?
ガブリと食べたら、元の料理にポンッと戻るかもしれない。
なんとなくだが、グロいことにはならない気がする。
まぁ、血がブシャーと噴き出してきたら気絶どころじゃ済まないが。
冷静に考えると、どうも周囲の人間は余りにも普段通り過ぎる気がする。
もしかすると、食べ物が幼女に見えているのは俺だけなんじゃないだろうか。
だとしたらいっそ眼科……いや、精神科に行くのすら考えるな。
そういう所にはあまりお世話になりたくはないが。
自分は正気だと思いたいが、食べ物が幼女に見えるとか正気の沙汰ではないですし。
「おーい、電話もっかい変われってさ」
「あ、はい」
流香ちゃんと電話をしていた店長が俺を呼んだ。
受話器を受け取る。
「もしもし、変わったよ」
『あ、先輩。ちょっと相談したい事があるんですけど……』
相談? 何だろう。
告白かな? いや、無いな。
『あの、ですね。変な事を言うと思いますけど、笑わないでくださいよ?』
「うん」
流香ちゃんは、少し言うのを躊躇っていた。
そして意を決したように息を吸った。
『あのですね……食べ物が、女の子に見えるんです』
仲間がいた。
精神科に行かなくても、とりあえずは良さそうだ。