アイスが幼女になっていた
「あのー」
「はい。あぁ、おはようございます」
常連のお婆ちゃんだった。
たまにおしゃべりする事がある、近所に住む方だ。
若い男性と喋るのが楽しいとかで、たまに長話になったりする。
傍らに幼女が1人。
多分、買った幼女なんだろう。
あ、覚えてる。さっきの惣菜コーナーで昼寝してた子だ。
まだ眠いのか、目を擦っている。
「これ食べたいんだけど、チンしたいのよー」
「あぁ、分かりました」
お婆ちゃんは数年前に骨折をしてから、利き手が痺れてしまうらしい。
動かない程ではないが、細かい作業は出来ない。
だから、財布を取り出して店員側が小銭を取り出すとか。
今回のように、店内の電子レンジを使う際に店員にお願いしたりとかする。
容器の移し替えが上手く出来ないからな。
「……あっ」
容器の移し替え……どうやるんだ?
惣菜の入ってる容器は、そのままでは電子レンジは出来ない。
容器が溶けてしまうからだ。
電子レンジの脇にも、このままチンするなと目立つように書いてある。
その近くに一応電子レンジに耐えられる紙容器も置いてあるが、このお婆さんは自宅からタッパーを持参している。
お婆さんからタッパーを受け取る。
どうしよう。
幼女がこっちを見上げている。
うーん。うーん。
そうだ、お願いすりゃいいや。
さっきの奴らもお願いしたら移動してくれたじゃないか。
後で怒られたけど。
「なぁ、こっちのタッパーに移ってくれないか?」
「……?」
不思議そうな顔をされてしまった。
分からないのだろうか?
「何をやってるんだい? まず包装を剥がさないといかんだろう」
「包装……」
そういえば、俺が接して来た食べ物は全て包装されていたように思う。
ポテトチップスもそうだ。店内にある惣菜やお菓子も、果物もほとんどが容器や袋に入った物だ。
もしかして食べる時って服を脱いだ、全裸状態なんじゃないか?
ということは、俺は今この子を一度脱がして、こっちの容器を着せる?
「ごくり……」
て、手が震えて来た。
ちょっと失礼して……。
「やっ!」
「ご、ごめん」
脱がそうとしたら拒否されてしまった。
違ったのだろうか。
「ん、これ取って」
幼女は自分の髪を差し出した。
綺麗な髪飾りが付いている。
よくよく見ると店内の幼女たちは皆、ヘアピンやカチューシャ等をしている。
アレが包装されてるって印だったのか。
そう言えば、昼間会った回転寿司幼女。
彼女は髪止めしてなかったなぁ。
そして裸では無かった。なるほど。
幼女の髪止めは彼女の髪を離れると、ポンと空の容器になった。
そして、タッパーを髪に近づけると新しい髪飾りが。
「これでいい」
「おう、じゃあ電子レンジに入ってくれるか?」
幼女はコクリと頷くと、某ホラー映画のように電子レンジの中にモソモソと入って行った。
あっちはテレビの画面から外に出て来る奴だったけど。
やっぱりホラー極まりないなおい。
ちなみに、抜け殻になった方には名前が書かれていた。
今俺が脱がそうとしたのは、チンジャオロースだったらしい。
「いらっしゃいませー」
「あ、袋は良いです」
「キャー!」
「ありがとうございまーす。ポイントカードは?」
「あ、無いです」
「ウワー!」
「はーい。えー……よっと。合計で2546円になりまーす」
「カードで」
幼女の扱いも慣れた物だ。
一連の流れで、幼女を抱えてレジを通せるようになってきた。
バーコードは髪の周辺に大体ある。
耳の裏だったり、もみあげに紛れてたり。
それさえ分かれば、レジも楽な物だ。
袋詰めがあるコンビニだったら大変だったが、スーパーは袋渡して袋詰めは任せるからな。
「ありがとうございましたー!」
ふぅ……最初は戸惑ったが、慣れればなんとかなるものだ。
普段よりは多少時間がかかってしまうが、ほぼ通常通りまで戻ったと言っていいだろう。
まぁ、時々噛まれるのがたまに傷だが。
くそう、あのチャーハン幼女絶対に許さん。
さて、次の作業は……っと。
「あぁ、ちょっといいか」
「何でしょう?」
店長に声をかけられた。
今日はよく声をかけられるな。
普段からそうやって男に声をかけられれば、婚期を逃さずに済むのに。
いや、なんでもないっす。
「どっかの会社のアイスの新商品なんだけど、普段の納品に間に合わないってんで遅れてたんだよ」
「はぁ」
「それがあとちょっとで到着するって電話が来たから、納品来たら検品だけして並べといて」
「分かりました」
アイスの納品は、まず入って来る製品のスペースを確保するのが良い。
減った商品のスペースを横にずらし、あるいは移動させ、空きスペースを作っておくのだ。
そういや、アイスってどうなってるんだ?
「うわっ」
「くー」
「すぴー」
アイスのケースを見たら、中で幼女が寝ていた。
お前ら、ケースの中で寝るとホラー過ぎるぞ。
というか、ちょっと前にSNSでそういう写真上げてた事件を思い出したわ。
ほんとに寝てるみたいだから、むしろコールドスリープっぽい感じになってるけど。
「ちょっとどけ。新しい子が来るんだから」
「んー……あと5分だけー……」
ええい、幼女が邪魔で陳列の準備が出来ない。
もういい、寝てるの承知で移動させてやる。
……冷たっ。
流石アイスなだけある。本当に体が冷たい。
幼女のいくらかを冷凍食品の方にずらす。
冷凍食品は食べられないから、幼女化はしていない。
「あー冷たい」
「大変そうねー。手伝いましょーかー?」
別の幼女が作業中の俺の方へ、トテトテと近づいて来た。
あぁ、さっきの麻婆豆腐か。
「そうか? このスペースの中にいる幼女を動かしたいんだけど」
「分かった。ちょっと持ち上げて?」
「こうか?」
「そうそう。おーきーて!」
俺が麻婆豆腐幼女を持ち上げると、幼女は別の幼女をペチペチ叩き始めた。
「うるさいなー」
「ダメでしょー場所とっちゃー」
「涼しいんだからいいじゃん」
むくりと幼女の1人が起きた。
おぉ、スペースがなんとか作れそうだ。
新商品なら、物凄いでかいスペースは必要ないと思う。
夏本番って程の時期でもないし。
「ありがとう、これで行けそうだ」
「いいのいいの。この子が勝手にここで寝てただけなんだから」
「んー……まだ眠い」
「貴女、惣菜コーナーの餃子でしょ? そのまま寝てたら冷凍餃子さんと区別が付かなくなるわよ」
あぁ、餃子だったのか。
そういや、冷凍餃子も暖めると幼女になるんだろうなぁ。
その場合は、惣菜コーナーの餃子と別人になるのだろうか。
……謎が謎を呼ぶ。