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若鶏の竜田揚げが幼女になっていた

 うーん、次は何しようかなぁ。

 レジは余裕あるみたいだし、どうしよっかなぁ。


「おぉいたいた。ちょっといい?」

「あ、店長。何でしょう」

「清掃の山岡さん、ぎっくり腰になっちゃったみたいなんだよね」


 うわ、流香ちゃんが休みなのに山岡さんもか。

 大変だな。


「清掃しろって事ですか?」

「まぁね。私が女子トイレちょっとやってきたんだけど、男子トイレは気が引けちゃって」

「あぁ……」


 店長もそういや女だったな。

 もうすぐ40近いらしいが、例の彼氏とは上手く行ってるのだろうか。

 前回みたいに騙されてなければいいが。


 しかし、清掃しろと急に言われてもすぐには対応出来ない。

 どこに掃除道具があるかとか知らないし。


「でも、俺清掃とか分かんないっすよ?」

「事情が事情だから、凄い汚れてるとかじゃなければ適当でいいよ。ただ、トイレットペーパーと消毒液の補充だけはよろしく」

「あぁはい、分かりました」


 しっかし大変だなぁ。

 この前もベテランの人が辞めたってのに。


「とっとと掃除いってこーい!」

「はたらけー!」

「うっせぇな……」


 そんな大変な状態なのにこの幼女たちである。

 仕事が捗らないったらありゃしない。




「えーっと、あったあった」


 男子トイレの流しの下の台に、お目当てのトイレットペーパーがあった。

 消毒液は思ったより減っていなかったのでスルーだ。

 3つ程トイレットペーパーを出して、一旦台の上に置く。

 一応バケツと雑巾も取り出すか。

 ゴム手袋をはめてっと。

 さてと……あれ、トイレットペーパー


「わーい! トイレットペーパーだ!」

「へいパース!」

「なーいす!」


 幼女たちがいつの間にか、トイレットペーパーを1つ持って行ってた。

 男子トイレなのを無視してるなこいつら。


「おう幼女ども、今すぐそのトイレットペーパーを返せ」

「やだー!」

「べー」

「さもなくば、頭を全力でなでなでするぞ」

「えー、なでなでしてくれるのー?」

「いいこいいこー?」

「あぁいくらでもしてやる。これでな」


 俺は何度も掃除に使われたであろうゴム手袋をはめ、手をワキワキとした。

 幼女たちは、悲鳴をあげながらトイレットペーパーを置いていった。

 全く……。


「あの子たちがすみません」

「ん?」


 ぺこりと頭を下げている幼女がいた。

 礼儀正しい子もいるんだなぁ。


「迷惑かけてしまって」

「あぁ、いや良いって」


 礼儀正しい子だなぁ。


「というか、お前ら食料だろ? トイレいていいのか?」

「本体に臭いとか付くわけじゃないですから」


 本体? あぁ、食べ物本体か。

 そりゃ、食べ物がそのままここまで歩いては来ないよな。

 今ここいる幼女も、さっきトイレットペーパーで遊んでいた幼女も、本体は陳列されてるんだろう。

 店内ぐらいだったら、遊びに来れるってことか。


「さっきの子達は知ってる子なのか?」

「はい、いっつも喧嘩ばっかりしてるんですよ。でも、最後はなんだかんだで仲直りするんです」

「ふーん」

「あ、呼ばれてるみたいなんで失礼します」

「おぉ、悪かったな」


 礼儀正しい幼女は、ぺこりと頭を下げてトイレから出て行った。

 さて、さっさと俺も仕事を終わらせるか。


 トイレの個室を開ける。

 あぁ、トイレットペーパーの予備が減ってるな。

 補充しておこう。

 さて、こっちの個室は……。


「ひゃっ」

「うおっ、失礼しました!」


 中に女性がいた。

 即座に閉めた。

 な、なんでこんなところに女の人が。

 男子トイレなのに。しかも鍵もかけずに。

 ……ん?


「ってお前も食べ物じゃねぇか!」

「ばれたー!」


 俺がトイレの清掃をすると知って、こっそり侵入した幼女だった。

 ええい、ただでさえ仕事が捗らないというのに。




 清掃を終え、店内に戻ると幼女同士が揉めていた。


「けちー!」

「だめーっ! なの!」


 結構大きな声で口論している。

 どうしたんだ、仲裁に入らねば。


「おいおいどうしたんだ」

「あたしがねー、これを飲もうとしたらねー、まーちゃんがダメっていうの!」

「そうだよだめに決まってるよー!」


 飲もうと?

 ……あぁ、赤ワインの試飲か。

 そりゃ駄目だろ。


「えーなんでー」

「そりゃ、ダメだわな」

「うんうん」

「けちー!」


 俺たちがそんな口論を繰り広げていると、1人の幼女がとことこ歩いて来て、クイッと赤ワインを試飲した。


「……ちょっと渋いなぁ」

「あー、あの子も飲んだ!」


 俺も少し目を離してた隙に飲まれてしまった。

 まぁ多分食べ物幼女だろうから大丈夫だろうけど。

 というか、こいつら飲み物は飲めるんだ。


「あの子は飲んでもいいのよ」

「なんでーずるいよー」


 えっ、あの子飲んでいいの?

 見るからに幼女なんだが。


「だって貴方、若鶏の竜田揚げでしょ?」

「うん」

「あっちの子は豚肉入りピリ辛野菜炒めなの。大人の豚肉使ってるから、大人なのよ」

「おーかーしーいーよー」


 そ、そんな理論だったのか。

 俺にはちょっと口出しが出来ないかもしれない。


 ちなみに、この説得してる子は何なんだ?

 まーちゃんって言ってたけど。

 若鶏の竜田揚げと肉野菜炒めの近くにいるってことは、惣菜系なのかな。

 まー……まー……。

 あぁ、麻婆豆腐なのね。

 確かにちょっとチャイナっぽい服装に見えなくもないかもしれない。

 この場はこの子に任せて、とりあえず自分の持ち場へ戻ろう。





「私の方が凄いのー!」

「違うもん! 私の方が良い子なんだもん!」


 どうしたどうした、こっちはこっちでまた揉めてるぞ。

 えーっと、場所は……お菓子売り場か。

 あ、ケンカしてるのさっきのトイレットペーパーの2人じゃないか。

 脇でその様子を、さっきの女の子が微笑みながら見ている。

 こっちは止めなくていいのか?


「派手に喧嘩してるな」

「あぁ、大丈夫です。いつもの事ですから」


 いつもの事というが、食べ物が幼女になったのは今日からのはずだが。

 いや、もしかして食べ物時代からケンカしてたとか?

 食べ物がケンカ? 我ながらよく分からん事を言ったな。


「そうだ! おにーさん」

「ねーねーおじさん」

「誰がおじさんじゃ」

「私とこの子、どっちがえらいー?」

「決めて、決めてー!」


 どっちがえらいったってなぁ。

 俺、そもそもこの子らの元の食べ物知らないし。


「お前ら、何の食べ物なんだ?」

「きのこー!」

「たけのこー!」


 ふと上を見る。

 明らかにお菓子売り場だ。

 きのことたけのこ。

 あぁ、そういう……たしかにいつも喧嘩してるような。

 まー最後に仲直りしてるならいいか。


「俺はお前たちのどっちも好きだよ」

「きゃー!」

「恥ずかしいー!」

「女たらしー!」

「わー!」


 きのことたけのこはどっかに走って行った。

 ちなみに大人しく見ていたのは、同じ会社製の板チョコだった。

 そりゃ、あの2人に詳しい訳だわ。


 ……どうでもいいけど、トイレにチョコのお菓子ってあんまりシャレになってないな。

 今度から絶対にやめさせよう。

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