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食べ物になった幼女にも、賞味期限はあるのか


「という訳で、バーコードについての説明は以上」

「はーい」


 わしゃわしゃ。


「それと、女の子達はそれぞれ怒るポイントがあるみたいなんだ」

「ふむふむ」

「例えば、パックに入ってるすぐ食べられるソウメンは、乾麺状態のソウメンと間違えると凄い怒る」

「なるほどなるほど」


 なでなで。


「ここまでで質問あるか?」

「今の所は、特に大丈夫です」


 ぷにぷに。


「……なぁ、それやらなきゃ駄目なのか?」

「駄目です!」

「たすけてー」


 板チョコ幼女が、流香ちゃんに捕獲されている。

 そして、俺の説明中ずっと幼女を弄り回して遊んでいる。

 正直ものすごい気が散る。


「それに、まだ業務中じゃないですよ?」

「いや、そりゃそうなんだけどさ」


 今俺たちは店内にいるが、制服ではない。

 開始より20分早く来てた為、業務の予習をしてるところだ。

 なお今流香ちゃんがもふもふしている板チョコ幼女は、ちゃんとレジを通して買った物だ。


「まぁ、今日はレジだけなんで余裕ですよ」

「だといいけどな」





「ひいいぃぃぃ」

「いらっしゃいませー、カードはお持ちですか?」

「あ、無いです」

「い、いらっしゃいませー」


 怒涛のラッシュが来た。

 どうやら天気予報で数日後から大雨が続くとかで、急に買い溜めの客が増えた。

 店員を総動員してレジを回しているが、次から次へと客がやって来る。

 普段暇な店だが、極まれにこういう時があるから困る。


「カードはお持ちですか?」

「持ってるよー! ほらー!」

「遊〇王カードはいいから……」

「くりふぉーとだよー!」

「予想以上にガチカードだった……」


 いや、そんなのはどうでもいい。

 こんな感じで幼女に突っかかられてちょいちょい作業が止まる。

 そのせいでレジの進みは少しずつだが遅れている。

 一応手は動かしてるんだけどな。


「はぁ……可愛いなぁ……」

「あそぼーよー!」

「おねーさんあそぼー!」

「ごめんねー、時間があれば寝る間も惜しんで遊ぶんだけどねー」

「寝る間は惜しまないでくれよ……いらっしゃいませー」


 流香ちゃんの方もいっぱいいっぱいのようだ。

 買い溜めのお客さんが基本的に野菜や生もの、米を中心に買ってくれるのが唯一の救いだ。

 意外と段ボール単位で水を買っていく人も多い。

 あとは、インスタントな袋ラーメンとかだ。

 幼女化していない物が多いのは助かる。

 だが、ついでにお惣菜を買っていく人もやっぱり多い。


「次あたしのばーん!」

「はいはい……」


 やや手馴れてきた手つきで幼女のバーコードを読み取る。

 すると、ビービーという嫌な音がレジから聞こえて来る。

 お客さんが「何この音?」というような顔をしている。


「ん?」

「あー、これお売り出来る賞味期限を過ぎちゃったみたいですね。申し訳ありません」


 店頭に出ている商品は、店ごとに違うが大体賞味期限の数時間前ぐらいには店頭から引っ込められる。

 そしてその時間を超えた商品がうっかり店頭に残った場合、レジで弾く事が出来るようになっている。

 今回はホットドック的な奴だった。

 こういうのが残らないようにしなきゃいけないのだが、どうしても人間の作業なので見逃しが発生する。


「なぁ、お前と同じ奴他にいたか?」

「んーん、あたしで最後だったよー」

「そうか」


 他に同じ商品があればそっちをレジに通す。逆に言えば、同じ商品があるかどうか見に行かなければならない。

 幼女に残りがあるのか聞けばいいのは楽でいいな。


「じゃあ、他のパン取って来ていい?」

「はい、お待ちしています」


 しかし、これでまたレジが少し遅れてしまった。

 まぁ仕方あるまい。

 いざとなったら、店長も働かせればいいだけの話だ。





「あぁ、いたいた。これ貼ってくれないか?」

「了解でーす」


 シールを渡された。

 20%と書かれたシールだ。

 閉店までに売り切りたい惣菜類や、特に揚げ物に貼る。

 あとはパンとかおにぎりとか。


 いつもは売れ行きのチェックも兼ねた店長の仕事だが、他にやる事がある場合が多い。

 そういう時は、いつも誰かしらに押し付ける。

 まぁやったこと無い仕事って程ではない。

 問題は幼女にシール貼った事ないんだが。


「おーい、おまえら。シール貼るぞー」

「シールだー!」

「貼って貼ってー!」

「……っ!」


 予想外だった。

 幼女たちは我先にと尻を俺の方に突き出してスカートをたくし上げた。

 ケツに10%のシールが貼ってある。

 普通に考えて、この上に貼るのだろう。

 遠くから女性の、特に流香ちゃんの白い視線が飛んできているような幻覚を覚える。

 この位置は、流香ちゃんからは見えないはずなのに。

 ええい、うだうだ言ってても仕方ない。


「よーしケツだせー!」

「おー!」

「わーどんどん」

「ぱふぱふー!」


 心を無にして、バンバンお尻にシールを貼っていく。

 本当はこのシールは売れ残ってる証なんだが。

 幼女たちは、貼られる事に喜びを感じている気がする。


「これで20だー!」

「20歳は大人の女ー!」


 単純に10という数字が20になって嬉しいらしい。

 まぁ、拒否されるよりはいいか。


「なぁなぁ」

「はい、何でしょう店長」

「何できのこにも20%貼ったんだ」

「きゃーバレたー!」

「……」


 惣菜コーナーに紛れていたらしい。

 そんなに尻を出したいなら、後でいくらでもペンペンしてやる。





「ふぅ……こんなもんか」


 仕事もひと段落して、閉店作業も進んだ。

 今日は閉店後の入荷も非常に少ない。

 流香ちゃんも手伝ってくれてるみたいだし、すぐに帰れるだろう。


 スタッフルームに戻ると、ふとある考えが脳裏に浮かんだ。

 この先の部屋の一角に、廃棄予定のお弁当等が袋に入っているはずだ。

 今なら、廃棄予定の幼女が見れるかもしれない。

 ……凄い怖い。

 幼女の死んだ姿とかだったらどうしよう。


「……いつか確かめなきゃだよな」


 意を決した俺は、その部屋の扉を開いた。





「わーきつきつだー」

「ぎゅうぎゅうー」


 幼女たちがゴミ袋でぎゅうぎゅうになっていた。

 相変わらず物理法則を無視している。

 賞味期限が切れた奴もいるはずだが、そいつもまだ幼女の姿を保っている。


 賞味期限とは、いわゆる「美味しさを保障出来なくなる期限」だった気がする。

 しかし、それを越えてもすぐに食べられなくなるという訳ではないということか。


「なぁ、お前らこれからどうなるか知ってるのか?」

「ブタさんに会いに行くー!」

「行くのー!」


 店員の分を差し引いた残りの廃棄は、豚のエサになる。

 こいつらはそれを分かっているのか。


 考えても見れば、この子らにとって豚のエサになるのも人間に食べられるのも、同じ事なのかもしれないなぁ。

 悲壮感いっぱいに運ばれて行くよりはマシなのかもしれない。


「そうだ、皆で歌おう!」

「歌?」

「しらなーい」

「教えてあげるよー!」


 袋の中の幼女も、なんかそれぞれで仲良くなってる気もする。

 俺が気にしても仕方ないことだったのかな。

 これ以上深く考えないようにしながら、扉に手をかける。


「で、どんな歌なのー?」

「何かねー、仔牛さんが荷馬車に乗りながら、市場に運ばれるのー」

「面白そー!」

「うたおーうたおー!」


 俺はくるりと引き返した。

 その選曲だけは変えさせてもらおう。

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