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犬と私の1年間  作者: くまくるの
本編  犬と私の1年間
9/49

犬との同居?

「ねえ、知ってる?」

 私は凪に物凄く基本的な事から、教えなければならなかった。

「凪は、男でしょ? で、私が女」

「知ってるよ」

「男女が一緒に住むのは色々と問題があるんだよ」

「何で?」

 何で? と聞かれると困る。

「……同棲って思われるし、やっぱり世間体やら何やら……」

「同棲と同居はどう違うの?」

「え?」

 同棲と同居……。そういえば何が違うんだろう? そう思って急いで辞書を開いた。



「同棲 1つの家に一緒に暮らす事。特に結婚していない男女が一緒に暮らす事」

「同居 1つの家に2人以上が暮らす事」

 成る程。と思い辞書を凪に渡した。




「同棲って男女で暮らす事だけなんだ。ふーん。でも、僕達は同居だよね。だって柚月さんと僕と茶トラと灰色狼の4人で暮らすんだから」

「……犬は人数に入るの?」

「え? 犬は人数にいれちゃダメって書いてないよ!」

 何か違う気がする。でも、凪は本当に事務的に、便利の為に、そして何よりも犬の為に私と一緒に住もうと言っているのがわかって、1人色々と意識してたみたいで腹が立った。

「も……いいや。何でも。確かに一緒に住んだ方が犬の為・・・にはいいかもね」

 犬の為を強調して言ってやったのに、凪は全然気づかない。

「だよね。よかった。これで、今まで通りに散歩にも行けるし、灰色狼も寂しがらないし……」

 私の気持ちに気づかない。

 ここまで女の気持ちを踏みにじるヤツはある意味悪だな、と本当にイライラした。

「……もう、帰って! バカ!!」

 びっくりした顔をする凪を無理矢理部屋から追い出した。

 鍵をかけて「バカバカバカ。凪のバカ」と小さく呟くと、心配そうな顔をした茶トラがこちらを見ているのに気づいた。

「何でもないよ。凪のバカが何て言うか、世間体を全く気にしない、バカだから腹が立っただけ」

 男よりも女の方が、いっぱいいっぱい覚悟がいるのだ。

 不安や心配や怖さや勇気、そして少しの憧れと安心感。

 それを、全く理解しないで平然としている凪に腹が立ったのだ。きっと、そうだ。

「ニブイにも程があるな……」

 私は八つ当たり気味に、机の上の情報誌を、凪の部屋がある方の壁にぶつけた。




 なし崩し的に、凪と「同居」する事が決定事項になり、私達は走り回る日々を送った。

 引越し代の為に、日雇いバイトをし(2人とも夜の仕事は諦めた)、交代で2匹を散歩させる。その傍らに不動産屋巡りをした。そして私的に何よりも問題が「親に引越しする事を何て説明しよう」だった。

 まさか「犬を飼ってたら追い出された」とは言えない。言ったら最後、実家に連れ戻されてしまう……。そうして、悩みに悩んだ末、出した結論が……。



「お母さん? 私。うんうん。元気。え? お盆? うーん。ちょっとバイトがあって帰れない。うん、うん。わかってる。……でね、ちょっと相談があるんだけど……」

 電話している私の横には何故か正座してこちらを見つめている凪と、お座りして固唾を呑んでいる茶トラと灰色狼。そんなに緊張して見つめられると、こちらまで緊張してくる。

「あのね、実は引越ししようと思うの。え? ううん、そういんのじゃなくて、何ていうのか……。ちょっとこのマンショントラブルが多いというか……」

 トラブルを自分が起したと言えない。

「え? えっと、そう! 下着泥棒が!」

 ごめんなさい。泥棒さん。

「え? 警察? だって恥ずかしいし、え? うん、うん。大丈夫、それで、友達と一緒に暮らそうかな、と思って。え!! 違う! 男じゃない! 絶対に違う!」

 ごめんなさい。お母さん。

「うん、女の子同士で住んだら怖くないし、え? お金? うんうん、今引越し代貯めてるから、貯まったら場所を探して、連絡する。うん、大丈夫。1人の方が怖いし。うん、ごめんね、色々。また電話する。うん、もうバイトなんだ。ごめんね、じゃあ」

 ブチッと電話を切ってため息が漏れる。物凄く大きな嘘をついてしまった。お父さん、お母さん、本当にごめんなさい。

 罪悪感に押し潰されそうになている私に、凪は「下着泥棒が出るの? 何で相談してくれないのさ!」と間違った方面に憤っていた。

 私……本当に凪と同居しても大丈夫なのだろうか? と心配になってくる。

「嘘だよ……。それに万が一本当だったとしても凪には相談しないよ」

「え……何で?」

「何でって……」

 どの面下げて、彼氏でもない男に「下着が~」とか言わないといけないのだ。

 そういう女心がわからない所が本当にイライラする。

「兎に角! 凪には相談しない!」

 もう、この話はお終いとばかりに、私は茶トラを抱えて部屋に逃げ帰ったのだった。




 気持ちだけ焦る7月が終わり、8月がやって来た。

 大家に大口を叩いた割に、私と凪は引越し先がまだ決まっていなかった。

「ペット可」のマンションは以外に少なく、4人で暮らせて、学校にも通える範囲でバイト先にも行ける場所……なんて、中々見つからなかった。何件か物件を見に行ったけど、そのマンションに4人で住んでいる姿がどうしても想像出来なくて保留にしていた。それは、どうやら凪も同じ様で「いい家がないね」と寂しそうに呟いていた。


 4人で暮らせて、場所が便利で、暮らしているのが想像できる家。

 何でもいいから早く決めなければ! という気持ちと、この家に暮らしたいって思える家を探したいっていう気持ちの板ばさみで、グズグズと私達はいつまでも動けずにいた。


 そして、そんな私達を見かねたらしき神様が、プレゼントをくれた。

 そう思えるほどの、奇跡が起きた。






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