不快な記憶
気がつくと、俺はコンビニ前の交差点に立っていた。
ばあちゃんのために買ったおでんが手から滑り落ち、次の瞬間、俺はその場で吐いてしまった。
全身の震えが止まらない。涙も勝手に溢れ、耳の奥には、まだ断末魔の叫びがこびりついている。
夢だと思いたかった。だけど、体の反応がそれを許してくれない。
荒い息をどうにか整え、嘔吐物を片づけるためコンビニへ向かおうとした、そのとき、俺の名を呼ぶ声がした。
未来だ。
その瞬間、不快な記憶が脳裏によみがえる。
「来るな。そこで止まれ」
胃液のにおいがこびりつく喉で、俺は叫んだ。
信号を渡る途中、トラックが突っ込んでくる光景がフラッシュバックする。
これはデジャブでも予感でも無い。
俺はここで未来を庇って死んだ。確実に。
それを回避する方法はひとつだけ。二人とも動かず、やり過ごすこと。
幸い、俺の叫び声に驚いた未来は、その場で立ち止まっていた。
それでいい、そのまま動くな。
俺は道路の先へ視線を向けた。
その瞬間、背筋を悪寒が駆け抜ける。
夕日に照らされたトラックの運転席。運転手は大きめのフードを深くかぶっていて、顔までは見えない。だが、口元だけはハッキリ見えた。
そいつは、笑っていた。
そして、次の瞬間、ハンドルを乱暴に右へ切り、車体を未来の方へ向けた。
俺は反射的に駆け出していた。
間に合うはずがないのに──そう思ったが、自分でも信じられないほどの速度で体が前に出る。
地面を蹴る足の力。筋肉がしなり、速度が増していく感覚。
まるで、自分の肉体が異世界にいた頃のアルスに戻ったみたいだった。
俺は未来の体を突き飛ばした。
直後、あの言葉では言い表せない衝撃が、再び全身を貫いた。
「輪祢くんっ、輪祢くんっ!」
未来が泣きながら、俺の体を揺さぶっている。
無事で良かった──
その一言すら口にできないまま、視界が真っ暗になった。




