幼馴染のガチ恋ラブレター、相手が俺だと気づかず神アドバイスしてたらキレられた
『好きです』
ピンク色の便箋には、一言だけそう書かれていた。
「何だこりゃ」
誰もいない放課後の教室。
開け放たれた窓から、野球部が振る金属バットの乾いた音が響いてくる。
俺は思わず、呆れた声を出してしまう。
「ラブレターに決まってるでしょ。ほら、ちゃんと読みなさい」
幼馴染の彼女は、不機嫌そうに言い放つ。
いつも不機嫌そうだが、今日は特に怒っているように見えた。
美人なのにもったいないよな。
もうちょっとでも人当たりがよかったら、友達だって彼氏だって作り放題だろうに。
「いや、このデジタル社会であえて古風な手紙ってのはありだと思うよ? 思うけど、こりゃ駄目だろ」
「なんでよ」
「一世一代の告白イベントなんだからさ。もっとこう……いい感じにしたほうがいいだろ」
正直、これはない。
いや、気持ちがこもっていれば何でもいいとは思う。
いいとは思うけど、これで伝わるかと言えば、難しい。
「じゃあ、手伝いなさいよ。小学校の頃に作文で銀賞を取ってたでしょ?」
「いつの話だよ。つか、お前はテストでも学年でいつも上位なんだし、こういうのも得意だろ?」
「うるさい、いいから手伝いなさいよ」
「……はぁ、まったく。仕方ないなぁ」
大きくため息を吐く。
俺だってラブレターなんて書いた経験はない。
けれど、昔からこいつはこうだ。
俺が手伝うのを当然だと思っている節がある。
まあ、仕方ない。
子供の頃から友達のいないこいつの世話を焼くのは、今でも義務みたいなもの。
幼馴染の仕事ってやつだ。
「後でなんかおごれよ」
「わかってるわよ」
彼女はペンを握り、机の上の便箋に向き合う。
普段は見せることのない、ひどく真剣な横顔。
夕暮れのオレンジ色の光を反射して、瞳が微かに潤んでいるようにも見えた。
そんなに好きな相手なんだろうか。
まあ、好きでもなければこんなに真剣にならないか。
しっかし、俺の知らないとこでこんな風に人を好きになるなんてな。
自分のことのように嬉しい。
マジで友達とかいなくて、ずっと心配だったし。
「で、どういうことを書けばいいの?」
「そうだなぁ……まずは外見とか褒めてみるのはどうだ?」
「外見ね。任せて」
カリカリと、静かな教室にペンを走らせる音が響く。
一切の迷いなくスラスラと書き進める。
本当に、その相手に惚れ込んでいるらしい。
「できた! さあ、読んでみて!」
「どれどれ」
受け取った手紙に目を落とす。
『昼下がりの、柔らかな光。
花を慈しむ、あなたの優しい瞳。
私だけが知っている、あなたのひたむきな姿。
その温かな空気感に、私はずっと、恋をしていたのかもしれません』
うむ、さすが学年上位だな。
綺麗な文章だ。
しっかし、こいつはこういう優しい感じのやつが好きなのか。
少し意外だ。
まあ、こいつが人を好きになるなんてこと自体が驚きだけど。
……いや、待てよ。
そういえば、花といえば、なんかエピソードが……そうだ! 生徒会長だ!
いつも生徒会室の花瓶の花を変えているって言っていたな。
勉強もできてスポーツもできて、明るくて……ちょっと厳しいけど頼れるみんなの生徒会長。
うんうん、なら納得だ。
「うん、いいんじゃないか? これならあのクールな生徒会長だってオーケーするだろ」
「生徒会長?」
「ああ、あいつはいいやつだからな」
以前、校庭の花壇があんまりにもあんまりだったので、予算を貰いに行ったことがある。
そしたら、二つ返事でオーケーを貰えた。
今では俺以外の奴らも花の手入れをしていて、ちょっとした憩いの場になっている。
あいつなら、俺の大事な幼馴染を任せられるな。
「……よし、没ね」
ぐしゃっ。
彼女は俺から紙を奪うと、ためらいなく丸めてしまう。
もったいない。
いい出来だったのに、何が不満なんだ。
まあ、完璧主義なこいつのことだ。
なにか引っかかる部分があったんだろう。
「さあ、次は?」
「そうだなぁ……そいつとの特別なエピソードを盛り込むとかどうだ?」
「よし! 任せて」
再びペンを走らせる彼女。
やはり迷いがない。
そんなに好きなのか。
確かにこいつは好きになったものには一途なところがある。
バナナが好きになったら、毎日バナナばかり食ってたしな。
うちで買ったバナナもいつの間にか消えてたっけ。
「できた! はい!」
「どれどれ」
『放課後の路地裏。
私が拾った子猫を、家族に迎えてくれたあなた。
腕の中で丸まる猫を見る、あなたの穏やかな横顔。
あの光景は、私の宝物です。』
ほほう、生徒会長も猫を飼っているのか。
そういえば最近、生徒会の広報誌で「会長が捨て猫を家族に迎えた」って写真付きの記事になってたな。
それなら、泣きながらこいつが拾ってきたうちのミケと同じだ。
こいつが付き合えたあかつきには、猫トークで盛り上がれるかもしれない。
お互い捨て猫の飼い主同士だ。
こんな共通点があるなら盛り上がること間違いなし。 今から楽しみが増えたぞ。
「うん、ばっちりだな」
「で、あんたの評価は?」
「猫好きには悪いやつはいないし、捨て猫を飼うってところを褒められたら嬉しくて仕方ないだろ……そうだ! この前、お前がかわいいって言ってた首輪、どこで買えるか教えてやるよ」
「……没ね」
うーん、猫好きなんていいやつしかいないのにな。
あんな特別なエピソードを書かれたら、生徒会長だってすぐにオーケーを出すだろうに。
まったく、完璧主義すぎる。 まあ、いかにもこいつらしいけれど。
「次は?」
「そうだなぁ……ギャップを褒めるのはどうだ? 真正面から褒められるよりも、自分の意外な一面を知ってくれているっていうのは破壊力抜群だろうしな」
「なるほど……なら、こうね!」
三度、ペンを走らせる。
こいつをこんなに夢中にさせるなんて、生徒会長も罪な男だ。
ライバルも多いから、ビシッと素晴らしいラブレターを書かせてやらないとな。
「これでどうだ!」
「どれどれ」
『呆れ顔で、深くつく溜息。
厳しいところもあるあなただけど、私をいつも見てくれている。
私の勝手な頼み事も、最後には必ず叶えてくれた。
ずっと、甘えさせてくれてありがとう』
なんて器が広いんだ。
こいつの無茶振りに文句も言わず付き合ってやるなんて。
たしかに、生徒会長はクールだ。
あのクールさの裏で、こいつにはそんな優しさを見せてるなんてな。
俺は幼馴染としての義務感から、渋々付き合ってやっているだけ。
だが、赤の他人がそこまでするとは……。
「うん、これはイケるだろうな」
「あんたの評価は?」
「お前みたいなわがまま女に付き合ってくれるやつなんて、そうそういないだろうからな。生徒会長って立場を抜きにしても、おまえが気になっているのは間違いない。これなら、イケるぞ!」
「……没」
何を考えているんだ、こいつ。
こいつのワガママに付き合ってくれる貴重なやつなんていないだろ。
今の手紙で十分落ちるだろうに。
まったく、完璧主義にも困ったもんだ。
「さあ、次よ次。これで決めてやるわ」
「よし、じゃあ……最後だ。これからも一緒にいたいって気持ちを、ストレートに放り込んでやれ」
「よし、行くわよ!」
猛烈な勢いでペンが動く。
うむ、青春といった感じだな。
っていうか、こいつをここまで悩ませるなんて……。
ああ見えて、生徒会長って意外と女心がわからないやつなんだな。
晴れて恋人になったら、幼馴染として「この鈍感野郎!」ってガツンと一発言ってやらないと。
「さあ、どうだ!」
「どれどれ」
『どこまでも続く、見慣れたアスファルト。
くだらない話で笑い合う、何でもない放課後。
私が一番失いたくない、大切な宝物。
わがままを言わせてください。これからも、一緒にいてほしい。』
うん、素晴らしい。
実は少し心配していた。
こいつは美人だし、勉強もできる。
だから、近寄りがたい雰囲気があるのは間違いない。
あんな泣き虫で、いつも寂しそうにしてたこいつが、こんな風に本気で好きになれる相手ができた。
その成長に寂しさはあるけど、同時に自分のことのように嬉しい。
「うんうん、良かったな」
「で? あんたはどう思うの?」
「こんな風に気の許せるやつはなかなかいないからな。大切にしろよ」
「……」
彼女は無言で俺から紙を奪う。
くしゃくしゃに丸めて、ブレザーのポケットに押し込んだ。
そんな気安い仲なら、あれで十分だろ。
まったく、手のかかるやつだ。
「ああ、もういいわ」
「そうだな。まあ、こういうのはあんまり焦らないほうがいいからさ。なんか奢ってくれたらいつでも相談に……」
「はい」
目の前に、一枚の紙が差し出された。
パサリと、乾いた音がする。
『好きです』
最初にこいつが持ってきた、あの一言だけの便箋だ。
「いや、だから、こんなんじゃ伝わらないだろ」
「仕方ないでしょ。どこかの鈍感男は、何言っても気づかないんだから」
彼女は、氷のように冷たい目で俺を見据えている。
あ、この目は本気で怒ってるやつだ。
でも、なんでそんなに怒るんだ?
「いや、いくら鈍感でも、あれで伝わらないってことはないだろ」
手紙の内容をもう一度、頭の中で繰り返す。
「だって、植物の手入れをしてて、拾った猫を飼ってて、お前のわがままを聞いてやって、放課後は一緒に帰ってるようなやつだろ? そんなやつは……ん?」
いや待てよ。
なんで、こいつの記憶なのに、俺はこんなに理解できるんだ?
まるで俺が実際に経験したみたいにリアルな感覚があるのはなんでなんだ?
そもそも、こいつと帰るもの好きなんて俺しかいないだろ。
ん?
俺しか……いない?
いや……まさか……。
「えーと……勘違いしてたらめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。もしかして、もしかしてだけどさ。この相手っていうのは……」
「好きです。付き合ってください」
思考が停止した。
え? マジで? マジで言っているのか?
え? 俺を? この平凡な幼馴染でしかない俺を???
「あなたの一生懸命な優しさも、猫を拾ってくれた優しさも、私のわがままを聞いてくれる優しさも、いつも一緒にいてくれる優しさも。全部、大好きです」
真っ直ぐな瞳。
夕日を背に受けた彼女の顔が、りんごのように赤い。
あれほどうるさかった校庭からの声が、急に遠ざかっていく。
まるでこの世界に、俺とこいつしかいないみたいだ。
ドクン、ドクンと、自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。
「あー……わかった。返事の手紙を書くから待ってくれ」
「今は……言えないの?」
消え入りそうな、震える声。
恐る恐る見上げてくる彼女の瞳は、今にも泣き出しそうに揺れている。
ブレザーの裾をぎゅっと握りしめていた。
どうやら、驚きのあまり即答できなかった俺の態度を、拒絶だと受け取ってしまったらしい。
うーん……仕方ない。
はっきり言おう。
「だって、俺だってお前の好きなところを書かないと、不公平だろ」
「え?」
「よし、待っててくれ! お前のかわいいところを余すとこなく書いたノートを一冊、持ってきてやるからな!」
俺は言いながらカバンを掴むと、勢いよく教室を飛び出した。
「待ちなさいよ!」
「待てと言われて誰が待つかよ!」
背中越しに聞こえる彼女の声を浴びながら、急いで下駄箱へと向かう。
あんだけ恥ずかしいことを書かれたんだ。
俺だって、あいつに同じことをしてやらないと。
だって、大切な幼馴染で――これからは、恋人なんだから。
勘違い短編ラブコメの一つです。
よかったらお読みください。
幼馴染に「運命の相手を見つけた!(※勘違いです)」と宣言したら慰められた
https://ncode.syosetu.com/n8381lv/




