第9話 崩し方
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囲まれた時点で終わりだ。
それはもう、何度も理解したはずだった。
ロイはダンジョンへ向かう道を歩きながら、頭の中で状況を整理していた。
一体なら問題ない。
二体でも、逃げられる。
だが三体を超えた瞬間、選択肢が急激に減る。
問題は強さではない。
数だ。
「今日は静かだね」
肩のあたりで、リアが言う。
「考えてるだけだ」
「また群れ?」
「ああ」
短く答える。
ゴブリンは強くない。だが、弱いからこそ数が揃う。
そして数が揃えば、こちらが弱くなる。
(戦う前に崩す)
それが、今の結論だった。
ダンジョンの中は、いつもと同じだった。
湿った空気。ぼんやりと光る壁。遠くで反響する足音。
ロイはゆっくりと進む。
気配察知の感覚はまだ曖昧だが、背後に何もいないことが以前より分かりやすい。
通路の先で、ゴブリンを一体見つけた。
距離は十分。
だが、すぐには踏み込まない。
周囲を見る。横道。退路。
問題なし。
槍を構え、一気に距離を詰める。
突き、下がる。間合いを維持する。
短い戦闘で終わった。
息を整えながら、ロイは耳を澄ます。
……足音。
奥から、もう一体。
さらに、別方向からも。
「……来たか」
ロイはすぐに後退した。
だが通路が狭い。
逃げる方向を選ぶ前に、横道から影が現れる。
三体。
さらに奥から二体。
(またか)
槍を構える。
だが、分かっている。
これは勝てない。
後退する。
だが、通路の先は行き止まりだった。
判断は早かった。
それでも間に合わない。
棍棒が振り下ろされる。
衝撃。
視界が暗くなった。
目を開ける。
天井。
ロイはしばらく動かなかった。
「……同じだ」
呟く。
やり方は変えている。
だが結果が変わらない。
「焦ってる?」
リアが静かに聞く。
「……違う」
否定したが、少し間が空いた。
焦っている。
三か月という時間が、頭の奥で急かしてくる。
ロイはゆっくりと起き上がった。
「戦い方が違うんだ」
「どう違うの?」
「戦って減らすんじゃない」
しばらく考え、言葉を選ぶ。
「群れになる前に、崩す」
次の探索は、これまでよりも更に慎重だった。
ゴブリンを見つけても、すぐには近づかない。
動きを観察する。
巡回の方向。
足音の間隔。
そして――距離。
一体だけが離れた瞬間を狙う。
槍で一撃。
すぐに離れる。
追ってくるのは一体だけ。
そこで倒す。
「……これか」
小さく呟く。
戦う場所を選ぶ。
それだけで状況が変わる。
その時だった。
ゴブリンの体が光り、消える。
床に、小さな巻物が残った。
「また出たね。やったじゃん」
リアが言う。
ロイは拾い上げ、文字を読む。
《投擲補助》
少しだけ考える。
石を投げた時のことを思い出す。
狙い通りにいかず、群れを呼んだ。
もし、狙った場所に正確に投げられるなら。
「……使う」
巻物が光り、手の中で消えた。
すぐに変化は分からない。
だが、腕を軽く振った時、動きが安定している気がした。
「投げるの、上手くなった?」
「たぶんな」
ダンジョンを出た後、ロイは武器屋へ向かった。
「投げられる短剣はあるか?」
店主は棚を指す。
「安いのならその辺だ」
並んでいるのは簡素な短剣だった。
装飾もなく、刃も厚い。
投げる前提の作りだ。
ロイは数本手に取り、重さを確かめる。
失っても困らない値段。
それが重要だった。
数本まとめて購入する。
「そんなに使うの?」
店を出てから、リアが聞いた。
「失くす前提だ」
ロイは答えた。
「戻ってくるとは限らないからな」
再びダンジョンへ。
ゴブリンを見つける。
距離を取る。
投擲ダガーを一本、構える。
投げる。
刃が狙った位置に近い軌道で飛び、ゴブリンの肩に刺さった。
大きな傷ではない。
だが動きが止まる。
その隙に後退する。
追ってきた一体だけを倒す。
他は来ない。
「……いける」
初めて、確信に近い感覚だった。
戦わなくてもいい。
分断すればいい。
その後も同じ方法を繰り返す。
群れを作らせない。
一体ずつ処理する。
気づけば、これまでより奥まで進んでいた。
それでも、ロイは止まる。
「今日はここまでだ」
無理はしない。
勝てるようになったからこそ、引く。
ダンジョンの外に出る。
夕方の光が、やけに眩しかった。
「今日は死ななかったね」
リアが言う。
ロイは少しだけ笑った。
「……やっとだ」
小さく息を吐く。
群れに追われる恐怖が、少しだけ遠くなっていた。
「これなら」
東ダンジョンの奥を見つめる。
「先に進める」
ようやく、そう思えた。
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