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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第8話 足りないもの

毎日20時投稿

五体に囲まれた光景が、頭から離れなかった。


朝の支度をしながらも、ロイはずっと考えていた。


一体なら勝てる。二体でも、逃げられる。


だが五体は違った。


数が揃った瞬間、選択肢が消える。


「難しい顔してるね」


リアが空中でくるりと回る。


「考えてるだけだ」


「また死なない方法?」


「……ああ」


短く答えながら、ロイは荷物を確認する。


問題は分かっている。


囲まれる前に数を減らすしかない。


なら――。


「一体ずつ、相手にする」


「できるの?」


「やるしかない」


三か月しかない。


その言葉が、最近は無意識に頭に浮かぶようになっていた。




東ダンジョンの中は、いつもと変わらなかった。


湿った空気。ぼんやりと光る壁。遠くで響く足音。


ロイは慎重に進む。


曲がり角の前で止まり、耳を澄ます。


気配なし。


だが、それでも油断はしない。


しばらく進んだところで、ゴブリンを見つけた。


一体。


距離も十分。


問題なく倒せる相手だ。


槍を構え、一歩踏み出しかけて――ロイは止まった。


(これじゃ意味がない)


一体ずつ相手にする。


そのためには、向こうから来させればいい。


ロイは足元の小石を拾い、通路の奥へ投げた。


乾いた音が響く。


ゴブリンが反応し、こちらへ向かってくる。


狙い通りだった。


だが――。


奥から、別の足音が重なった。


もう一体。


さらに、もう一体。


「……まずいな」


ロイはすぐに後退した。


だが通路が狭い。逃げる方向が限られる。


曲がり角を曲がった瞬間、前からも影が現れた。


挟まれた。


(読み違えた)


石の音に反応したのは、一体だけではなかった。


距離を取ろうとする。


だが数が多い。


槍を振るう間もなく、間合いを詰められる。


棍棒が肩に当たる。


体勢が崩れる。


次の瞬間、視界が暗くなった。




目を開ける。


見慣れた天井。


ロイはしばらく動かなかった。


「……音か」


呟く。


音で集まる。


それを理解した。


「一歩前進?」


リアが言う。


「……失敗だ」


ロイは短く答えた。


だが、立ち上がる。


止まっている時間はない。




二度目の挑戦は、少し慎重だった。


石は使わない。


通路の広い場所だけで戦う。


そう決めて進む。


ゴブリン一体を見つけ、後退しながら広い場所へ誘導する。


ここまでは上手くいった。


だが、戦闘中に気づく。


後ろから、気配。


振り向いた時には、もう遅かった。


二体目。


さらに奥から三体目。


(またか……)


足運びで距離を取る。


だが下がった先が行き止まりだった。


逃げ場がない。


槍を突く。押し返す。


だが、数が減らない。


囲まれる。


棍棒が振り下ろされ――。




再び、天井が視界に入った。


今度はすぐに起き上がった。


舌打ちしそうになり、ロイは口を閉じる。


「……分かってるのに」


小さく呟く。


やり方は間違っていないはずだった。


だが結果は同じだ。


「ちょっと急いでない?」


リアの声は、いつもより静かだった。


「急いでない」


否定したが、言葉に力がなかった。


三か月。


その時間が、頭のどこかで焦らせている。


ロイは深く息を吐いた。


「……もう一回だ」




三度目の探索。


今度は戦闘そのものを減らす。


倒すのではなく、避ける。


それを意識して進む。


ゴブリンを一体倒した時だった。


光が残り、床に小さな巻物が落ちる。


「また出たね」


リアが言う。


ロイは拾い上げ、文字を読む。


《気配察知(微)》


少しだけ、迷った。


だが今回は長く考えなかった。


「使う」


巻物が光り、手の中で消える。


直後、何かが変わったわけではない。


だが、空気の流れのような違和感が、わずかに分かる気がした。


背後。


何もいない。


それでも、さっきまでより安心できる。


「背中を取られにくくなる、かな」


「それなら十分だ」


ロイは小さく頷いた。




帰り際、入口近くで冒険者とすれ違った。


鎧の傷が多い男だった。


どこかで見た気がする。


――いや、見たのではない。


前の探索でも、同じ場所で似たように戻ってきていた男だ。


だが向こうは、ロイに気づいた様子もない。


「最近、奥の方は群れが多いらしいぞ」


男は仲間にそう言いながら通り過ぎていく。


ロイは足を止めなかった。


同じ話を、何度か聞いた気がする。


けれど、それを確かめる方法はない。


自分だけが覚えている。


それだけだった。




ダンジョンの奥へ視線を向ける。


「……足りないな」


ロイは小さく呟いた。


技術も、判断も。


まだ足りない。


だが、止まるわけにはいかなかった。

いつもありがとうございます。


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