第15話 見慣れない気配
毎日20時投稿
中層へ足を踏み入れることが、特別なことではなくなっていた。
最初に入った日の緊張は、もうない。浅い層を抜けるまでに時間も体力も使わなくなり、気づけばそこはただの通過地点になっていた。
ゴブリンは少ない。
スライムも点在する程度。
危険というより、確認作業に近い。
何日か同じことを繰り返すうちに、体が覚えてしまったのだろう。どこで止まり、どこで進み、どこで戻るべきかを、考えなくても判断できるようになっていた。
「最近、早いね」
肩のあたりを飛びながら、リアが言う。
「戦う回数が減っただけだ」
倒せる相手でも、時間がかかるなら避ける。無理に進まず、持ち帰れる分だけ持ち帰る。
やっていることは変わらない。
ただ、迷うことが減った。
中層に入って少し進んだところで、ロイは足を止めた。
通路の脇、壁際に小さな箱が置かれている。
これも、もう珍しくはなかった。
「またあるね」
「ああ」
宝箱。
中層に入るようになってから、時折見かけるようになったものだ。
最初に見つけたときは罠を疑ったが、何度か確認した限りではそういうものではないらしい。開けると中身が入っていて、それだけだ。
蓋を開ける。
中には魔石がいくつかと、小さな革袋。それと巻かれた羊皮紙が入っていた。
ロイは羊皮紙を手に取る。
「またそれ?」
「スキルスクロールだな」
最近、時々入っている。
文字を確認するが、見慣れない名前だった。
効果を完全に理解できるわけではないが、少なくとも今の戦い方に必要なものではない。
槍で距離を保ち、危険になる前に下がる。
それだけで足りている。
「使わないの?」
「今は必要ない」
ロイは迷わず袋にしまった。
ギルドで売れば、それなりの金になる。
使い道が分からないものを抱えておくより、装備や消耗品に変えた方がいい。
商売と同じだ。
価値は、使える場所で決まる。
探索は順調だった。
ゴブリンは単体ばかりで、問題にならない。スライムも、位置さえ把握していれば危険はない。
戦闘の回数が減った分、奥まで進む時間が増えた。
気づけば、これまでよりもさらに深い場所まで来ていた。
それでも、緊張はない。
浅い層とやることは変わらない。
「中層って、こんなものなんだな」
「どうだろうね」
リアは曖昧に答えた。
通路を進んでいると、ふと違和感があった。
気配察知に、かすかな反応。
敵というほど強くはない。だが、ゴブリンともスライムとも違う。
ロイは足を止め、上を見上げる。
天井の暗がりに、何かが動いた気がした。
光がわずかに反射する。
細い線のようなものが、揺れている。
「……何かいるな」
「かもね」
リアの声はいつも通りだった。
攻撃してくる様子はない。
距離もある。
ロイはしばらく様子を見ていたが、やがて視線を外した。
追う理由がない。
危険かどうかも分からない相手に近づく必要はなかった。
進む。
それだけだ。
さらに奥へ進むと、魔物の気配が変わった。
数が少ない。
代わりに、空間が広い。
足音が少し響く。
ロイは自然と歩く速度を落とした。
気配察知に、今までとは違う反応が引っかかる。
重くない。
だが、速い。
次の瞬間、通路の奥から影が飛び出した。
低い唸り声。
地面を蹴る音。
灰色の毛並みをした獣が、ロイの前で足を止める。
ゴブリンでも、スライムでもない。
鋭い牙を見せ、低く身を沈めている。
「……新しい魔物か」
ロイは静かに槍を構えた。
獣は唸り声を強め、わずかに体を揺らす。
飛びかかる寸前の姿勢だった。
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