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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第11話 止まらないもの

毎日20時投稿

ダンジョンに潜り始めてから数日。

朝の空気は、少しだけ暖かくなっていた。


食卓にはすでに父とルイが座っていて、レイは荷物の整理をしながらパンをかじっている。


「今日も東か?」


レイが顔を上げて聞いた。


「ああ」


「無理して奥に行くなよ。慣れてきた頃が一番危ない」


ロイは軽く肩をすくめた。


「分かってる」


実際、その通りだった。


慣れたから死なないわけではない。慣れたからこそ判断を間違える。


それはもう、何度も経験している。


母が皿を置きながら言った。


「最近、顔色がいいわね」


「怪我してないからな」


ロイが答えると、父は何も言わずに頷いた。


否定も、止めもしない。


ただ帰ってきていることを確認している。


それだけで十分だった。




街はいつも通り賑わっていた。


買取所の前で順番を待っていると、後ろの冒険者たちの会話が耳に入る。


「最近スライム出てきてないか?」


「ああ、あれ面倒なんだよな。倒したと思っても動くし」


「装備やられたら終わりだ」


ロイは何も言わずに聞き流した。


スライム。


名前だけは知っている。


だが実際に戦ったことはない。


自分の番が来て、袋の中身を渡す。


ゴブリンの魔石がいくつか。


値段を確認し、頷く。


大きな利益ではないが、安定している。


それでいい。




ダンジョンの中は、相変わらず薄暗かった。


湿った空気。壁の淡い光。


ロイはいつも通り、曲がり角の手前で止まる。


気配察知に意識を向ける。


何もいない。


進む。


ゴブリンを一体見つけ、投擲ダガーで動きを止めてから槍で仕留める。


危険はない。


以前なら緊張していた距離も、今は落ち着いて測れる。


「余裕だね」


リアが言う。


「余裕じゃない。危なくないだけだ」


ロイは短く答えた。


危険になっていない。


それが一番重要だった。




しばらく進んだところで、違和感に気づく。


通路の中央に、何かがある。


半透明の塊。


ゆっくりと、形を変えながら動いている。


「……あれか」


「スライムだね」


リアが言った。


ロイは距離を取ったまま槍を構える。


動きは遅い。


危険には見えない。


だが、近づかない。


一歩踏み込み、槍を突き出す。


手応えはあった。


だが――。


スライムは止まらない。


槍を引き抜いても、形を変えながらこちらへにじり寄ってくる。


「……効いてない?」


「核あるよ。真ん中」


リアの声。


ロイは一度距離を取り、動きを観察する。


中心に、わずかに濃い部分が見えた。


次の突きはそこを狙う。


槍先が中心を貫いた瞬間、スライムの動きが止まった。


そのまま崩れ、淡く光って消える。


「……なるほど」


ロイは小さく息を吐いた。


倒せないわけではない。


ただ、普通に攻撃しても意味がないだけだ。


「槍なら安全だね」


「ああ」


距離を取れる。


それだけで、危険はほとんどない。




さらに奥へ進む。


通路の端に、錆びた剣が落ちていた。


刃はところどころ溶け、形が歪んでいる。


近くには破れた革鎧の一部。


戦闘の跡だった。


ロイは触らない。


状況だけを理解する。


スライムに時間を取られ、装備を傷めた。


その後、別の魔物に襲われた。


よくある話だ。


「面倒な敵だね」


「倒せるけど、長引く」


ロイは呟いた。


なら、無理に戦う必要はない。


勝てるかどうかではなく、損をするかどうかだ。




帰り際、二体のスライムが通路を塞いでいた。


倒せない相手ではない。


だが、時間がかかる。


奥から気配もある。


ロイは迷わず引き返した。


「戦わないの?」


「装備を傷める意味がない」


それだけだった。




ダンジョンの外に出た後、ロイはスライムのドロップを確認した。


小さな半透明の結晶。


触るとひんやりしている。


買取所で値段を聞き、少しだけ眉を上げた。


「ゴブリン魔石より上か」


全部は売らない。


一部だけ換金し、残りは袋に戻す。


今すぐ金にする必要はない。


価値は、後で上がるかもしれない。




再びダンジョンへ戻った時、ロイは足を止めた。


壁の隅。


糸が張り巡らされている。


前より明らかに多い。


だが魔物の気配は少ない。


静かすぎる。


「……今日はここまでだ」


理由は説明できない。


だが、進むべきではないと分かる。


リアも何も言わなかった。




帰り道。


ロイはふと思った。


前より奥まで来ている。


前より安全に動けている。


それなのに――。


奥へ行くほど、何かが減っている気がした。


音も、気配も。


まるで、何かが場所を空けているように。


ロイはその考えを振り払う。


今はまだいい。


無理をする理由はない。


帰る場所があるのだから。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。

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