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不遇スキル【撤退】しか持たない商家の三男、死ぬたびに最適解を見つけてダンジョン攻略  作者: 昼ライス


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第10話 帰る場所

毎日20時投稿

朝、階下から聞こえてくる声が、いつもより少し賑やかだった。


ロイは顔を洗いながら耳を澄ます。


父の低い声。母の明るい返事。そして――もう一つ、聞き慣れた声。


「……帰ってきたのか」


小さく呟き、階段を降りる。


食卓には、見慣れた顔が一つ増えていた。


「おう、ロイ」


振り返ったのは次男のレイだった。旅装のまま椅子に座り、パンをかじっている。


「昨日の夜に戻ったんだ。隣町の仕入れが長引いてな」


「聞いたぞ。冒険者になったんだって?」


責めるような口調ではない。ただ、確かめるような声音だった。


「……なった」


ロイが答えると、レイは少しだけ息を吐いた。


「誕生日、間に合わなくて悪かったな」


その言葉に、ロイは少し驚いた。


「別にいいよ。仕事だったんだろ」


「それでもだ」


レイは懐から小さな包みを取り出し、テーブルの上に置いた。


「遅れたけど、二十歳の祝いだ」


開けてみると、細い鎖のついた銀色のネックレスだった。中央には小さな石がはめ込まれている。


「……これは?」


「簡単な防護の魔道具だ。被ダメージを少しだけ減らす」


レイは肩をすくめる。


「大したもんじゃない。商人が護身用に持つ程度のやつだ」


だが、その言い方とは裏腹に、安い物ではないことはロイにも分かった。


「冒険者になるなら、せめてこれくらいは持ってろ」


少しだけ言葉を選んでから、続ける。


「無茶はするなよ。帰ってくるのが仕事だ」


その言葉に、ロイは小さく笑った。


「分かってる」


本当に、その通りだった。


死なないこと。


帰ってくること。


今の自分がやっているのは、それだけだ。


ネックレスを首にかける。ひんやりとした感触が胸元に落ち着いた。


不思議と、少しだけ安心した。




朝食の後、ロイは街へ出た。


市場はいつも通り賑わっている。荷車の音、商人の呼び声、値段交渉のやり取り。


この空気は嫌いではない。


ドロップ品を買取所へ持ち込む。


受付の男が袋の中身を確認し、値段を告げる。


ロイはすぐには頷かない。


素材の状態。量。需要。


頭の中で計算する。


「……少し安いな」


「最近は持ち込みが多いんだよ」


男が肩をすくめる。


ロイは少し考え、半分だけ売ることにした。


残りは後日。価格が戻る可能性がある。


全部を今売る必要はない。


損をしないことが大事だった。




武器屋にも寄る。


投擲ダガーを数本補充する。


「消耗が早いな」


店主が言う。


「投げてるんで」


「回収できないのか」


「できる時もあります」


短いやり取り。


必要な数だけ買う。


余計なものは持たない。




東ダンジョンの入口は、今日も人が多かった。


ロイは軽く息を吐き、中へ入る。


湿った空気。ぼんやりと光る壁。


だが、以前ほど緊張はしなかった。


曲がり角の手前で止まり、気配を探る。


何もいない。


進む。


ゴブリンを見つける。


距離を取り、投擲ダガーを投げる。肩に刺さり、動きが止まる。


すぐに後退。


追ってきた一体だけを倒す。


他の気配はない。


「……うまくいってるね」


リアが言う。


「ああ」


短く答える。


勝っているという感覚ではない。


危険になっていない。


それが分かるだけだった。


その後も同じように進む。


戦わなくていい状況は避ける。


無理に奥へは行かない。


気づけば、以前なら引き返していた位置よりも先にいた。


それでもロイは止まる。


「今日はここまでだ」


「まだ行けそうだけど?」


「行けると帰れるは違う」


リアが苦笑する。




戻る途中、ロイは足を止めた。


壁の隅。


細い糸が張り付いている。


前よりも、少し多い気がした。


触れない。


近づかない。


ただ、覚えておく。


「……あっちは、まだいいんじゃない?」


リアがぽつりと言った。


理由は聞かない。


聞く必要もなかった。


今は、まだ早い。




夕方、家に戻ると夕食の準備ができていた。


母が料理を並べ、父とルイが仕事の話をしている。レイは荷物の整理をしながら口を挟んでいた。


いつもの光景だった。


「今日はどうだった?」


レイが聞く。


「問題なし」


ロイは椅子に座りながら答える。


「ちゃんと帰ってきたか」


「それが仕事だろ」


レイが笑う。


ロイも小さく笑った。


食卓に並ぶ料理。交わされる何気ない会話。


この時間が続けばいいと思う。


――三か月後の光景を、ロイだけが知っている。


だからこそ、無理はしない。


今はまだ。


これでいい。


そう思いながら、ロイは静かに食事を口に運んだ。


いつもありがとうございます。


面白いと思っていただけたら、

★★★★★評価・ブックマークで応援していただけると嬉しいです。


本作は毎日更新中です。

明日もお待ちしています。

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