第9話 「雪景色と、沈黙と、心の温度。」
サービスエリアを出て、車はまた走り出した。
窓の外は、白が少しずつ増えていく。
さっきまで賑やかだった車内は、
不思議と静かだった。
眠気というより、
“見とれている”に近い沈黙。
雪が舞う。
道路脇の木々は、薄く白をまとって、
まるで絵の中に入ったみたいだった。
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「……きれい。」
ぽつりと紗月が言う。
それだけで、十分だった。
友奈は窓に額を寄せ、
「ね。音まで静かになる感じする。」と小さく笑う。
美結はカメラを構えず、
ただ目で景色を追っていた。
写真に残すより、
胸にしまいたい瞬間もある。
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後部座席。
陽芽は、膝の上で手を重ねている。
(こんな時間、久しぶりかも)
誰かと一緒にいるのに、
無理に話さなくていい時間。
それが、こんなにも落ち着くなんて。
隣の小春は、
お菓子袋を抱えたまま、いつの間にか眠っていた。
寝息は小さくて、
それがまた、安心を連れてくる。
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前の席。
叶はハンドルを握りながら、
ミラー越しに後部座席を一度だけ確認する。
みんな、ちゃんと楽しめてる。
その事実だけで、胸が温かい。
(この旅、来てよかった)
そう思った瞬間、
隣から視線を感じた。
瑞希だった。
言葉はない。
ただ、目が合う。
ほんの一秒。
でも、
その一秒が、
心に触れるには十分だった。
瑞希は小さく目を逸らす。
叶は気づかないふりをして、前を見る。
けれど、
胸の奥に残った余韻は、
ふたりとも消せなかった。
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「……もうすぐ着くよ。」
叶の声は、
雪の音に溶けるみたいに優しかった。
その一言で、
車内に小さなざわめきが戻る。
「え、もう!?」
友奈が身を起こす。
「温泉街だ……!」
美結が声を弾ませる。
陽芽はシートベルトを握り、
そっと息を吸った。
(ここから、何か変わる気がする)
理由はない。
でも、確信だけがあった。
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温泉街の灯りが、
白い景色の中にぽつぽつと浮かび上がる。
提灯の明かり。
湯気。
ゆっくりと流れる時間。
車が速度を落とし、
やがて静かに停まった。
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ドアが開く。
冷たい空気が一気に流れ込む。
「寒っ……!」
友奈が笑いながら肩をすくめる。
「でも、いい匂いする。」
紗月が言う。
硫黄と、
冬の夜の澄んだ空気。
それは、
“旅先の匂い”だった。
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> 雪景色の中で、
誰も言葉にしなかった気持ちは、
それぞれの胸で、
静かに温度を上げていく。




