第8話「サービスエリアの魔法〜小さな優しさに、恋が触れる〜」
高速を走り続けてしばらく。
窓の外の景色は少しずつ雪景色に変わっていった。
「そろそろ休憩しよっか。」
叶がゆっくりとハンドルを切る。
サービスエリアの屋根には、
うっすらと雪が積もっていて、
冬の匂いがどこか甘く漂っていた。
みんな車から降りると、
冷たい空気が頬に触れて、
眠気が一気に覚める。
◆ 友奈と美結の“ワクワク温度”
「やった〜〜!休憩っ!」
友奈はすでに売店の方向へ歩き出している。
「ねぇねぇ!ご当地ソフトあるよ!!」
美結もテンションが最高潮。
「えっ、寒いのにソフト!?」
小春が笑う。
「寒い時のソフトっていちばん美味しいんだよ〜♡」
美結のキラキラした笑顔に、
友奈もつられて笑う。
こういう明るさって、
人を元気にするんだな、と
叶は後ろから見守って思う。
◆ 瑞希に起きた、小さな事件
瑞希は静かに歩きながら、
自販機の前で足を止める。
(……温かいミルクティーにしよ)
ボタンを押した瞬間。
「きゃっ……!」
手から小銭が転がり、
冷たい地面へ跳ねた。
コロコロ……コロ……
止まらない。
(うそ……やめて……)
追いかけたその時。
「まって、瑞希ちゃん。」
紗月がしゃがみ込んで、
転がる小銭をそっと拾った。
「……はい。」
にこ、と柔らかく笑って差し出してくれる。
「ありがとう。」
瑞希は受け取りながら、
胸の奥がふわっと温かくなるのを感じた。
たったそれだけなのに、
心が軽くなる。
(紗月……優しいな)
雪よりやわらかい気持ちが、
瑞希の中に落ちていった。
◆ 陽芽の“勇気の一口”
売店では、小春がカゴいっぱいに地元のお菓子を入れていた。
「これ!山形限定の味なんだって〜!!」
「……すごい。楽しそう。」
陽芽がくすっと笑う。
「ひめちゃんも食べてみる?」
小春が差し出す。
陽芽は戸惑いながら――
「……一口だけ。」
ぱくっ。
その瞬間、目が丸くなる。
「……おいしい。」
小春が嬉しそうにはねた。
「でしょ〜〜〜!!ひめちゃんが食べてくれて嬉しい!」
陽芽の胸に、
ふわっとやさしい風が吹く。
(嬉しいって言ってくれるんだ……)
自分の小さな行動で誰かが喜んでくれる。
それだけで、陽芽の世界が少し広がった。
◆ 叶の“気づいてしまった優しさ”
トイレに向かう途中。
叶の手から、ハンドタオルがふわりと落ちた。
拾おうとした瞬間、
すっと誰かの手が先に届く。
「落としたよ。」
瑞希だった。
「ありがとう。」
叶は微笑む。
瑞希はその笑顔を見て、
胸が少しだけ軋んだ。
(……なんだろう、この感じ)
言葉にできない。
でも、
“特別”の輪郭がうっすら浮かぶ。
叶は気づいていない。
でも瑞希は――
自分の心がふわっと揺れるのを感じていた。
◆ 全員そろって、改めて“旅”が始まる
外に出ると、空から小さな雪が舞っていた。
「雪だ……!」
紗月が指を伸ばす。
「きれい……」
陽芽がそっとつぶやく。
友奈はくるくる回ってはしゃぐ。
美結はスマホで動画を撮る。
小春は“雪ソフト”を買っている。
叶はそんなみんなを見て、
やわらかい気持ちになった。
そして瑞希は――
叶の横顔を少しだけ長く見ていた。
(……どうしよう)
(今日、もっと好きになりそう)
サービスエリアにいるだけなのに、
旅の魔法は確かに始まっていた。
> 小さな優しさが、
すこしずつ恋の形をつくっていく。
まだ誰も気づいていないけれど、
この旅で心は確実に動き出していた。




