第7話 「車内恋トーク② 〜忘れたい恋、忘れられない恋〜」
好きなタイプの話で盛り上がったあと、
車内にふわっとした余韻が漂った。
甘くて、照れくさくて、
ちょっとだけ胸の奥をくすぐる空気。
だけど、
友奈が次に投げた質問で、
その空気が少し変わった。
「ねぇさ……
“忘れられない恋”って、ある?」
一瞬、
風の音だけが窓の外で鳴った。
車の中の言葉たちは、
ゆっくりと凍りついたみたいだった。
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◆美結が最初に口を開く
「……あるよ。」
美結は、
景色を見るような目で前を向いた。
「高校のときね、
一緒に帰ったり、誕生日に手紙くれたり……
そういう、なんでもない時間が好きだったなぁって。」
友奈が小さく呟く。
「美結ちゃん……そういうの似合う……」
美結は照れながら笑った。
「でもさ、
気づいたときには終わってたんだよね。
“あ、この人とは高校までなんだ”って。」
静かだけど、
胸に触れてくる言葉だった。
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◆陽芽の、弱くて優しい記憶
「……ひめも、ある。」
陽芽の声は震えていた。
「中学のとき……
すごく仲良くて。
でも、私が“好き”って気づいた頃には、
その子の好きな人が別にいて……」
陽芽はぎゅっと手を握る。
「言わないままで終わったの。
だから、
忘れたいのに、忘れられない。」
美結がそっと背中に手を伸ばす。
瑞希も黙って聞いている。
紗月が柔らかく言った。
「……陽芽ちゃん、えらかったね。」
その言葉だけで、陽芽の肩の力がふわっと抜けた。
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◆紗月は、静かな恋をしていた
「私も……少しだけ。」
紗月はいつものように控えめ。
けれど言葉の中に、深い優しさがあった。
「友達として大切すぎて、
“好き”って言ったら壊れちゃいそうで……
そのまま終わっちゃった。」
瑞希が目を伏せる。
「紗月……」
紗月は笑った。ほこっと。
「でもね、
“言わなくてよかった”って思う時もあるの。
想い出って、
大事にすると優しくなるから。」
車内に、柔らかいため息が広がった。
◆友奈の恋は、明るい声で隠されている
「私もあるよ!」
友奈が明るく言う。
でもその声の奥の、薄い影に気づくのは叶だった。
「私さ、めちゃめちゃ好きな人がいたのに……
告白したら“友達のままがいい”って言われて。
それでも友達続けちゃったんだよね〜〜」
笑いながら話すけれど、
瑞希の胸がきゅっとした。
(……つらかっただろうな)
けれど友奈は、
笑い声のままで言った。
「でも!
今はもう大丈夫だよ♡
だって今日から温泉旅行だし!!」
その明るさが、みんなを救っていた。
◆そして、瑞希の番が来る
「……瑞希は?」
友奈が振ると、
瑞希はほんの少しだけ息を飲んだ。
(話さなくてもいいのに)
(でも、聞かれてる)
窓に白い息が映り、
少しだけ時間が止まった。
「あるよ。」
その声は、静かで小さかった。
「……忘れたい恋。
でも、忘れられない。」
その一言に、
全員の視線がゆっくり瑞希に向いた。
瑞希は続ける。
「相手のこと、すごく大事だったのに……
その人は私を選ばなかった。
……それだけ。」
それ以上は言わなかったし、
言えなかった。
でもそれで十分だった。
紗月がそっと言った。
「瑞希ちゃん……無理しないでね。」
瑞希は微かに笑う。
強く見えて、誰より繊細な笑顔。
◆叶の言葉は、痛みをそっと包む
「みんな……」
叶が前を向いたまま、やわらかく言う。
「恋ってさ、
忘れようとしても、
忘れられないときの方が多いよね。」
誰も否定しなかった。
「でも、
忘れられない恋があったから、
今日の私たちがいるんだと思う。」
その言葉が、
雪の降る空気みたいに静かで優しく、
みんなの胸に落ちた。
車の中は、
さっきまでより静かで、
でも不思議とあたたかかった。
>あのときの痛みも、
今日の旅で少し溶けるといい。
そんな願いを乗せて、
車は温泉街へと走り続けた。




