第28話 「ロビーの窓辺で、二人だけの時間。」
朝のブッフェを終えて、
部屋へ戻る途中、みんなの足取りはゆっくりだった。
「チェックアウト、まだ時間あるよね。」
友奈が言う。
「うん、少しだけ。」
叶が時計を見ながら答える。
「じゃあロビー行こ。」
美結が言う。
「あそこ、朝の光きれいだった。」
全員が自然に頷いた。
ロビーは、昨日の夕方より静かだった。
窓の外には雪。
柔らかい光が床に広がっている。
「……いい朝だね。」
紗月が言う。
「ほんと。」
彩羽も頷く。
ソファに座り、
みんなそれぞれゆったりとした時間を過ごす。
友奈と美結は、昨日の写真を見て笑っている。
小春はラウンジのコーヒーを飲みながらくつろいでいる。
紗月と彩羽は窓の外の景色を見ていた。
その中で、
瑞希は陽芽に目で合図した。
陽芽は小さく頷く。
二人は静かに席を立った。
ロビーの窓際。
人の少ない場所。
外には白い景色が広がっている。
しばらく、
二人とも言葉を探していた。
「……昨日さ。」
瑞希が先に口を開いた。
「うん。」
「ありがとう。」
「え?」
陽芽が少し驚く。
「話、聞いてくれて。」
瑞希は視線を窓の外に向けたまま言う。
「普段、
あんまり話さないから。」
「そうなんだ。」
陽芽は静かに答える。
「でも、
昨日は……
話したくなった。」
その言葉に、
陽芽の胸が少しだけ高鳴る。
「私も。」
陽芽が言った。
「昨日、
自分のこと話して、
ちょっと怖かった。」
「怖い?」
瑞希が聞く。
「うん。」
陽芽は笑う。
「でも、
瑞希が聞いてくれてたから。」
瑞希は、
その言葉をゆっくり受け止めた。
少しだけ沈黙。
でも、
気まずくない。
むしろ、
この静けさが心地いい。
「……陽芽。」
瑞希が名前を呼ぶ。
「ん?」
「もしさ。」
一瞬、
言葉を選ぶ。
「この旅が終わっても、
また話せる?」
陽芽は、
少しだけ驚いた顔をしてから、
すぐに笑った。
「……うん。」
それだけで十分だった。
ロビーの遠くで、
友奈の声が聞こえる。
「そろそろ戻るよー!」
美結の笑い声も混ざる。
二人は顔を見合わせて、
同時に笑った。
「行こ。」
陽芽が言う。
「うん。」
瑞希が頷く。
ソファへ戻ると、
友奈がすぐに気づく。
「どこ行ってたの?」
「ちょっと散歩。」
瑞希が答える。
「ロビー散歩。」
小春が笑う。
美結は、
何も言わずに二人を見て、
少しだけ意味ありげに笑った。
チェックアウトの時間が近づく。
荷物を持ち、
玄関へ向かう。
スタッフの丁寧な見送り。
外の空気は冷たいけれど、
心は不思議と温かかった。
車に乗る前、
友奈が振り返って言う。
「ねえ。」
「また来ようよ。」
誰も迷わなかった。
「うん。」
その答えは、
全員同じだった。
旅は終わる。
でも、
この時間は終わらない。
雪の温泉街の朝に、
八人の小さな物語が、
静かに続き始めていた。




