第26話 「朝風呂と、湯気の中の本音。」
朝の浴場は、夜とは少し違っていた。
窓から差し込む光が、
湯気をやわらかく照らしている。
「夜より明るい。」
紗月が小さく言う。
「なんか、現実に戻る感じ。」
小春が肩まで湯に沈みながら答える。
「でも好き。」
友奈は大きく息を吐いた。
「朝の温泉、特別感ある。」
湯の温度は少し熱く感じる。
眠気が、じわっと溶けていく。
瑞希は、
窓際の湯に静かに浸かっていた。
隣に、陽芽がいる。
夜よりも近い距離。
「……昨日さ。」
陽芽が、湯面を見つめたまま言う。
「うん。」
「話してくれて、
嬉しかった。」
瑞希は、
少しだけ目を細める。
「……別に。」
そっけないけれど、
否定ではない。
陽芽は、くすっと笑った。
「瑞希ってさ、
怖がりだよね。」
一瞬、空気が止まる。
「……なにそれ。」
「期待されるの、怖いって言ってた。」
瑞希は黙る。
湯気がふわっと流れる。
「でもさ。」
陽芽は続ける。
「それ、
ちゃんと向き合ってるってことだと思う。」
瑞希は、ゆっくり息を吐いた。
「……陽芽は?」
「私は。」
少し考えて、
「気づくのが遅いの、
もうやめたい。」
「……どうやって。」
「わかんない。」
陽芽は笑った。
「でも、
ちゃんと見たいなって。」
その言葉が、
瑞希の胸に落ちる。
少し離れたところでは、
友奈と美結が湯の中で向き合っていた。
「昨日さ。」
美結が言う。
「好きになるの怖いって言ってたじゃん。」
「うん。」
「でも、今は?」
友奈は、天井を見上げる。
「……ちょっとだけ、
怖くない。」
「誰のせい?」
「それ聞く?」
友奈は笑った。
「まだ内緒。」
「ずるい。」
美結も笑う。
でも、
二人とも気づいている。
この旅が、
何かを変え始めていること。
紗月と彩羽は、
静かに湯に浸かっていた。
「紗月はさ。」
彩羽が言う。
「自分の幸せ、
ちゃんと考えてる?」
紗月は少し驚いて、
それから考える。
「……最近は、
ちょっとだけ。」
「それでいいと思う。」
彩羽は微笑んだ。
「優しい人ほど、
自分を置いていくから。」
紗月は、
その言葉を静かに受け止めた。
湯から上がる頃には、
全員の顔が、少しだけ違っていた。
昨日より、
ほんの少しだけ素直。
昨日より、
ほんの少しだけ前向き。
脱衣所で髪を乾かしながら、
友奈が言う。
「ねえ、
このあと朝ブッフェだよね。」
「メインイベント二日目。」
小春が言う。
「今日の朝、
なんか特別な気しない?」
陽芽が小さく言った。
「する。」
瑞希は短く答える。
理由は、
誰も言わない。
でもわかっている。
昨日の夜と、
今の朝。
その間で、
何かが確実に芽生えていた。




