第24話 「部屋で、過去の恋をほどく。」
部屋に戻ると、
外のにぎやかさが嘘みたいに静かだった。
畳の上に座布団。
浴衣の裾を整えながら、
それぞれが自然な位置に落ち着く。
「……はぁ。」
友奈が息を吐く。
「今日、濃すぎない?」
「山寺からここまでだからね。」
小春が笑う。
「一日分じゃない。」
布団はまだ敷かれていない。
でも、もう夜の空気だった。
「ねえ。」
友奈が声を落とす。
「今ならさ、
ちょっと重い話しても、
大丈夫な気しない?」
一瞬、
沈黙。
でも、
誰も嫌な顔はしなかった。
「……恋バナ?」
美結が聞く。
「うん。」
友奈は頷く。
「過去のやつ。」
「来た。」
小春が言う。
「深夜テンションのやつ。」
「でも、嫌じゃない。」
紗月が小さく言った。
「じゃあ私から。」
友奈はあっさり言った。
「高校のとき、
めちゃくちゃ好きな人がいた。」
「知ってるやつ?」
美結が聞く。
「うん。」
友奈は笑った。
「でもさ、
好きすぎて、
自分が重くなってる気がして。」
「あるある。」
小春が即反応する。
「で、振られた。」
友奈は肩をすくめた。
「嫌われたわけじゃないのが、
一番つらかった。」
部屋が静かになる。
「今は?」
美結が聞いた。
「今は……」
友奈は少し考えて、
「好きになるの、
ちょっと怖い。」
正直な言葉だった。
次に、
美結が口を開く。
「私はね、
付き合うと、
頑張りすぎるタイプ。」
「想像できる。」
小春が言う。
「でしょ。」
美結は苦笑した。
「相手に合わせて、
自分が何したいか、
わかんなくなる。」
「それ、疲れるよね。」
紗月が静かに言った。
「うん。」
美結は頷いた。
「だから今は、
好きになる前に、
ちょっと様子見ちゃう。」
「……私も。」
紗月が、少し迷ってから言った。
「好きになると、
相手の幸せを優先しちゃう。」
「自分のは?」
小春が聞く。
「……後回し。」
紗月は小さく笑った。
「それ、優しいけど……」
陽芽が言いかけて、言葉を探す。
「……苦しくなるよね。」
紗月は頷いた。
陽芽は、
膝の上で手を握りしめていた。
「私は……
好きって気づくの、
いつも遅い。」
「どういうこと?」
友奈が聞く。
「相手がいなくなってから、
あ、好きだったんだって思う。」
陽芽の声は小さかった。
「それ、しんどい。」
美結が即答する。
「……うん。」
陽芽は少し笑った。
「だから、
今度は、
ちゃんと気づきたい。」
瑞希は、
しばらく黙っていた。
視線が集まる。
「……私は。」
短く息を吸う。
「誰かに好かれると、
一歩引く。」
「え。」
友奈が驚く。
「嫌じゃなくても。」
瑞希は続ける。
「期待されると、
怖くなる。」
「裏切りたくないから?」
彩羽が静かに聞いた。
「……たぶん。」
瑞希はそれ以上言わなかった。
でも、
その一言で、
瑞希が今まで見せなかった部分が
少しだけ見えた。
最後に、
彩羽が言う。
「私は……
恋愛を、
ちゃんと考えすぎる。」
「考えすぎ代表。」
小春が即言う。
「うん。」
彩羽は苦笑した。
「好きになる前に、
向いてるかどうか考える。」
「それ、恋始まらなくない?」
友奈が言う。
「だから。」
彩羽は静かに言った。
「今は、
考えすぎない練習中。」
しばらく、
誰も話さなかった。
でも、
重くはなかった。
「……なんかさ。」
小春が言う。
「みんな、
ちゃんと悩んでるよね。」
「うん。」
叶が頷く。
「だから、
今の距離感、
ちょうどいいのかも。」
誰も否定しなかった。
布団を敷く音がして、
部屋の灯りが少し落ちる。
横になりながら、
それぞれが思う。
過去の恋は、
消えない。
でも、
話したことで、
少しだけ軽くなった。
そして、
今日生まれた気持ちは、
まだ名前がない。
それでも、
明日はきっと、
今日より少し素直になれる。




