第21話 「ブッフェ前夜、最初の恋バナ。」
ラウンジの時計が、静かに時を刻んでいる。
グラスの中身は、
さっきよりほんの少しだけ減っていた。
「そろそろブッフェの時間だよね。」
叶が言う。
「うん。でも……」
美結がソファにもたれたまま、にやっと笑う。
「この空気、もう一回作るの大変そうじゃない?」
「なに、その前振り。」
小春が警戒する。
「大丈夫。」
美結は楽しそうに続ける。
「重いやつじゃないから。」
友奈がすぐに乗った。
「じゃあ軽いやつね。
はいどうぞ。」
一拍置いて、
美結が言う。
「……好きな人、いる?」
一瞬、
ラウンジの音が遠くなった気がした。
「出た〜。」
小春が笑う。
「王道すぎて逆に逃げ場ないやつ。」
「軽いって言ったよね?」
紗月が苦笑する。
「でも、聞かれるとドキッとする。」
友奈はそう言いながら、
自分のグラスをくるくる回している。
彩羽は、少し考えてから言った。
「今、って意味?」
「今。」
美結が頷く。
「過去じゃなくて。」
「……なるほど。」
彩羽はそれ以上言わなかった。
沈黙が流れる前に、
小春が手を挙げる。
「じゃあ私から。」
一呼吸置いて、
「今はいない。」
「即答。」
友奈が突っ込む。
「でもね。」
小春は続ける。
「いないって言えるくらい、
今は楽しい。」
「それ、めっちゃ小春っぽい。」
美結が笑う。
「でしょ。」
小春は肩をすくめた。
「次。」
友奈が指を差す。
「美結。」
「私?」
美結は一瞬だけ間を置いてから言った。
「……気になる人、はいる。」
「はい来た。」
小春が即反応。
「どこ?」
友奈が前のめりになる。
「まだ内緒。」
美結は笑ってかわす。
「今日中にわかるかもだけど。」
「含ませ方がプロ。」
彩羽が静かに評価する。
紗月は、少し迷ってから口を開いた。
「……私は、
好きって言えるほどじゃないけど、
気になる人はいる。」
「おお。」
友奈が声を上げる。
「でも、たぶん……
その人が幸せなら、それでいいかなって。」
「紗月、それ優しすぎない?」
美結が少し真顔になる。
「……そうかな。」
紗月は困ったように笑った。
陽芽は、ずっと黙っていた。
視線が集まる。
「……私は。」
小さく息を吸って、
「正直、よくわからない。」
「それも全然あり。」
叶がすぐに言った。
「でも……」
陽芽は続ける。
「今日、
誰かと一緒にいると安心するなって思った。」
瑞希の指が、
ほんの少しだけ止まる。
誰も名前を言わない。
でも、
空気はちゃんと理解していた。
最後に、
自然と視線が集まる。
瑞希。
「……私は。」
一拍置いて、
「今はいない。」
「ほんと?」
友奈が半分冗談、半分本気で聞く。
瑞希は視線を上げずに答えた。
「……今は、聞く側。」
「ずるい言い方。」
小春が笑う。
「でも瑞希っぽい。」
彩羽が静かに言った。
叶は、みんなを見渡してから言った。
「じゃあ……
今日はこのくらいで。」
「えー。」
友奈が不満そうに言う。
「ブッフェあるから。」
叶が笑う。
「続きは、あとで。」
その一言で、
空気が一気に動き出す。
「よし、行こ!」
「お腹すいた!」
「今日のメインイベント!」
立ち上がりながら、
誰かがぽつりと言った。
「……なんかさ。」
美結だった。
「このあと、
ちょっとだけ世界変わりそう。」
誰も否定しなかった。
ブッフェ会場の灯りが、
廊下の向こうに見える。
恋はまだ、
始まったばかり。
次は
夜のブッフェ、
笑顔と視線と、
少しだけの嫉妬。




