第2話 「出発前の胸騒ぎ。」
旅行が決まったその日の夜。
各自のスマホは、いつもより忙しそうだった。
グループチャットには、
写真、スタンプ、笑い声みたいなメッセージが途切れなく流れていく。
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「浴衣どうしよ〜〜!」
友奈からのテンション高めなメッセージ。
「私は白地のがいいな。雪に映えそう。」
美結はゆるい口調だけど、言うことはちゃんとおしゃれ。
「私は……ピンクの花柄がいい……」
紗月のメッセージはいつも少し控えめで、柔らかい。
「私はパジャマあるから浴衣いらない(冗談)」
瑞希の短文は、なぜかみんなを笑わせる。
「やめて。着ろ。」
叶がすぐ反応した。
まるでお母さんみたいなくせに、声の温度は甘い。
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そのあと、話題は自然と恋へと流れていく。
友奈が投げる。
> 「旅行中、誰か恋に落ちると思う人~?」
軽いノリなのに、
誰もすぐには答えなかった。
既読だけが増えていく。
その沈黙が甘くて、くすぐったくて、
心の奥がじんわりと温かくなっていく。
最初に返したのは陽芽だった。
> 「……そんなの、落ちたいに決まってるよ」
一瞬でスタンプが飛び交い、
笑いが溢れる。
でも――
それを読んだ誰もが、
ほんの少し胸が熱くなる。
(落ちるって言葉、いい。)
(わかる。)
(なんか、いい。)
そんな想いが漂った。
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メッセージの流れが一度落ち着いた頃、
叶がふと送る。
> 「恋するとさ、景色変わるよね」
短い。
けれど、ふわっと響く言葉。
美結が続ける。
> 「わかる。
同じ景色なのに、ちょっと優しく見えるやつ。」
瑞希が返す。
> 「……そう思える恋って、いいよね。」
その言葉には、どこか遠い影が落ちていた。
気づいた子も、
気づかなかった子もいた。
でも、
その言葉は確かにグループの空気を変えた。
静かに、
柔らかく。
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小春が送った最後の一文で、会話は締めくくられた。
> 「じゃあさ。
旅のルール決めない?」
> 「恋に落ちるの、止めないこと。」
その瞬間、画面越しでも空気が照れた。
でも誰も否定しなかった。
むしろ——
返ってきたのは、誰かの
「了解♡」
だった。
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ベッドの中。
スマホの光がまぶしい。
雪降る予報の画面を眺めながら、
胸の奥に灯るものを、
誰もまだ名前で呼べない。
だけどそれは、
確かに始まっていた。
> 旅はまだ始まっていないのに、
心だけ先に動き出していた。




